いまっつの演劇レポートvol.1

今回は、劇団ホワイトチョコが好き。で長年会計を担当している“いまっつ”こと、今津佑介のコーナーです。

リーディング公演で受付準備をする今津

劇団を支える大切な一員であり、記者経験もある今津。そんな彼に、前回リーディング公演『不帰の初恋、海老名SA』(2019年7月6・7日)の観劇レポートを、独自の視点で書いてもらいました!舞台写真と合わせてお楽しみください。

(ご来場頂けなかった方々にも公演内容を知っていただき、少しでも興味を持って頂けるよう、あえて“外から見た劇団・公演”という目線で書かれています。ご了承下さい。)

後藤

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観劇録「畳8枚でつくる〝世界″」 

◼️狭小でも夢中に

 畳8枚分のスペースがあれば、あなたは何をするだろうか―。大の字になって寝るか。タレント片岡鶴太郎氏のようにヨガに没頭するか。劇団ホワイトチョコが好き。のメンバーなら舞台をつくり上げ、時間や場所を超越したフィクションの世界に観客を閉じ込める。7月6、7の両日に築170年の古民家を生かしたコミュニティースペース「蚊帳の家」(甲斐市)で行われたリーディング公演「不帰(かえらず)の初恋、海老名SA」(坂元裕二作、廣瀬響乃演出)は狭小空間だったにもかかわらず、ヒロイン二人の感情のほか、彼女らがその場で見たことや聞いたことも観客に伝わり、そして夢中にさせた。

◼️ヒットメーカー

リーディング公演の会場・蚊帳の家(竜王)

 原作者の坂元氏は「東京ラブストーリー」をはじめ、「それでも、生きてゆく」「カルテット」などを手掛けたテレビドラマのヒットメーカーだ。「不帰の初恋、海老名SA」は朗読劇のために書き下ろされ、これまで風間俊介や松岡茉優ら新進気鋭の俳優が演じてきた。

 中学時代に文通を交わしていた三崎と玉埜。しばらく音信不通だったが、数年後のある日、三崎は東京行き高速バスの車内で玉埜に1通のメールを送る。「このたび東京で結婚し、相手はこのバスの運転手だ」と。玉埜はメールを受け取って間もなく、三崎を乗せたバスが横転事故を起こしたとの一報を聞く―。日常と非日常の間をさまようヒロイン二人の心の葛藤や、互いを心のよりどころとして前進するさまを描いた。原作は主人公が男女ペアだが、演出の廣瀬響乃はいずれも女性を充てている。

 「三陸海岸大津波」「闇を裂く道」などの記録文学の第一人者吉村昭は登場人物の心情を克明につづっているが、坂元氏も「東名高速道路高速バス横転事故。死者8名。運転手は逃走中」「定食屋に着きました。結局彼には会えませんでした」などとヒロインに〝リポーター″役を担わせている。また「鬼平犯科帳」「剣客商売」などで知られる作家池波正太郎は料理の描写が秀逸だが、坂元氏の「不帰の―」も「海老名SAのしょうゆラーメンにこしょうを全面的にかけて食べるのが好き」「小木港のブリの照り焼き定食に豚汁」などと食のシーンがリアルに描かれており、空腹の観客なら食欲をそそられるだろう。こうしたきめ細かさが読み手の心をわしづかみにし、一連の出来事に立ち会ったと錯覚させる。

◼️妥協を許さない

  (左から)金井優子、植田芽里、鷹野百江

和田 栞

文章は申し分ない。ただ、リーディング公演だ。坂元氏のメッセンジャーとなる役者は字面のほか、行間も読み込まなければ観客の前に立てないだろう。ヒロイン二人の中学時代を演じた植田芽里と和田栞、数年後の役を任された金井優子と鷹野百江の4人はいずれも坂元氏のメッセージを隅々まで読み込み、その言葉を血肉化し大胆に表現した。劇団ホワイトチョコが好き。初参加の植田と和田は個性派ぞろいの同劇団メンバーに怖気づくこともなく、自身の演じる役と向き合った。前回公演「遭難。」で怪演を見せ付けた金井と鷹野もニューフェイスの二人に触発されて、より一層役作りに精を出していた。好材料が重なったことで、同劇団オリジナルの坂元ワールドを生み出して観客を引き付けられたのではないか。芝居の稽古が始まったら長幼や、入団歴の長短は関係ない。一人の表現者として与えられた役とどう向き合うか。極限まで自分を追い詰め、他のメンバーと議論を繰り返す。一人ひとりに妥協を許さない姿勢が備わっていることも同劇団の強みだ。

◼️空白時間の是非

一方で、観劇中に戸惑いを覚え、今でも自問自答を繰り返していることも。それは中学時代から一気に数年後のエピソードに移ったことで、ヒロイン二人の中学時代と数年後を結び付けられないままストーリーの世界へ入らざるを得なかったことだ。交際が途絶えていた間、二人はそれぞれどんな生活を送っていたか。自身の中や周囲でどんな変化があったか。〝接着剤″のような役割を果たすエピソードが不足しており、筆者は「不親切」と心の中でつぶやいた。ただ、観劇後に「坂元氏と演出の廣瀬は観客の想像力(または創造力)に任せて、あえて〝空白の時間″を設けたのでは」と、頭に思い浮かんだ。ヒロイン二人は手紙やメールのやりとりで互いの境遇を知り、喜びや悲しみを分かち合ったり、怒りにまかせて相手を傷付けたりしていた。すなわち彼女らと観客はいずれも同じ情報量しか持ち合わせていないのだ。二人は手紙を書いたり、メールを打ったりしながら互いに空白の時間のエピソードに思いを巡らせていたのではないか。想像や創造は動物の中で人間の特権だが、坂元氏と廣瀬は観客に人間を人間たらしめるために必要な時間を提供してくれた―。それはオーバーか。ただ、イメージを膨らませることで、ストーリーの奥行きを広げることができて面白い。

 この観劇録を締めくくるに当たって、反省すべき点がある。劇団ホワイトチョコが好き。を持ち上げすぎた。天狗にならないか。
 鼻を伸ばせるほどのスペースがないので、心配無用?

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