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不死鳥編後半~極神編の環境の思い出

ここらへんについて詳しく書かれたところがあまり見当たらないので。

不死鳥編で売上が落ち込み戦国編でリブート期を迎える、デュエマのV字回復の過渡期と言える時期であったことから、語る人が少ないのも当然なのかもしれない。
かくいう自分もここは最初に引退して復帰する直前・直後の時期であるため、当時続けていたプレイヤーから聞いた話や、各大会の結果、当時のプレイヤーのブログ・個人サイト、そして実体験から伺い知れる内容を時系列順に書いていきたい。

2007年1月 グランドチャンピオンシップ開催

グランドチャンピオンシップ、これは2006年に二度行われた公式大会の全国優勝者が戦い真の日本一を決めるというものだ(なお、本来なら夏のOP優勝者としてささぼー氏が出場するはずだったが、公式からの再三の電話に気が付かず失格となり準優勝のhiro氏が出場することになったらしい)。

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1月15日より《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》とライブラリアウト(以下LO)呪文3種がプレミアム殿堂になることが既に発表されており、新殿堂が適用された上でゲームが行われた。
この殿堂でトップメタの【除去サファイア】および【除去LO】はメインコンセプトになるカードが消滅した。これを受けて、次期環境トップの有力候補となっていたのは青赤緑の【牙バジュラズ】

グランドチャンピオンシップOP準優勝 牙バジュラズ

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マナブーストから《バジュラズ》や大型フィニッシャーに繋げる低速ビートダウンデッキ。《バジュラズ》は除去されにくく、当時のインチキドロソ《チューター》も積めたのでリソース負けしにくい。かつては《ボルバル》や《サファイア》と組むことも多かった《バジュラズ》だが、それらが消えたあとの理不尽系フィニッシャーは《バジュラズ》だった。

しかし、hiro氏が持ち込み、グランドチャンピオンシップOPを制したのは【ボルメテウス・コントロール】であった。

グランドチャンピオンシップOP優勝 ボルメテウス・コントロール

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除去コントロールの遍歴

【ボルコン】の前に、【除去コン】というデッキの遍歴について語らねばなるまい。緑抜き基盤の【除去LO】、通称【除去コントロール】(LO呪文禁止化までは一般的に【除去コン】はこれのことを指す)は11弾で《魂と記憶の盾》《ベリックス》が登場して成立した。
当時の環境と言えば大《アクアン》時代。あまりに【アクアン】ミラーが多いため【アクアン】系デッキは《ジェノサイド》標準搭載は勿論、《スケルトン・バイス》の採用枚数を減らして《ロスト・ソウル》を積んでいたほどだった。
そして、2004年全国大会の日本一決定戦RGクラスでは、【アクアン】にメタを張った【アクアン】デッキとして【アクアン除去】(快快コンと呼ばれていたとかなんとか)が優勝を勝ち取った。

このあと、《アクアン》が殿堂入りして《ボルバルザーク》の時代が来るが、《アクアン》が1枚でも【除去コントロール】は強かった。
《ボルバル》が4枚使えた最後の公式大会である2005年SCBは7会場のOP優勝者のうち4人が【ボルバル】・3人が【除去コン】であり、「時間無制限なら【除去】が最強」が一種の定説と化していた。
当時「ボルバルザークを禁止に!運動」を行っていた某炎上系店長は、その中で「確かに【ボルバル】を対策した強いデッキは作ろうと思えば作れる。例えば【除去コントロール】がそう。しかし、【ボルバル】を【除去コン】で対策して行き着くのは暗黒のゲームだ。《ボルバル》《バイス》《ヘルスラ》《ロスチャ》、これらはゲームの面白さという意味でデュエルマスターズの癌」という旨の発言を残している。

そしてその言葉を受けたかのように、その年7月、《ボルバルザーク》《スケルトン・バイス》《ヘル・スラッシュ》《ロスト・チャージャー》が殿堂入りした(何故かwikiなどでは《ヘルスラ》《ロスチャ》は翌年に殿堂入りしたかのように記述されているが誤り)。
【除去コン】は主要パーツ3枚殿堂入りという大打撃を受けたが、回収を増やせば《フューチャー・スラッシュ》を加えた3枚体制でも十分回すことができ、【ボルバル】系デッキも殿堂入りで弱体化したのでまだ強かった。この時期は《裁》全盛期ということもあり【除去ボルバル】【除去コン】といった手札にカードを溜め込むデッキが強く、《ロスト・ソウル》が大流行。「先行ブーストロストゲー」とも評された(【除去コン】すらも各色チャージャーから《ロスト》を打つと強かった)。
この後、《ボルバル》がプレミアム殿堂入りするが、【除去コン】も全体除去兼主要ドロソとも言える《裁》の殿堂入りで弱体化。

《サファイア》期の【除去コン】もやはり強く、【茄子サファイア】に有利であったためトップメタの地位を強固なものにしていたが、そこに目をつけられ《ゲート》+《サファイア》を【除去コン】に組み込んだ【除去サファイア】も誕生し、《サファイア》期最強デッキとして名を馳せた。こちらは《サファイア》に強い《サファイア》デッキというだけでなく、《サファイア》フィニッシュが難しい場合は【除去】基盤を活かして《ヘルスラ》《ロスチャ》によるLOプランに切り替えられる点が強力だった。
06年夏の日本一決定戦は前評判通り、予選でも【茄子サファ】を使用していた九州代表以外のほとんどが【除去サファ】【除去コン】を使用していたが、それをガンメタした【チューザビート】が日本一になったのも有名な話。
そして2007年1月、《サファイア》とLO呪文3種のプレミアム殿堂が発表される。06夏の【除去】系一色ぶりを考えると、《サファイア》が消えるだけでは【除去コン】の勢いは衰えずに暴れ続けるのは目に見えていた。同時にLO呪文は《ボルメテ》のような殴るフィニッシャーの存在意義を大いに低下させてしまっていたため、ここで消えたのは必然だったように思える。

