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切欠は同じ

Hさんから聞いた短いお話。

Hさんの父君は若い頃に趣味で鉄砲撃ちをしていた。
と言っても本格的な狩猟活動をしていた訳ではなく、第二種狩猟免許で偶に鳥撃ちをして遊ぶ程度だったという。

暖かい日が続くある年の猟期解禁日。
父君は空気銃を肩に掛け、猟犬を連立って、よく猟場にしている広い河川敷の薮に分け入ったという。
河川が大きくカーブするカモの餌場を川下から狙い易く、且つ浅い川なので犬が拾いに行き易い、父君もお気に入りのポイントがあるのだ。

そこは葦が踏み倒されて出来た小さな広間があり、教えてくれた狩猟仲間達もよく使っているのだが、先客の有無は車の有無で判るという仕組みで、その日は父君の早い者勝ちという訳だ。

しかし広間には先客がいたという。
この時期には珍しい、広間の真ん中でとぐろを巻く大きなヘビだ。
所謂カラスヘビと呼ばれるシマヘビの黒い個体なのだが、サカオとも呼ばれており気性が荒く、人間の方が逃げても追い掛けてくる執念深さを持っている。

もう冬も間近だというのに、獲物を消化中なのか日向ぼっこでもしている。
父君と犬が広間に足を踏み入れてもとぐろを崩す様子はない。

父君にとって歓迎出来ない珍客だ。
早々にお引き取り願おうと、近くに転がっていた手頃な枝を拾い上げ、振り扱きながら黒蛇に対峙したという。
動きが鈍くなっていたのか、枝がとぐろを崩して逃げようとする蛇の胴体をビシリと打った。

蛇は長い身体を激しくくねらせ、口から何やら白い固まりを吐き出してから草陰の間へ逃げて行ったという。
蛇を追い払った父君は意気揚々と猟を始めたそうだ。

問題は3日後から。
朝起きた途端、右足親指が激しく痛んだ。
見れば小さな傷にばい菌が入ったのか赤く腫れていた。
消毒と絆創膏で処置したが、一日中ムズムズ痛むのを我慢する事になった。

次の日には更に親指全体がパンパンに腫れ上がって紫色に変わっており、慌てて病院へ行った。
毒蛇や毒虫に噛まれた訳では無かった様で、結局溜まった体液を切開して絞り出し、化膿止めを注射する治療を受け、1カ月程足を引き摺る日々を過ごしたと言う。

後日家人の言うには「半殺しにした蛇の仕返しに違いない」そうだ。

さて、Hさん自身も同じく蛇を切欠に痛い目に合っている。

ある日刈払機を振り回して乱暴に草刈りをしていたところ、
偶々草陰に潜んでいたヤマカガシの首を刎ねてしまったという。

よくある事と気にせずにいたが、何故か翌日から全身が筋肉痛の様に痛み出した。
筋肉痛なら放っておいても収まるのだが、何故か数日経っても痛みが消えず酷くなるばかり。

思えば先日蛇を殺しているので、Hさんは同僚に「これはヘビの祟りかもしれない」と、何故か嬉しそうに話したそうだ。
同僚は少し考えてから「Hさん。それ痛風じゃない?」と返し、Hさんはハッとして暫らくネットを調べていたが、その後ガッカリしたように病院へ行ったという。

親子共にヘビを害して病院送りになったという、微妙な因縁話である。

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