「正しいと思うことをする」ということ

2017年7月26日。京都に滞在中,神社の住所を伝えてタクシーを呼ぶと,車内で宗教の話になった。ドライバーさんは,お坊さんから聞いた話を教えてくれた。

「色んな宗教があるけど,お坊さんたちの間では,どの宗教が正しいことやってるっていうのはみんな分かってるらしいんですわ。

だから私聞いたんです,なんで正しいと思ってる宗教をせんのですかって。
そしたら『もうここまで民衆騙してしもたら,もう後には引き下がれへんねん』って。」

神や天といったものが何かを人間に伝えたいとき,誰かの口を借りることがあると言う人もいる。もしそれが本当なら,それはドライバーの口を通して,かなり明示的に言語化された。

茶道を習うときに流派や教室を選ぶのは,入信する宗教を選ぶことに近い。
私は信仰する宗教(=流派)がなく,お茶の「正しさ」を,何かしらの神がかった対象に依拠することはできない。


その4日前,2017年7月22日。京都に到着した次の日に出逢ったおばあさんは,外でお茶を点てていた私たちの周りをうろついた後,敷地の管理者らしき人を呼んできた。(※この記事の写真は,その場所とは一切関連はありません)
私は「写真を撮ってます」と答えたが,管理者は「なんでそういう風(お茶とお菓子)にしてはるんですか」と訊いてきた。正確には「質問」ではなく,不快感の表明だった。


私が毎日点て続けてきたお茶の写真を振り返っても,なんでお茶とお菓子をこういう風にしてるのかは不明だ。
少なくとも,その人達が納得するような答えは出ない。

すみませんすぐ片付けますと答えると,通報したおばあさんは「おいしそうなお茶点ててますのや,すーっごくおいしそうなの」と言い残した。私は「いえいえ」と,普通に褒められたときと同じ反応をする。

飲食禁止とは書いてない場所。もちろん写真も禁止されていない。

何が禁止されたのだろう。何が「正しくなかった」のだろう。


私のお茶は基本的にオンライン上にあり,通常見せているのは写真としてのお茶だけ

久々に人のいるところでお茶を点てれば通報される。ただし通報したそのおばあさんも,私のお茶を飲んだ訳ではない。


その前日,2017年7月21日。京都への新幹線に乗る前に,ある著名なお茶人さんにお会いした。私が一人に文句を言われている間に,遥かに大勢の目にお茶を晒してきた人だ。

 
「(茶道界を)僕ら(=若いお茶人さんたち)が変えるのか,次の人が現れるのか。新しい風が吹くといいですけどね」と言っていた彼は,次のように話していた。

「奇抜な茶会をしたりすると,皆さん一枚の写真しか見ない訳で,それで判断される。

でもこれもお茶なんですって,言えたなって,言えばよかったなって今は思いますね。」


 
あの2017年の7月。研究対象のお茶人さんから,通報してきたおばあさん,そしてタクシードライバーさんという順番に話を聞いたことになる。

ここに書き連ねた順番とは逆で,実際には,東京に帰ってくるときから京都に向かう時へと,時系列を遡るように話が繋がる。

バラバラの状況で出逢った彼らの口を通して,言語化されたバラバラの内容。

「正しいと思ってる宗教」をしないお坊さんのエピソードも,「なんでそういう風にしてはるんですか」という不快感の表明も,「正しくなかった」お茶も,「これもお茶なんです」という言葉も。

確かに,あるメッセージが届けられたように感じた。

ある日突然,2014年の1月から,家でも外でも毎日お茶を点ててきた。なんでそういう風にしてるのか,尋ねられるまでもなく自分でも分からなかった。

分からないからこそ,答えを出すべく毎日のお茶と研究を続けてきた。
「これもお茶だ」という主張にまだ自覚的でなかった頃に着手し始めた論文も,この言葉に貫かれていた。今思えば,その主張ありきで選んだ研究対象の方々ではあるのだが。

修論のあとがきにも書いたように,自分のしてることや信じてることが正しいという自信があった訳ではない。

それでも,「お茶じゃない」「正しくない」と言われる筋合いはない,とだけ思っている。

「なんでそういう風にしてはるんですか」という質問の答えは,きっと複合的だ。正しそうな回答をしようとすればするほど,答えから遠ざかる。

言葉にならない分は,カメラやSNSのような使える限りの手段で伝えてきたつもりだった。

でももう少し「文字」を使おうと思う。
信仰対象を持たないのなら,自分で正しさを見つける努力は必要だ。


(「マガジン名に「人類学」と入っていると身構えて書けないので,「これも「お茶」だと言い続ける」に変更します)

また,「皆さん1枚の写真しか見ない」という発言にもある,茶会とSNSの関連に関しては以下の記事でまとめています。


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おかげさまで更新頑張れます🍵
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これも「お茶」だと言い続ける

毎日点てるお茶,茶人の修士論文,バーチャルろくろ。バラバラに見える活動に共通していたのは,ある主張でした。
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