これほど長期間環境に君臨したデッキだが、あまり知名度は高くなく、中には「LO呪文の規制は(カード・デッキ自体は大したことがなかったが)相手のデッキに触れてトラブルになるから」と誤解する人もいる。
これは、現代の【ハンデス】デッキ同様にカードリストを見てもあからさまに壊れているカードが少ない点や、当時の公式大会の時間制限ルールにより扱える人間がほとんどいなかった(特にLO呪文殿堂入り直後はそれが重くのしかかっていた)点などが大きな要因だろう。
しかし、規制の直接の理由はやはり強すぎるという点にある。当時のトッププレイヤーの1人であるささぼー氏は自身の動画内で「2005年~2006年の環境は除去コンを選ぶのが正解で、一番強いデッキだった」と語っており、実際に《アクアン》殿堂以降も毎回のように【除去コン】の主要キーカードが殿堂入りしている(が環境に残り続けた)点からも、間違いなくこの時代を代表するデッキの一つと言って差し支えない。

さて、話が逸れてしまったが、隆盛を極めていた【除去コン】は2007年1月の新殿堂によって主力フィニッシャー兼妨害手段を根こそぎ奪われる形となってしまった。他方、【茄子ゲート】デッキは踏み倒し先に《スペル・デル・フィン》を獲得していたが、出せば速やかにフィニッシュが可能な《サファイア》には明確に劣り、ビートへの回答にならないだけでなく、リアニメイト特有のバウンスへの弱さから返しに《サーファー》や《コーライル》で戻されるだけで厳しく「夢のあるデッキ」へとランクダウンした。
これらが【バジュラズ】系デッキが最強だと考えられる一因だったわけだが、【除去コン】は相手の山から有効札を抜き取ることが不可能になり妨害の質は一段落ちてしまったものの、軽量ハンデスや《魂と記憶の盾》といった基盤の多くはまだ健在だったため、フィニッシャーに《ボルメテ》を据えて素早くフィニッシュする【ボルコン】や、ロックギミックと《ダフトヘッド》を採用してLOに拘る【除去ダフトヘッド】へ姿を変え、トップメタをキープした。その他、【除去アルファ】や【除去マイン】といった進化クリーチャーで殴り勝つタイプの【除去】も少数ながら生き残った。

グランドチャンピオンシップは一度きりの勝負ではあったのだが、新殿堂の環境を占うには最適の場であり、【バジュラズ】が【除去コン】に敗れたという結果はメタゲームそのものに影響を与えた。

2007年2月 不死鳥編 第5弾発売

23弾は《光波の守護者テルス・ルース》以外で使えるカードがないと言われた悲しみのパックである。実際、当時《テルス》以外は環境で見られなかったので仕方ない。

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【牙バジュラズ】・【ランデス】系デッキがべらぼうに強い時代ということで、白のコントロールが1コスト軽い《シュノーク・ラー》を獲得したのはそこそこ大きなポイント。《クローン・バイス》や《パラ・オーレシス》とコストが被らなくなり使いやすくなった。

ここから春にかけて、【牙バジュラズ】系デッキは自由枠の多さを活かし、不利対面の【除去コン】を意識して、《デル・フィン》《ザーディア》をタッチ(この時代のタッチ白は大体この2種が積まれている)した【白牙】や、【除去ボル】よろしく《ロスト・ソウル》などハンデスを加えた【黒牙】にマイナーチェンジしたものが増えていく。特に【牙デルフィン】はこれ以降主流デッキになる。

【除去コン】【バジュラズ】以外としては【赤単】【青単】速攻に加えて、【ガーディアン】【イニシエート】【グランド・デビル】【連ドラ】といった種族デッキ、【黒ランデス】【茄子ゲート】【グール】なども一定の強さを誇っていた。

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2007年3月 コロコロ・ドリームパック2発売

人気カードを集めた再録パックシリーズ。入手機会の限られた優良プロモもいくつか再録された。
今回の新規カード5枚のうち、《神託の守護者ミント・シュバール》、《翔竜提督ザークピッチ》は既存デッキを補強するカードだった。

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《神託の守護者ミント・シュバール》は【除去ガーディアン】のささやかな強化に繋がった。
トップメタの一角である【牙バジュラズ】が《デル・フィン》を積むようになり、純正の【除去コン】は壊されやすくなっていた。【除去コン】側も対策に《バベルギヌス》を積んだり《サーファー》を増量したりもしたが、デッキコンセプト的に限界があった。また種族デッキとしての【ガーディアン】は、【青単】を止めるのが難しかったり対【バジュラズ】系に穴があったりするだけでなく、【除去】系統に対しても不安があった。
【ガーディアン】の基盤を【除去】に寄せた【除去ガーディアン】は、クリーチャーコントロールとしての面を持ち《デル・フィン》で詰み辛く、《ミスト・リエス》を積むので《ロスト》耐性もある。《マリエル》と軽量ハンデス・《盾》により【バジュラズ】やビート全般に強い。など、互いの脆い部分を解消出来るため環境的に強く、夏に向けて数を増やしていく。

また、《翔竜提督ザークピッチ》の登場で、【連ドラ】のハンデス耐性が向上した。【連ドラ】は既に22弾の《インフィニティ》によって高い除去耐性を獲得していたが、【除去コン】系に対してはハンドは軽量ハンデスで枯らされやすく、《ルピア》が盾に送られてしまい不利な状況を作られることもあった。しかし《ザークピッチ》の登場によって《クロバイ》を連打されても一定のハンドをキープしやすく、《インフィニティ》に繋げるまでの難易度が下がり【除去コン】に対して更に強くなった。速攻にまるで勝てないことや不安定なことは全く変わらないが、遅いデッキ全般に対しての優位性は増した。

2007年4月 大型チャンピオンシップ SCS開催

例年、春と夏との年2回開かれていた公式大会だったが、この年の春は小学生以下のみのルールしかなかった。
それを受けて、代替として大手カードショップ主催の100人規模の非公式大会「スプリングチャンピオンシップ」(いわゆる第一回おやつCS)が行われた。

