見出し画像

コックリさん禁止令

とある田舎の中学校で起きたコックリさん騒動のお話。

お話を伺ったYさんが通ったK中学校はピカピカの新築だったが、3~4年上の世代はまだ旧校舎に通っていたという。
新校舎へ機能が移った後の跡地はすぐに整地されて町役場となり、つい最近まで旧校舎の一部は役場の施設として残っていたのだが、一昨年にとうとう取り壊されてしまったのが残念だ。

そんな旧校舎で騒動が起きたのも丁度コックリさんが全国的に流行した頃であり、ご多聞に漏れず朝夕に数人が集まっては、十円玉に指を置く姿が見られたという。

昼休みのとある教室。
給食を食べ終わった生徒達は外へ遊びに行くのだが、半数位は室内で駄弁っていたそうだ。
そんな中、数名の女生徒が部屋の隅に集まり、色ペンでカラフルに縁取られた盤紙でコックリさんを始めたという。
「コックリさんコックリさん。お越し下さい。」
「コックリさんコックリさん。○○子の好きな男子を教えて下さい。」

一頻りキャアキャアと騒いだ後、そろそろ外で遊んでいた男子達が返ってくる頃にコックリさんへお帰りを願う事にした。
「コックリさんコックリさん。お帰り下さい。」

普段なら素直に鳥居へ向かう筈の10円玉が、その日は何故かゆっくりと『いいえ』へ進んだらしい。

「どうぞお帰り下さい。お帰り下さい。」
指を載せたまま10円玉は『いいえ』から動かなかったという。

"コックリさんがいる間は10円玉から指を放してはならない。"
このルールがある為、女生徒たちは焦りながら何度もお帰りを願うのだが、頑として『いいえ』から動かなかったそうだ。

周囲の生徒達は「なになに?どうしたのー?」と野次馬になって囲みを築き始める。
「お帰り下さい!お願い帰って下さい!」
指を置く女生徒の中にはブルブルと震え出す者もいたという。

教室中の生徒が周囲を囲み、事の成り行きに注目している。
機転の利く一人が「どうしたら帰ってくれますか?」と尋ねた。

すると10円玉はゆっくりと動き始め、とある文字の上に止まった。
『し』
見ている全員がゾクリと悪寒を感じたという。

そこから更に左へジリジリと動き始め、タ行を越えた10円玉が次にどこへ向かおうとしているのかを皆が理解した時、丁度予鈴が鳴った。
その途端、震えていた子の一人が金切り声を上げたという。
悲鳴を超えた、怒りとも哀しみとも判別できない絶叫だったらしい。

そして弾かれたように10円玉から指を離し、勢い良く後ろへひっくり返った。
野次馬に囲まれていたのが幸いしたのか、咄嗟に何人かで支える形になる。
しかし白目を剥きながら泡を吹き、ついには痙攣を始めた為、とうとう皆がパニックになったそうだ。

生徒達の一部はワーワーと慌てふためき、一部はコックリさんをしている集団や倒れた子から目を離せずに立ち竦み、一部の生徒は床に座り込んで泣き出したという。

そして騒ぎの中心に居る10円玉に指を置いたままの女生徒達は、自分達の意思に反して盤面を縦横無尽に動き回る硬貨を、為す術も無く呆然と見つめるだけだったらしい。

室内の騒ぎを廊下で聞きつけた先生が、教室に飛び込んで驚いたのは言うまでもないだろう。

この修羅場をどうやって収めたのか?
コックリさんに参加した女生徒たちがその後どうなったのか?
以上の部分は残念ながら伝わっていない。

かなり混乱した中、本来の手順通りに解決できたとは到底思えないのだが、もう数十年も昔の事件の詳細を確認する術が私には無い。

確かなのは、その時期を境に県内全域の学校へ《コックリさん禁止令》が通達されたという事実だけ。

この話は実際に件の教室にいた先輩から伝わり聞いた話だと、Yさんは言う。
どこか他所の学校で発生したお話が伝わり混ざっている可能性があるので、この集団ヒステリーを引き起こした騒動を、よく聞くコックリさん関連の元祖であると言うつもりはない。

あくまでも聞いた話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?