スタートアップを取り巻く特許侵害訴訟の世知辛い現実

ネットサーフィンしていたら、こんな記事を発見しました。

Azure IP Advantageって何?

Azure IP Advantageの説明動画はこちら(公式動画よりこっちの方がわかりやすかったので)

ざっくり内容を説明すると

・スタートアップ企業は特許侵害訴訟のリスクに侵されている
・マイクロソフトはAzureのユーザーに下記3種類のサポートを提供するよ(一定の条件を満たす必要はある。月額1000ドル以上利用しているなど)
1.他社から特許訴訟を受けた場合でも、Azureのサービスを引き続き利用してビジネスを継続することができる
2.事業会社から特許訴訟を受けた場合、マイクロソフトが所有する特許の中から相手が嫌がる(=交渉材料になる)特許を訴訟用に貸与する
3.マイクロソフトが所有する特許がNPE(後で説明します)に渡った場合に、その特許を使用する権利を提供することを将来にわたって約束する

という内容です。

AWSやGoogleなど他社クラウドと、クラウドサービス自体の機能とは別の観点で差別化する面白い取り組みなんですが、なかなかこの価値が伝わってない気がしたので、スタートアップを取り巻く特許訴訟の現状とその対策という話も含めて書いてみようかと思いました。

今回は前編ということで、「スタートアップを取り巻く特許訴訟の現状」について書きます。(後半として「スタートアップが特許訴訟に巻き込まれないためにできること」を別記事で書きます。)

追記:後半記事書きました!(2019/4/7)

IT系のスタートアップは特許訴訟で狙われやすい

ここからしばらく、IT系スタートアップが特許訴訟のターゲットになりやすいという話をします。資料提供元のLOT Networkについては後ほど説明します。

・特許訴訟の概要

https://lotnet.com/wp-content/uploads/2018/04/Introduction-of-LOT-2.0-For-Startups_NonLegal-v5.1.pdf の3ページ

・パテントトロールから特許訴訟を1度は受けたことがある企業は10,000社を超える
・特許侵害訴訟の対応コストは平均で3.2億円

(1点目に書いてあるPAEs・・・というのは、あなたの会社を特許訴訟してくるヤクザみたいなのがいるよ、くらいに思っててください)

ちなみに、特許訴訟をかけられたりすると事業リスク要因としてExitの際に大きな影響があります。(いわゆる特許デューデリの一部)

そんなこと言っても、特許訴訟なんて大きい会社の話じゃないの?と思われがちですが、実はそうではないのです。

・特許訴訟のターゲットは小規模ITビジネス企業が多い

https://lotnet.com/wp-content/uploads/2018/08/Introduction-to-LOT-2.0_8_21_18.pdf

・パテントトロール(前述のPAEsと同じ。特許ヤクザみたいなもの)に訴えられる会社の50%以上は年間売上10億円以下の企業
・特許訴訟の50%以上はソフトウェアに関する特許が対象

とあります。

これ、どうせ訴えるならお金たくさん持ってる大企業を訴えた方が良いのでは?と思うかもしれません。なのになぜ小さい会社が狙われるのかというと、「対応リソースが無くて泣き寝入りする可能性が高い(と思われている)」からです。

「訴訟だけで」手っ取り早く稼ごうと思ったら、ガチの法務部隊がいる大企業よりビジネス立ち上げるのに必死のスタートアップを狙って訴訟かけた方が早いよね、ということです。

世知辛いですがこれは現実。で、これは良くないねということで、アメリカは訴訟制度を変えたり、マイクロソフトのような企業が支援制度を整えたりしてるというわけです。

アメリカではVCが特許訴訟のサポートもしてくれる

下の記事は自分が編集を担当したソニー新旧知財部長の対談なんですが、ソニーのコーポレートVCがアメリカ企業に投資したときのエピソードがあります。

「IP Business Journal 2018/2019」巻頭記事「知財を経営に組み込むDNA」

該当箇所を引用(対談記事3ページ目後半から4ページ目前半)。

御供:他の日本の企業のサポートをしていかないとと思いますね。それが日本の産業を盛り上げることにつながるからです。
 私はコーポレートベンチャーキャピタルの責任者もしており、投資先の発明の権利化を手伝ったりしています。スタートアップが投資を受けるときに知財クリアランスのチェックがあることが多いのですが、創業期の会社がそこを対応するのはなかなか難しいので、そこをサポートしています。
 日本の場合は弁理士法や弁護士法の関係でできることが限られますが、海外の場合は割と自由にできます。

知財クリアランスというのは「自社がこれから行うビジネスや提供するサービスが、他社の知財(特許・商標など)を侵害していないか確認すること」です。

御供:米国のスタートアップで、サーモスタット(温度管理を行う部品でスマートホームのコア技術の一つ)を作っているネストという会社があるのですが、ハネウェルという会社に特許侵害で訴えられていました。
 創業期で訴訟に対応するリソースがなかったため、ソニーが出資する代わりにそのサポートをしました。その後にGoogleが32億ドルでネストを買収しました。その結果、当初のソニーの投資額は30倍以上の評価額になりました。

・投資先のネストという会社が特許侵害で訴えられた
・VCが投資を取り下げるのではなく、むしろ訴訟の手助けをした
・最終的にGoogleに約3000億円(投資額の30倍以上)で売却

したというエピソードです。

関連記事は下記2つ。最終的にはネストを買収したGoogleが交渉を引き取って、訴訟を仕掛けていたハネウェルと特許のクロスライセンスしてます。

日本ではVCがそこまでサポートするのは難しい?

記事中にこんな記載があります。

日本の場合は弁理士法や弁護士法の関係でできることが限られます

残念ながら日本ではVCがそこまでフォローするのは(現状では)難しいよ、ということですね。

上記のネストの例はVCが協力して前半の厳しい局面を凌ぎ、Googleにバトンタッチしてクロージングしています。が、日本では前半の役割をVCに期待できないとなると、スタートアップが自分たちでやる必要がある。

じゃあいったいどうしたらいいんだよ! というところで、今回の記事は終わり。後半の「スタートアップが特許訴訟に巻き込まれないためにできること」に続きます。

(twitter︰@tech_nomad_

※後編記事はこちら


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テクノ大仏(『技術広報の森』編集長)

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