結果としては、1位青赤緑の【牙ビートダウン】、2位は【除去ガーディアン】、3位【赤緑連ドラ】、4位【牙デルフィン】となった。
1位の【牙】は《バジュラズ》が不採用で《クリスタル・パラディン》が入っているという、この時期としては珍しい形の純粋な中速ビートダウンデッキだが、それ以外の入賞者はテンプレに近いものが多い。

この頃は後に比べて大規模なCSが行われる機会は極めて少なかった。というかこれがデュエマ初の大規模CSだった。
この大会結果、特に【連ドラ】がトーナメントレベルのデッキに進化していることを改めて実証した影響は大きかった(競技プレイヤー向けの大会であるため苦手な【速攻】対面が少なかったのも大きいと思われるが)。

SCS3位入賞 赤緑連ドラ

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※当時大会サイトのレシピでは合計38枚で明らかな誤記があったが《バルガゲイザー》が2枚になっており、恐らくここは4枚だろうと判断して4にしている。

2007年6月 極神編1弾発売

新シリーズ極神編がスタート。初期のゴッドは性能が芳しくなく、勝舞くんの切り札の《武者》の実用性も怪しかった。そのため、新たなデッキコンセプトになるカードよりも《ドルボラン》や《母なる紋章》のような既存デッキを強化するパーツが高評価を得た。が、最も話題を集めたのは《海王龍聖ラスト・アヴァタール》である。

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《アクア・パトロール》と揃えれば2枚で相手の盾を全て焼く即死コンボ「ラストパトロール」。発売当初は裁定が固まっておらず、例えば「シールドゾーンに置くと加えるは違うのではないのか?」という質問を問い合わせても回答無しだったが、しばらくしてそれらは同一、つまりコンボ可能との回答が出た。

ラストパトロール

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※《牙》+《デル・フィン》を積んだものもあったらしい。

2枚両方を合わせると11マナとかなり重いが、《大地》を駆使すれば揃えるのは容易。流れの一例として、手札に《パトロール》+《大地》、マナに《ラスト》含む6マナ、場に何かがいる状態から、《大地》で《ラスト》を場に→《パトロール》召喚でシールド全焼却。クリーチャーに余裕があればそのまま殴って終わりだし、ブロッカーが大勢いても次ターン《ディメンジョン・ゲート》→《パラディン》で終わり。厄介なシステムクリは《大地》で退かせば良く、ランデスは《テルス》で対策できる。
コンボデッキらしくハンデス耐性は低く、無敵のデッキというわけではなかったが、お手軽な盾全焼却コンボは理不尽極まりなく、何より《パトロール》対策に《パトロール》を積むくらいなら自分も【ラストパトロール】を使おうという発想になるのがよろしくない。
結局、公式サイドは8月から《パトロール》をプレミアム殿堂にすることを発表して事なきを得た。

2007年7月 スーパーデッキ ゼロ発売

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スーパーデッキ第一弾、 「ヘヴン・オブ・ドラゴン」「バイオレンス・エンジェル」が発売。新規カードは《エールフリート》のみなので本来はここで紹介するほどのものでもないのだが、当時はやや事情が異なる。
昔は、小学生がガチデッキを組むのは情報量的にも資金的にも難しいものがあった。子供の寄せ集めデッキ、いわゆるジャンクデッキの割合が高く、DRに行っても(言い方は悪いが)安牌の相手が非常に多かった。汎用トリガーなんて全部合わせても4枚も持っていないよ、という子もいた。
「【ボルバル】期は右見ても左見ても【ボルバル】一色だった」と誇張されることがあるが、実際のところはガチデッキを組む(組める)割合が限られており、ピークでも非公認大会くらいだとちゃんとした【ボルバル】デッキを組んで参加していたのは全体のうちせいぜい1/2以下に収まるのではないかと思う。
しかし、不死鳥編から構築済みデッキの完成度が段違いに上がったことで大会の平均的なレベルが底上げされていった、という経緯がある。

今回発売されたスーパーデッキ2種、これらは安価(この収録内容で定価なんと税込み2k)な上、コンセプトがはっきりしていて汎用トリガーも4投とデッキ自体がよく出来ているだけでなく、「ヘヴン・オブ・ドラゴン」=【連ドラ】は下手なコントロールでは食われかねないし、「バイオレンス・エンジェル」=【天門】は下手なビートでは返り討ちに遭う、という補完関係を持つ。
無論、初心者の握ったそれに対してならばしっかり構築したデッキとプレイスキルがあれば高い勝率を計算出来るが、それでも以前と比べて勝ち上がりやすさはかなり減った(裏を返せば、初心者でも勝ち上がるチャンスを得た)。

2007年8月 公式大会 サムライリーグ開催

サムライリーグ大阪大会と東京大会が開催される。
春大会は前述の通り小学生のみだったうえ、夏の方は例年の地区→全国の形式ではなく場所も2会場でしか行われなかったため、プレイヤー達は肩透かしを食らった。
メタゲームで春から最も大きく変わったのは、【ランデス】が《母なる紋章》を獲得したことでcipを使い回ししやすくなった点か。

まず、11日の大阪OPではレシピをシェアした【除去ガーディアン】が1・2位。3位は【茄子ゲート】、4位は【大地ランデス】となっている。

サムライリーグ大阪大会OP優勝 除去ガーディアン

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※準優勝者は《ミント・シュバール》1→2、《パルピィ・ゴービー》1→0、《予言者マリエル》3→2、《リバース・チャージャー》0→1、《ミスト・リエス》2→3、《デーモン・ハンド》4→3と細部が異なる

これ以前の【除去ガーディアン】は《グロリアス》2《デルフィン》1が多かったが、こちらは1:2になっている。回収手段の少ないデッキなのでここの枚数配分の差は結構大きい。ちなみに決勝戦は【除去ガーディアン】ミラーだったが、片方は事故気味で一方的な試合だった模様。

