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【技術の歴史を読み解く】第2回:新技術を生み出すのは1人の天才か、それとも時代と社会か

さて、今回から具体的な内容に入っていきたいと思います。と言っても、まずは目次をざっと眺めていくところから。現代に近い方から見ていこうということで『11巻(20世紀 その1)』全14章の中から1~6章を見ていきます。

※ 本連載を始めた目的などはこちら

1. 世界史への位置づけ(1章)

テクノ大仏(以下、大仏):具体的な技術の話に入る前に、まずは20世紀の時代背景を説明するという感じですね。20世紀というと、やはり大きいのは第一次、第二次世界大戦。

インターネットを始め、戦争・軍事技術が新しい技術を生み出し育てることに貢献することは間違いない。最近でもマイクロソフトのARグラス・HoloLensが米軍に供給されることが話題になったりしていたし。

奥さん:戦争の影響で、ものすごく人が移動した時代ともいえるよね。ロシアからアメリカやフランスに亡命したり、ドイツやフランスからアメリカに渡って定住するようになったり、その結果やっぱり母国に戻る判断をするとか。自分が望んだにせよ望んでいないにせよ、人の移動・交流みたいなものがこの時代のひとつの特徴かもしれない。

文化史的な面だけをみても、亡命した芸術家や教育者はたくさんいたよね。亡命先の国の人たちが、その結果、教育の恩恵にあずかったり、芸術家自身が影響を受けたりということで新たなものが生まれた例はたくさんあるわけですね。だから、それが“技術”っていう分野でも当然あったはずだと思う。

中世・ルネサンスの時代から母国を離れて行動する、仕事する、旅する、ということは当然あったし、特に音楽家や美術家にはそういう話が多いけど、それらと圧倒的にちがうのは「逃げなきゃいけない」という状況化での移動という点でしょうかね。あと船での長距離移動がだいぶ一般化して、一般人が転覆して死ぬとかいう状況が普通に出てくるのも時代性かなーと思ったりした。

2018年に開催された「ラ・フォル・ジュルネ」というクラシック音楽祭はまさに「亡命」がテーマになってたぐらいで、母国を出て移動することがどれだけ創造の源泉になっているかということがよくわかって面白いテーマだったと思う。公式ガイドブックはおすすめです。 

奥さん:「戦争」と「亡命」以外の文脈で思い出したのは、女性のポスト問題。例えばキュリー夫人も母国ポーランドからフランスへの“移動”をした科学者だよね。女性参政権の歴史もちょうど第一次世界大戦前後に巻き起こった運動のひとつ。女性の社会的地位の変遷や変化による移動なんてのも、この時期に起こったことのひとつじゃないかなと思う。

大仏:人の移動と知識の増加については、国をまたいだ特許引用のデータを用いた経営学の論文があります。

ある国の企業にいた一人の技術者が他国の別企業に移籍(例えば、アメリカのマイクロソフトからインドのインフォシスに転職)した場合、

・アメリカからインフォシスに移転される知識が3%増加
・インドからマイクロソフトに移転される知識が4%増加
(知識の増加量は特許の引用件数から計算)


ことが明らかになっています。
引用:『世界の経営学者はいま何を考えているのか』著:入山章栄

人間が持っていた知識(その人が参考にしている書籍情報なども含め)の移転が、一方通行ではなく双方向に知識の増加をもたらすというのがとても興味深いです。

一方、同じ著書の中で半導体業界の特許情報を用いて、知識がある地域に集積する理由みたいな話も書かれていて、こちらも重要な論点だなと思います。

ある地域に集積することで知識が増える、地域間を移動することで知識が増える。この辺のバランスというか両方をうまく取り入れることが重要なように思いました。

2. 技術革新の源泉・技術開発の経済学(2~3章)

大仏:技術開発の経済学ということで、どの産業にお金を重点的に投下するかといったような「技術と経済がどう関係するか」みたいな話ぽいですね。このあたりは後で詳しく読んでいければと思います。

自分の場合、技術について考えるときにどうしてもプロダクトやサービスに目が行っちゃうんですが、「こういうことも考えないといけないのね、なるほど」みたいなテーマが早速出てきた感じですね。おもしろい。

改めて目次を眺めてみると、

・個人
・産業(企業)
・政府(国家)

といったレイヤー構造で整理してる感じでしょうか。

奥さん:特許の話もこのあたりで出てきそうですね。この本は欧米にフォーカスして書かれてるので日本史もたまに思い出しておくとおもしろいと思うんですけど、去年ちょうど明治維新150周年だったんですよね。これが1868年。

明治維新が起こる直前の1867年に開催されたパリ万博には、当時の江戸幕府、薩摩藩、佐賀藩が別々に出るという面白い事態になっていたのですが、ただ博覧会に出るということだけじゃなく、諸外国がこの場で「特許権」「商標権」「意匠権」等のいわゆる工業所有権の国際会議をひらいて国際的な協定を締結する必要があるという決議をするために呼ばれたという側面もあったようです。

