「地域おこし」考⑧

都市部から田舎にIターンされた方、特に若い方は「何か地域のためにやらなければ」という不思議な義務感に駈られ移住して間もなく事業化される方も少なくない。中には1年も経たないうちに村議会議員や村長選に立候補してみたり(笑)

私からすると「いやいや…ちょっと落ち着きましょうよ」と思ってしまうのです。そうすると「こんな眺めもよく自然に囲まれて素晴らしい地域は他にはない。受け入れ体制を整備して情報発信をしっかり行えば人は来ると思うんです」と真剣な顔で言われてしまうんですが…都会から来た貴方にとってみればそうかもしれませんが、長野県内を渡り歩いている私にとってみると同じような地域が県内だけでも山のようにあるんですけど…と感じてしまうんです。

そのためには地域の歴史を知ること。町や村の図書館へ行けば町・村誌を代表にその地域に関する歴史の本がたくさんあります。それを読んだだけではダメです。そこで知ったことを地域の人と話すときに小出しにしていくんです。これは「この地区のことをよく調べているなぁ」と感じてもらうと共に、その内容の事実確認の意味もあります。

歴史の本というのは今の体制に都合よく書かれているので本当のことが書かれているとは限りません。実際、ある村で村誌編纂をしていたときにその村で長年商売をやっている社長さんが村から資料の提出の依頼を受け断ったという話を聞きました。その理由を尋ねてみると「私が資料を出すことによりご先祖様の不名誉が明らかになる家が沢山ある。そこまで過去のことを蒸し返して事実を知らしめる必要はない」…そういった配慮も多分に含んでいるのである。

そんなことを踏まえながらも、それほど肩肘を張らずに「地域おこし」ありきの感覚を一旦なくして、移り住んだ地域で自分の生活様式に取り入れられる何か「面白いな」とか「楽しいな」と思えることをまずは個人や少数で楽しみながら情報発信はしていく。別に地域の独自性を出したり他の似たような地域との差別化を図る必要はないと思います。移り住んだ人に限らず同じようなことをしてみるといいと思います。徐々に関心のある人が集まってきますし、他分野であっても「楽しい」「面白い」を発信している同地域の人は不思議といつの間にか繋がってくるんです。その情報発信の中には自分のやっていることの他に、その地域の四季の移ろいや文化などを少し織り混ぜる…やっていることと関連付ける必要はありません。そうすると「○○村の△△さんがやっている□□が面白そう」と自分のこと+地域のことが広まっていきます。そうするとその地域のことを気にするようになるのです。日本全国に数多ある「田舎」からその地域との「縁」のきっかけを個々で発信する…村の役場や観光協会が「いい村だよ」と情報発信しても所詮発信元は2つしかないのです。それがその地域に住む人が自分のSNSに「♯○○村」と付けてあげるだけでその地域を全く知らない人とその地域との「縁」のきっかけは格段に増えるわけです。

これが私の言う「他人に迷惑をかけない『自己満足』事業の集合体」というやつです。

ただ重要なのが「他人に迷惑をかけない」が重要です。近頃、自分の権利や自由、個性を主張が先立ち、周りに対する「思いやり」が足りない人も多いのは事実です。「思いやり」を「妥協」や下手すると「負け」と捉える人も多いようですが、日本国憲法においても権利や自由の行使においては「公共の福祉に反しない限り」という条件があるように法律で規制されてないからといってなんでもありではコミュニティというものは成り立ちません。

行政と手を組んだ方が大きなことができるということもありますが、そうするとその地域において敵が増えること、失敗した場合は自治体が拠出したお金の損失以外の全責任を背負わされる(成功した場合は全て自治体の手柄になりますが)…「やる前から失敗するって思っているやつがいるかっ‼」とアントニオ猪木に怒られそうですが、私が仕事上で関わった創業案件は約半分が3年以内に失敗しています。

なので「地域おこし」の取組を行う場合は他のある程度安定した収入が確保できる事業と並行するか、趣味として始めるのがいいかなと思っております。私も「地域おこし」事業に関わっていますが、本業は別にある(とはいってもそちらも間接的に「地域おこし」と関わっているのですが)のである意味「趣味」です。

「とは言ったって『趣味』でやるにはお金がかかるんじゃない?」という人もいるでしょう。

「地域おこし」というと巨額の金をかけてハードからソフトまで整備しなきゃいけないイメージがあるでしょうが、前から申し上げてあるように私の推奨する「地域おこし」は「他人に迷惑をかけない『自己満足』事業の集合体」、各人が部相応、自己満足の範囲内で行えばいいのです。

例えば、私時々とある地域の里山の登山道整備に行きます。一応「地域おこし」活動の一環なので村は多少の手間賃はくださいますが、元々山登りが私の趣味なので報酬なしでも全く気になりません(最初に参加した際に報酬辞退を主張したのですが村としてそれでは困るというので仕方なしに貰っています)。

また、その地区で「地域おこし」活動をしている方が開催しているイベントに参加することも十分に「地域おこし」の活動になると思っています。

「地域おこし」事業を継続していくには補助金に頼らない安定的な収益の確保が必須条件になりますが、そのレベルというのは簡単に何の経営経験もない人間がパッと首を突っ込む次元の世界ではないと思います。営業や企画というのはサラリーマンや公務員時代に経験されている方も多いと思いますが、収益管理や資金繰りまでやられている方は少ないと思うので徐々に経験を積んでいった方がいいと思います、家族を養う人ならなおさら。

~つづく

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