レギュラークラス以下は去年同様プレイが簡単で安価な速攻やビート系が人気で、特に上位は【青単】や【グランド・デビル】が多い。
昔は公式大会では1度負けたら終わりの形式が多く、上級者からは速攻系デッキは敬遠されやすかった。この年はガンスリンガーで4連勝で勝ち抜け・負けても並び直し可能というもので、時間の許す限り何度も挑戦できたことも有利に働いたのかもしれない(ただ、大阪大会のオープンクラスは卓が少なくワンチャンスしかなかった)。【青単】はスーパーデッキを改造した【天門】の巨大ブロッカーを貫通でき、【連ドラ】も含めたスーパーデッキ改造組に上振れされても負けにくいことも好まれる理由だったのだろう。

この年タカラトミーは大会後に公式サイトにて大阪大会の結果とデッキレシピを公開した(現在は開発部自体が削除されておりページは残っていない)。それまでは委細なメタゲームやデッキレシピを紹介するということはほとんどなかった。
当時はどのTCGも現代と比べてネット上のコミュニティが少なく、情報共有が出来るのは身近なプレイヤーに限られ、すなわち上級者と知り合うのは勝つための近道の一つだった。これを身内ゲーと呼ぶ人もいた。
だからこそ、公式が直後に東京大会を控えたこの時期に公開した影響は計り知れず、プレイヤー達は【除去ガーディアン】を東京大会のトップメタと捉え、使用する、または対策を練るようになる。

そして25日に開かれた東京大会OPは、1位が【ドラゴンランデス】、2位t白の【黒ランデス】、3位が【除去ガーディアン】、4位が【牙デルフィン】。

サムライリーグ東京大会OP優勝 白抜きドラゴンランデス

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【除去ガーディアン】に有利な【ランデス】が1・2フィニッシュしており、また3位の【除去ガーディアン】以外はブロッカー対策として、それまで採用のまばらだった《クリムゾン・ワイバーン》を投入している点から、当時のメタゲームの様相が見えてくる。
レギュラー以下は関西同様【青単】と【グランド・デビル】が中心となった。ジュニア優勝の【青単】には《ペトフレ》《マリエル》対策に重い《コーライル》や《ソーサーヘッド・シャーク》、《アクア・ウィザード》が積まれており、ここでも大阪大会の結果の影響力がいかに大きかったかを物語っている。ジュニア2位・3位に【WS】が入賞しており、恐らくこれが細々と活躍を続けていた【WS】の最後の輝きだろうか(戦国編期でもちらほら入賞していた気がするが)。

2007年9月 極神編2弾発売

25弾「人造神の創造(バイオレンス・クリエイター)」発売。強力な新規カード《オルゼキア》が登場したことで、様々なデッキのフィニッシャーとして大活躍していた《デル・フィン》や定番の《ペトフレ》+《マリエル》を簡単に崩せるようになった。というのは、問題児《龍仙ロマネスク》の前では些末な話である。

発売前から環境を崩壊させることが危ぶまれていたが、果たしてそれは実現することになった。
当時のDRの簡易レポートを見ても、勝ち上がっていくと【白青赤緑(+黒)ロマネスク】がずらり。基盤が【ドラゴンランデス】や【牙デルフィン】と共通する部分が多く、それまでのガチプレイヤーがすんなり移行しやすかったのも大きいか。

白青赤緑ロマネスク

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※《紋章》をフル搭載する関係上、進化フィニッシャーとして定番の《バジュラ》や、人によっては《アルシア》《ザーディア》を種に《アルファディオス》を採用するものもあった。

そのデッキパワーは圧巻。安定して4~5ターンくらいで《ザールベルグ》や《デル・フィン》が降ってくる上、単発ではなく膨大なマナが残るためバウンスに強く、その後も《大地》《紋章》で容易に状況に応じた出し入れができる。《ナスオ》によって色事故を防ぎながら踏み倒し先をサーチしつつ種を確保でき、一見速攻に弱そうだが、それでも普通の回り方だと《ロマネスク》を間に合わされて《ザーディア》をぐるぐるされて詰む。
そしてミラーは《ロマネスク》を先に立てたもの勝ちの不毛なじゃんけんと化す。
明らかに極神編に存在して良いデッキではなく、少なくともエピソード期水準くらいのパワーはあったのではないかと思われる。

2007年10月 新殿堂発表

11月15日より、《クローン・バイス》と《予言者マリエル》の殿堂入り、《炎槍と水剣の裁》はプレミアム殿堂になることが発表された。

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もとより1枚だった《裁》はともかく、《クローン・バイス》は長年【除去コン】の基盤を支え続けてきただけに実質使用不可能になったことで受けるダメージは甚大であり、《マリエル》は【除去ガーディアン】の守りの要であったため1枚化は厳しい改訂になった。
同じく結果を残していた【バジュラズ】やランデス系デッキは《裁》こそ消えたが被害が軽微なもので済んだ。いかに【除去コン】が安定していたか、あるいは公式から目の敵にされていたかが伺える。まあ、ここは発売予定のスーパーデッキとの兼ね合いもあるのだろうが。

そして《ロマネスク》はノータッチ。《母なる》片方だけの殿堂では致命的な弱体化になりえず、《大地》はスーパーデッキに収録予定だったうえ、《ロマネスク》は発売直後・《紋章》もその前の弾のトップレアであるため、いきなり殿堂入りというのは難しかったのだろう。
【ロマネスク】には【除去コン】で序盤からハンデスしていくのが比較的有効だったことから、ここでの《クローン・バイス》の規制は【ロマネスク】一強化を加速させるのではないかとも懸念された。

この頃の環境には当時有名なプレイヤー達のブログでも「ロマネスクどうにかならんかね。ボルバル・サファイアの再来。しかもSR」「今年の残りはロマネスクゲーム。素直に先行ゲーを受け止めようぜ」「メタとか言うけど、俺の中ではもう無理。コントロールにもロマネスク入れた方が強いんだもん」など諦めの言葉が散見された。
某炎上系店長が《ロマネスク》で大騒ぎして派手に炎上したのもこの時。