その後、1883年に「工業所有権の国際的保護に関するパリ条約」が生まれ、日本は1899年に加盟というタイムラインです。

※パリ条約:各国特許の独立、同盟国に出願する場合の優先権など、現在の特許制度の基礎となる条項が定められた条約

国内で言えば、1884年(明治17年)に商標条例が制定。1885年に専売特許条例となっているようですね。で、明治維新からだいたい50年後の1914年に第一次世界大戦となるわけなんですが・・・今ちょっとググってみたら、この年の創業の特許事務所多いね!

(他にもありましたが割愛)

日本でもそういう潮流がきてたんじゃないかなーと思ってみたり。そのあたりは我々の方で調べて楽しみたいところですね。やっぱり自国のことは身近だし。

3. 管理・労働組合・政府の役割(4~6章)

奥さん:テーラー主義って何?

大仏:ググってみたけど、「科学的管理法を導入することによって、生産現場の労働効率を著しく向上し、雇い主には低い労務費負担を、労働者には高い賃金支払いを同時に実現することができるとする思想」とのこと。

こういう話ってすごい昔から奴隷の管理みたいな話はあったと思うんですが、それを改めて学問レベルでやっていこうという試みですかね。

奥さん:奴隷制度と一番違うのは「労働者側の幸せを考えて雇用者側とWin-Winの関係を築く」ってところじゃないですかね。労働者は車を買えるくらいの給与を稼ぐ。それによって社会が発展して、経営者も会社の売上が上がるんだ、というような。

大仏:「人口の多数を占める労働者の置かれた環境と、技術進化の関係が重要だ」と。4章で労働現場における労働者について語り、労働現場ではより広い目線で労働環境(給料、勤務時間など)について議論すると。

働き方が生産性に大きく影響するのでは?というのは、会社の組織としても個人としても今でもよく議論されるテーマですしね。6章は「政府の役割」なんですが、その前に「労働組合」という章があるのがなんとも味わい深い。

大仏:ちなみに、今回の話どこかで近いこと考えたと思ったら『(一年戦争時代の)ガンダム』でした。アニメでは「アムロ・レイという天才」が「ガンダムという最新モビルスーツ」に乗って無双していくストーリーなんですが、一年戦争をテーマにした『ギレンの野望』というシミュレーションゲームでは、アムロ1人が活躍しても全然勝てないのです。

むしろ優秀でコスパの良い量産機「ジム」を早く作ること、そのために開発レベルを高めていくこと、研究開発に投資するために経済力を高めていくこと、こそが勝利の鍵だったんです。

4. 今回のまとめ

個別具体的な技術の話ではなく社会背景や技術が生まれる素地についてしっかり語る構成なのが印象的でした。技術の歴史だとどうしても「ジェームズワットが蒸気機関を発明した」「エジソンが電球を発明した」みたいなたまに生まれる天才の話になりがちなところを、ちょっと俯瞰してみるといいますか。

現代でも「スティーブジョブズがiPhoneを作った」といった語られ方はするわけで、その背景にあるアップルの組織としての取り組みだったり、アメリカ・シリコンバレーの風土を合わせて考えていく必要がある(むしろそちらの方が重要かもしれない)と思えたのが重要な気付きです。

また、「管理」の章に出てきた「テーラー主義」は科学的手法で労働者の生産性を測り向上させていった(そして社会の技術水準を向上させていった)わけですが、現代だとむしろテクノロジーでそういった取り組みをしていくことが重要な気がしました。

次回以降は、化石燃料・電気といった具体的な技術の素地となっていく話題も出てきますので、引き続きよろしくお願いします。

参考:今回読んだ“目次”詳細

1章 世界史への位置づけ
1900年の世界
国際的緊張の高まり
第1次世界大戦と戦後の再建
自由主義時代の終焉
第2次世界大戦
1950年代の世界

2章 技術革新の源泉
技術革新の特徴
産業革新家の動機付け
発明の源泉
技術革新と産業構造
政府の影響
結論

3章 技術開発の経済学
概観
技術の多様性と範囲
産業構造
技術革新の金融
産業集中度の時間的推移
研究開発支出と産業成長
発明と革新
技術変化の動態
技術と経済構造

4章 管理
テーラー主義
経営教育
産業心理学
巨大企業の出現
多角化

5章 労働組合
序説
今世紀の初頭
第1次世界大戦とその余波
第2次世界大戦

6章 政府の役割
技術開発の特質とその経済的意義
技術と戦争
技術開発における政府の機能
技術の社会的影響
技術と開発途上国
技術開発に有利な風土の創造

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