なお、現代では潤滑油・中盤のつなぎがSRというのは当たり前になったが、当時としては《ロマネスク》のようなカードがSRになるのは珍しかったし、同時にSRがレアリティ通りに強いことも珍しかった。
《ロマネスク》はSRであるにも拘らず3~4枚積んでも腐りにくいカードであり価格は高騰した。踏み倒し先のプロモ・ホイルカードや《母なる》2種も安価ではなく、これがデュエマの歴史上初めて生まれた明確な「資産ゲー」とされる。

2007年11月 新殿堂施行

緊急の追加殿堂として、《ロマネスク》と《母なる》呪文2種のコンビ殿堂が上述の3枚の殿堂と同時に施行されることが発表された。発表のタイミングにずれがあったことから、コンビ殿堂は強引に捻り出した苦肉の策だったことが推察出来る。コンビ殿堂なんてやるなら《パトロール》もそうしとけと言いたくなるが、こちらは特例を作らざるを得ない理由があったので仕方ない。これにより【ロマネスク】環境はすぐに幕を閉じることとなった。

しかし、《クローン・バイス》殿堂で環境のパワーバランスは大きく崩れ始めた。

前提として《アクアン》殿堂入り後、つまり【ボルバル】vs【除去LO】時代からのデュエマの環境上位デッキは、【速攻】や一部の種族デッキを除くと、そのほとんどは《母なる大地》系デッキと【除去コントロール】の二種類のどちらかに分類される。それほどまでに《母なる大地》は構築の前提となるカードだったし、【除去コン】基盤は強かった。

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《大地》は《大地》で、《クロバイ》は《クロバイ》で対策出来た点も大きく、そのどちらもないデッキは両方を意識した構築にせざるを得ないハンデを負っていた。
そして、フィニッシャーやアドバンテージの取り方は違えど、デッキの基礎となる考え方も大きく変わってはいなかった。「序盤はブースト系のクリーチャーとドローソースでリソースを稼ぎ、《大地》で大型クリーチャーに変換する」。あるいは、「軽量ハンデスで手札を奪い、目障りなクリーチャーは《魂と記憶の盾》で除去して長期戦に持ち込む」。
しかし、《クローン・バイス》の殿堂入りによって【除去コン】が弱体化した結果、《母なる大地》を軸にするデッキ以外の選択肢が非常に狭くなってしまった。

また、当時デュエマには《クローン・バイス》→《母なる大地》→リアニメイトの三すくみがあった。

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《母なる大地》のパワーを十分に活かすには潤沢なマナと場の種が必要になるため、序盤からの《双月》《青銅》で手札が減りやすく、軽量ハンデスが良く効く。リアニメイトは破壊やハンデスに強いが《大地》には簡単に処理され、安定性でも劣る。《クローン・バイス》は長期戦でアド差を付けやすいが、リアニは少ないリソースでも早いうちから展開できハンデス耐性がある。実際はこんなに単純ではないし、リアニメイトデッキは大抵の場合《大地》デッキでもあったのだが。
ともあれ、三すくみのうち《大地》に有利な軽くて強いハンデスが環境から消えてしまった以上、マナブーストからの《大地》を止める手立ては限られることになり、デュエル・マスターズは《大地》一強へと進み、そしてブースト《ロスト》ゲーが再来することになる。


この時期に《母なる大地》4枚《バジュラズ・ソウル》3枚に《ボルベルグ》・《ふたつ牙》など【牙バジュラズ】の赤と緑の主要パーツの大半が再録されたスーパーデッキ「ビクトリー・ソウル」が発売した(「キャッスル・オブ・デーモン」と同時発売)。

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特に《母なる大地》はあらゆるデッキで4投される汎用カードであるにも拘らず、大型弾のレアで入手が困難な希少カードで、需要に対して全く供給量が追いついていなかったため、ここで初めて再録されたことは初心者から上級者まで大いに歓迎された。

2007年12月 極神編3弾発売

26弾「超絶VS究極(ドラゴニック・ウォーズ)」発売。パックのほとんどが多色ということで当時は話題になり、スーパーデッキとの相乗効果もあり売上は抜群に伸びたらしい。

この弾では、戦国編環境のトップメタの一角《聖鎧亜キング・アルカディアス》、ビート強化の《ボルシャック・大和・ドラゴン》、後に【ヒャックメーカウンター】で一世を風靡する《ヒャックメー》、環境上位には及ばないがそこそこの強さを誇るゴッド《ゼン》《アク》や《ケミカル》《プロディジー》、汎用性の高い5コスト対抗色サイクルなど、多彩なカードが登場した。個々のスペックは強力で、後に評価が上がったカードも多いが、当時は環境の軸になる新たなデッキは生まれなかった。

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《キング》は登場時から猛威を奮っていた。と勘違いされやすいが、この頃は後の時代に比べるとさほど強くはない。呪文でアドバンテージを稼ぐ時代であり、特に《母なる大地》が非常に多くのデッキの基礎になっている。そして《キング》は《大地》で踏み倒せない。《紋章》なら可能だが、《大地》より《紋章》を優先するデッキなど無いし、《大地》に加えて《紋章》を積むデッキはごく一部に限られる。更に《キング》は大型の進化システムクリーチャーであるため《大地》の除去の格好の的だ。進化元を用意して更に7マナ支払って召喚したのに3マナでロックを解除されてしまい、やっぱり《大地》では再展開出来ない。
場に出す・生存させるハードルの高さがネックになり、白系デッキのフィニッシャーとしては引き続き(強すぎて白が入らなくても無理やりタッチされていたが)《大地》に強い《デル・フィン》が優先され、《キング》を軸としたデッキでもまず《デル・フィン》から立てる、または同時に揃えるのがセオリーだった。《キング》が評価を上げるのは環境から軽量除去が消える戦国編以降ということになる。
《大地》との相性で評価を落とすのは《キング》に限った話ではなく、当時の進化クリーチャーは《盾》の対象にならない利点と《大地》と相性が悪い欠点、両面を併せ持っていた。メタゲーム上の緑入りデッキで活躍した進化クリーチャーは《ふたつ牙》《バジュラ》といったごく一部のものに限られる。

同弾で《永遠のジャック・ヴァルディ》が登場し【ヴァルディビート】が成立した。

ジャック・ヴァルディビート

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《ヴァルディ》の強みは何と言っても除去効果を持った高パワー進化クリーチャーという点だ。この時期はまだ【青単】の《パシフィック》が強く意識される時期であり、そちらは《マリエル》の殿堂入りによって追い風を受けていた。そして《ヴァルディ》や《アスティマート》のような除去効果を持った軽量進化クリーチャーは、【青単】に対して容易に二面処理が行えるという点で一定の評価を得られた。特に子供の参加者の割合が多い地元ショップの非公認大会であれば非常に刺さりやすかった。
その他《バジュラズ》や《エンフォーサー》を破壊できる点や、《盾》に除去されない高パワークリーチャーというのも見逃せないポイントである。
それらのうちの多くは次以降の殿堂入り発表で弱体化してしまうのだが、《マルコ》や《ハンゾウ》といったこのカードが環境で優位に立てる要素もまた登場するため、中速メタビートとしてしぶとく戦い続けていくことになる。

2008年1月 「ヘヴィ・デス・メタル」発売

スーパーデッキ「ヘヴィ・デス・メタル」登場。

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26弾の《ゼン》《アク》もそこそこ強かったが、ここにきてようやく「滅茶苦茶強い」と断言できるゴッドが登場した。
《ヘヴィ》はコストに対して能力が非常に優秀で、《オルゼキア》同様に《ヒドラ》とループが可能で《グール》とも相性が良いため単体での運用も可能。【ヘヴィループ】というコンセプトデッキも生んだ。
《メタル》はクロスギアが無くとも腐らない、《ガーデナー》を重用していた当時としては画期的なクロスギアメタ(ただ《マリエル》殿堂で《ペトフレ》との遭遇機会が減っていたのが残念)で、サイズも7000Wブレイカーと十分なものでありランデスデッキのフィニッシャーにも適する。
これらは単体でも腐りにくく《大地》で雑に踏み倒すだけでも十分に強力だが、リンクさせると自身に強制攻撃させられるようになり高い制圧力を持つ。この総合力により、スーパーデッキゼロ・デュエルでは圧倒的な人気を誇り、殿堂環境でも神化編中期あたりまで黒赤緑・4色の【ヘヴィ・(デス・)メタル】がトップメタの一角を担うことになる。

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2008年 冬期

コンビ殿堂が施行されてから、新たな《ロマネスク》デッキとして【ロマネ連ドラ】が使われ始めた。恐らく【連ドラ】としては極神編最強。

【ロマネ連ドラ】

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《ロマネスク》を採用すると《母なる大地》が使えなくなることが一般的な緑入りのデッキにとっては致命的であるため敬遠されたが、旧来の【赤緑連ドラ】に限れば《大地》は防御的な用途が多かったのでデメリットが小さく、《ロマネスク》採用によるデッキパワー向上のメリットが勝る。

《ロマネスク》は《ルピア》から繋げる6コスドラゴンの選択肢として非常に有力で、《ルピア》が1体いれば(《ロマネ》が捲れなければ)実質ノーコストで召喚でき、2体ならアンタップマナが増える。また、ターン終了時に7マナが残り《ルピア》を除去されても次ターンの展開に困らず、《バジュラ》に成ったり《インフィニティ》を立てたりできる。
この時代の連ドラは《インフィニティ》へ強く依存しており、そちらがSAの無いシステムクリーチャーであることからゆっくり展開することも多かったのだが、ステロイドカラーでは守りが薄くそれがネックになりやすかった。一方、白には《セブンス》と《デル・フィン》が存在するため《インフィニティ》を有効に活かしやすく、多少は中~長期戦も戦えるようになった。
ただし《大地》無しと白の追加で以前よりの課題であったドラゴンのサイズが5000~7000程度に収まっている点が無視出来ないものになっており、パワーラインの高いデッキにビートされるとやや厳しい。よって、通常の【連ドラ】では採用されないことも多い《バジュラ》は、《ロマネスク》との相性や《パシフィック》を殴り返す役割もあり必須カード。

また、この時期から【ネクラガーディアン】が流行し始める。

ネクラガーディアン

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それまでのデュエル・マスターズでは珍しかった「青を入れないのに強いコントロールデッキ」。
基本的な考え方は【除去ガーディアン】と共通する部分があり、白の優秀なクリーチャーで場を固め、黒でアドバンテージを取り、最後は《デル・フィン》と《グロリアス》を並べてフィニッシュするのが理想的なゲーム運びになる。あちらと比べてLOプランは取り辛くなった代わりに、《大地》によって序盤のマナ置きがしやすくなっている。

《クロバイ》が消えてハンデスが全体的に重くなり、置きドロソの《ミスト・リエス》のバリューが向上した。ドロマーカラーだと重さが負担になり《大地》で即座に処理されるためやや使い辛かった《ヒドラ》もネクラなら盤面に維持しやすく、同じく重い《オルゼキア》もループさせやすくなっている。
《大地》を上手く使いこなせることがデッキパワーに直結するのが《大地》殿堂までのデュエマだが、その典型例と言える。
《ムルムル》《ベガ》が追加されたイニシエートではなく《テルス》擁するガーディアンなのは、やはりそれだけ熾烈なランデス環境であったということ。

2008年3月 新殿堂発表

4月からの殿堂が発表された。その枚数は8枚にのぼり、枚数は過去最多。
これまでの公式大会は03は《リーフ》、04は《アクアン》、05は《ボルバル》、06は《サファイア》と圧倒的なシェアを集めたカードがあり、規制するカードに悩む必要がなかったのだが、今回は比較的ばらけており、また前大会のトップメタだった【除去ガーディアン】は前回殿堂で大幅に弱体化してしまったためか各主力デッキのパワーカードが狙われる形になった。

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《パシフィック・チャンピオン》
《魂と記憶の盾》
《母なる大地》
《アクア・ハルカス》
《インフェルノ・ゲート》
《呪紋の化身》
《インフィニティ・ドラゴン》
《超竜バジュラ》

このうち、《母なる大地》《パシフィック・チャンピオン》《魂と記憶の盾》の三種類は前述した通り長らくデュエマを歪め続けていたカードであったため、必然性の高い殿堂入りだったように思う。

《インフィニティ・ドラゴン》は《イングマール》《無限掌》を積む以外では速度で轢き殺す・運を味方に付けるくらいしか対処法がなく、また使う側も外れたら運がなかったと感じざるを得ず運ゲー感が強すぎる、などあまり良くないカードであったため仕方ないと言えば仕方ない。

《超竜バジュラ》《インフェルノ・ゲート》は、これ自体を規制しなければならないほどの緊急性はないが、それなりに結果を残していおり、相性のいいカードが増えてきている上にこれ以降の開発に響きそうなカードであるため妥当性はある。

《呪紋の化身》《アクア・ハルカス》の二種はよくわからない。《呪紋》はめっきり数を減らしており、トリガー封じとして規制をかけるべきは《インフィニティ》と同期の《デル・フィン》の方であることは明白だった。そして、《呪紋》を採用するデッキではピン挿しのケースも多く、殿堂入りにしても影響が小さかった。
対照的なのが《ハルカス》で、こちらは【青単】の主要パーツで【バジュラズ】などビートダウンの3コスト域でも採用率の高いカードではあったが、【青単】は《パシフィック》が殿堂入りしたのでこちらまでやる必要はないし、それ以外なら27弾の《クゥリャン》で代用可能で、そもそものカードパワーが殿堂入り相当ではない。

この大規模殿堂は、強すぎるデッキを弱体化するというより、古くから存在しカードデザインに大きな影響を与えているカード、あるいはこれ以降に影響を与えるかもしれないカードを規制しておこう、という考えによる部分が大きいのだろう。見方によっては擬似的なスタン落ちのようなものとも捉えられる。

今回の殿堂発表、特に《大地》殿堂であらゆる前提がひっくり返った。《大地》があるからこそ、重い非進化クリーチャーはマナに待機させておけば良かったし、生物であることはそれだけで大きな価値を持っていた。
《大地》ありきのゲームは根底から覆ることになった。自然入りのデッキは安定性・対応力・防御力・爆発力すべてが低下し、【ランデス】系が大きく弱体化したのは勿論、《大地》にデッキパワーを依存していた【ネクラガーディアン】は事実上消滅した。
チューターカラー及びその系列デッキの《クリムゾン・ワイバーン》《ザーディア》《ガルクライフ》《ボルベルグ》《ヘリオス・ティガ》《ボルメテウス・レッド》《ドルボラン》などは《大地》で引っ張り出すことを想定して採用されていたため、火文明はそれ以上の被害を被った。
同時に、《盾》の殿堂入りでいよいよ主力パーツのほとんどを規制された【除去コン】は存続が厳しくなる。聖拳編以降続いていた「《大地》か【除去】基盤にすれば強いデッキが作れる」という常識はここで崩壊することになった。これほど根底からゲーム性を覆す殿堂発表は初回の【リーフ】一斉規制以来か。

一方で、《大地》との兼ね合いと呪文中心の環境が向かい風だった《キング》の他、除去の的になることが一番の弱点の《ミスト》《ヒドラ》といったシステムクリーチャー郡の評価が向上した。これから2年ほどでその3枚のうち《ミスト》が殿堂入り、残り2枚はプレ殿に指定されるため、プレイヤー達は《大地》《盾》がシステムクリーチャーへの抑止力として働いていたことを思い知ることになるのだが、それはまた別の話。

2008年同月 極神編4弾発売

その後、27弾「完全極神(パーフェクト・ヘヴン)」が発売した。これまで《大地》などで踏み倒す為に自然と5色デッキになることはあったが、《フェアリー・ミラクル》や5色ODの登場でようやくまともな5色にする意義のあるコントロールデッキが生まれた。

そして新規SR《エンペラー・マルコ》の登場により【マルコビート】が成り立った。

シータマルコビート

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当時は5マナ圏と言えば《バジュラズ》をジェネレートしたり《ミスト》を立てたり《チューター》を打ったりと、まだ悠長に準備出来るタイミングだった。しかし、《マルコ》は手札補充をしながら6000Wブレイカーで殴り始める。返しに《マルコ》を除去しても他のクリーチャーや潤沢な手札な手札が残っており、そのままずるずる押し切られてしまいやすい。
この後登場する《ギャラクシー》や《ハンゾウ》に弱いため、登場直後のこのタイミングこそが【マルコビート】の全盛期と言っていいだろう。

また、この弾で登場した【五元神】、これがシンプルながら非常に強力で非公認大会でも結果を残し始める。

五元神

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※当時は青入り4Cも人気があった。

《アゴン》単体ではただのアンタップキラーだが、《ファラオ》が付くと選ばれなくなり、《インドラ》とリンクするとAT除去+ランデスと擬似的なモヤシが付与される。これだけでもかなりえげつないのだが、3体リンクするとアンタッチャブル+攻撃時2ランデス+2体除去+疑似モヤシになる。こうなると毎ターンじりじりとリソースを削られ続けるだけになり、逆転の目は無くなる。
比較的安価で作れる上に王国で紹介された関係で使用者はそれなりに多く、除去耐性持ちが制圧とランデスを同時に行ってくる理不尽さの割に対策手段もごく一部に限られており、当時泣かされた子供も多いのでは。

総括

ここで極神編は終了し、構築済みデッキ「ワイルド・キングダム」とコロドリ3発売、そして戦国編へと続いていく。

この期間を総括すると、当時のカードプールの中では聖拳編あたりの一部の呪文が突出していたため、不死鳥編時点のメタデッキの構成は基礎の部分が聖拳編の頃と代わり映えしない「聖拳編ver1.X」といったものが多く、デッキの画一化やゲーム展開の画一化を生んでしまっていた。また、ランデスや速攻・マリエルロックといったゲームをつまらなくするタイプのデッキも多かった。
だが、(賛否はあったに違いないが)複数回に渡る大規模な殿堂入りと新規カードのインフレによってゲーム性が大きく変化した結果、戦国編のクリーチャーをゲームの軸とした比較的多様性に富んだメタゲームへと繋がった。

《パトロール》プレ殿や《ロマネスク》のコンビ殿堂など迷走も目立つが、初心者と上級者との情報格差を埋めるために公式ホームページでデッキ開発部をスタートしたり、資産格差を埋めるためのスーパーデッキをリリースしたりといった施策からも、デュエマを健全な方向に進めようとしていた意図が見られ、実際に人気回復・新規獲得にも繋がっている。極神編は、全体のバランスとしては歪ではあるが、デュエマの歴史において欠かすことのできない、重要な役割を果たしたシリーズだったと言って良いのではないだろうか。

今回振り返った期間で最強のクリーチャーを挙げるならば、当然《ボルバル》《サファイア》亡き後の絶対的フィニッシャーとして環境を蹂躙した《スペル・デル・フィン》。登場前から既に大騒ぎされていたようだが、これだけ強烈なロック能力を持たせた意図は、《大地》or【除去】というメタの構造を壊したかったのか、あるいは単に《サファイア》禁止後《ゲート》で踏み倒すリペアとしてデザインされたのか。
真意は不明だが、すぐに《大地》にも【除去】にも採用され、相手の《大地》《盾》を一方的に封じる光景は実にデュエマらしいというかなんというか。

余談:《母なる紋章》は失敗だった論

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《大地》の調整版として母なる《紋章》を出したが、そちらも強すぎて最終的にプレ殿に指定された。よって調整失敗だった。という論調をよく見かけるが、これに関しては自分は解釈が違い、《紋章》のカードパワーは意図されたものだと考えている。

《大地》があまりに強すぎるから健全な代用品として調整版を出したのであれば、《紋章》を出すと同時、あるいは次回の殿堂発表で殿堂入りさせるべきで、《大地》を野放しにして《母なる》8枚体制を許容する理由はない。しかし、現実にはその10ヶ月後まで先延ばしになっている(間に二回の殿堂を挟んでいる)。スーパーデッキとの兼ね合いであれば、《大地》の調整版を出すのは極神編1弾でなくてもよかったはずだ。
では何故あそこで《紋章》を出したか。これは、《紋章》が《大地》ロスのショックを和らげるためのものだからだと考えられる。

当時の《大地》があらゆるデッキに入る汎用カードであるとたびたび書いてきたが、それは同時にプレイヤーの間で「《大地》ありきのデュエマ」という認識が根付いていたことを意味する。登場から殿堂までの4年弱という期間は、そこに至るのに十分すぎる長さだった。
いつの時代も、少ないマナコストで大型クリーチャーを繰り出す『コスト踏み倒し』は楽しくて人気がある。《大地》はその典型例で、みんな《大地》で踏み倒すのが大好きだった。そして、その楽しい《大地》に慣れてしまった結果、プレイヤー達は「大型クリーチャーは踏み倒すもの」「真面目に○マナ支払う前提でデッキを組むなんて馬鹿らしい」とすら感じるようになっていた。緑を入れないのはマナからフィニッシャーを踏み倒せない不便なデッキという感覚も確かにあったし、緑の有無で《ストーム・クロウラー》にかかる負担は別次元のものだった。
それも、一部の壊れたデッキだけではなく、フリー対戦で使うようなカジュアルデッキですらその認識だったのだ。【サバイバー】も【ゲキ・メツ】も【アポロヌス・ドラゲリオン】だって《大地》をフル搭載していた。《大地》の存在はもはや、強い依存性を持つ劇薬と化していた。
そんな状況でいきなり「《大地》は良くないカードだから」と没収したら、それを受け入れられないプレイヤーは離れる。影響はトーナメント志向と縁のない層も含めたすべてのプレイヤーに及ぶのだから、単に環境上位デッキを規制するときの比ではない。代わりに劣化版の《紋章》をいきなりポンと渡されても、「これで我慢するか」とはならないし、第一ほとんどのデッキでは代替不可能だ。

そこで《大地》には及ばないが、使用感が比較的近い《紋章》の存在を早い段階から提示しておく。結局そちらは《大地》無制限時代はトーナメントレベルだと【ドラゴンランデス】など一部の《母なる》特化デッキくらいでしか使われなかったのだが、それでも構わない。《大地》には劣るが一部のデッキで使われる調整版。このクッションを一段階挟むことで、《大地》→《紋章》への移行をスムーズにしたかったのだろう(長期的には《紋章》からも脱却を図っていたかどうかは定かではないが、コンビ殿堂に指定した時点でその心づもりはあったのでは)。
この時、調整版を弱くしすぎては全く使われずクッションの役割を果たさないので、《大地》の劣化版でありながら一定のカードパワーを残さなければならない。その結果生まれたのが《紋章》ではないだろうか。
よって「《紋章》も強すぎて最終的にプレ殿になった、だから調整失敗!」と安易に断じてしまうのは、あまりに《大地》の重さを無視しているし、そんな一言では済ませられない根が深い問題ではないかと思う。

また、この時期に限らず、かつての環境を振り返って「実は(クリーチャー名)は悪くなかった。悪いのは踏み倒し呪文だ」などと言われることがある。しかしそれは、聖拳編あたりから始まるデュエマの呪文>>>クリーチャーというパワーバランスが、徐々にクリーチャーへと主導権を移していった経緯を考慮していないのではないか(ちなみにその舵取りは覚醒編で一度完全にぶっ壊れることになる)。
《キング》然り、カードの強さというのはカードプールやそのときのメタゲームの影響を強く受ける。ある環境で鳴りを潜めていたカードが、別の環境で猛威を奮うケースも往々にして起こり得る。殿堂入りに指定されたカードの時代背景を調べてみるのも面白い。


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