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スタートアップが特許訴訟で死なないためにーー特許クリアランス調査の費用・依頼先・タイミングなど徹底解説

先日こんな記事を書きました。

今回は続きとして、「スタートアップが特許侵害訴訟を受けて死亡しないためにできること」というテーマで書きます。

特許侵害訴訟を受けると死ぬの?

仮に死ななくても泣くほどツライです。

たとえば、前回の記事で紹介した記事では、Exit(M&A)時の買収額が推定価値524億に対して365億と、約160億円(30%)のディスカウントが行われたという推定がされています。

かなりざっくり推定な上に、特許訴訟がディスカウントにどこまで影響しているかも不確定ではありますが、参考にはなると思います。

あとは、特許訴訟による対応コストは平均3.2億円(前回記事より)という試算があったり、訴訟対応に法務スタッフだけでなくエンジニアも稼働が必要になり(証拠資料の整理など)その間のサービス開発が止まったりなど、まあ大変です。

スタートアップのための「特許クリアランス調査」入門

では、ここから具体的な対策について書いていきます。

特許クリアランス調査とは「他社の特許を確認して、自社サービスが他社特許を侵害しないか調べる」調査です。

クリアランス調査については、下記ページの説明が比較的わかりやすいです。公開されている特許情報(海)の中から、自社に関係ありそうな特許をざっと集めて(網の中の魚)、さらにしっかり検討するべき特許をリストアップ(赤い魚)するイメージです。

テクノリサーチのサービス:侵害防止調査、クリアランス調査、FTO調査

ちなみに「FTO=Free To Operate」の略で、ビジネスを自由に展開するために邪魔になる特許が無いかどうかを調べるという意味になります。

クリアランス調査の費用、いくらかかる?

上記テクノリサーチのページでは費用例として60万円と書いていますが、この辺は読み込み対象とする特許数(網の中の魚の数)や技術分野などによって上下するので、だいたい50万と思うのが良いでしょう。

ちなみに、下記の助成金があり、条件が合えば

・使った費用の1/2
・上限100万円

まで補助してくれます。

※ 6.特許調査費用助成事業が対象になります。

自分たちで調べるのは難しい?

特許情報は基本的に公開されていますし、検索するためのツールも無償・有償問わず提供されているので、特許自体を自分で調べることは可能です。(むしろ日常の業務の中でググって情報収集するレベルで特許情報を活用できるのがベストだと思います)

ですが、クリアランス調査に関しては、社内に特許調査の経験者がいないのであれば、社外のプロに依頼するのをお任せします。

・検索条件を検討して、読むべき母集団を作るのが難しい
→「特許分類」という技術テーマごとに特許公報に割り振られるタグがあるが未経験者が使いこなすには難しい。また、特許の書類(特許公報)は権利範囲を最大化するため上位概念化されることが多く、業界内で使われる用語とは違ったキーワードを使うことが多々ある

・特許公報を読むのが難しい
→特許公報は技術文書でもあり権利文書でもあるという特殊な書類で、どこを読むべきかそもそも分かりにくい。また、読むべき箇所は権利範囲を規定するためにかなり小難しく書いてあり、内容を把握するのが難しい

からです。

クリアランス調査で社内の人間が稼働するべき場面は

・社外の調査会社がピント外れな調査をしないように、自社サービスやビジネスモデルをしっかり説明する
・問題になりそうな特許が見つかって、自社のサービスが権利侵害しているかを確認する
・権利侵害の可能性が高いときに、その後の対応策を練る

フェーズであり、それ以外の部分はその道のプロに任せるのが適切かと思います。

クリアランス調査、誰に頼むのが良い?

じゃあ誰に頼んだらいいの?って話なんですが、もし既に特許出願などで特許事務所や弁理士に相談しているようであれば、そこに相談してみるのが良いです。

なぜかというと、事務所が調査の窓口を請け負ってくれる場合があるからです。また、クリアランス調査をして仮にヤバい結果が出た場合、その後に弁護士・弁理士を交えた対応に入る可能性が高いですし、(詳細は後述しますが)クリアランス調査と合わせて特許出願を進める場合も考えると、同じ特許事務所がマルっとカウンターパートになってくれるのがベストです。

サービス開発に集中したいスタートアップにとって法律周りで複数の外注に対応リソースを散らすのは得策ではありません。一覧托生ではないですが、スポットのリソースとして考えるのではなく、VCのように自社の将来のビジネスプランまで共有するようなパートナーシップを組めるような相手を早いうちに見つけておくと良いでしょう。

クリアランス調査、どのタイミングでやるべき?

主に下記2つのタイミングになります。大きなお金をもらう前と、大きなお金を使う前です。

お金をもらう前の例だと、わかりやすく言うとIPOを視野に入れたタイミングとかですね。記事冒頭で書いたとおり、特許を含めた知財関係でリスクがあると企業評価に影響があるので、その前にリスクのない(正確には「限りなく低い」ですが)クリーンな状態だと相手に説明できる必要があります。

このあたりはコンプラだったりセキュリティ周りだったり、社内のリスクをざっと洗い出すタイミングがあると思うので、そこを一つの目途にしておくと良いでしょう。

次にお金を使う前ですが、これは大々的に広告を打つ前とかですね。せっかくお金を使って知名度を広めたり利用度を高めたりした後で特許侵害でサービスストップなんて自体は避けたいところだと思います。

下記資料はスタートアップ関連で著名な『起業の科学』著者の田所氏が作成した資料です。

97ページあたりのPMF(Product Market Fit)達成がポイントで、

・ユーザーが求める機能が明確になりつつある
・コンバージョンが高まり、ユーザー獲得に本格的に動き出す直前

という状態を達成していることにより、

・クリアランス調査すべき機能が明確になる
・大量にお金を使う前にリスク回避ができる

と、クリアランス調査に適したタイミングと言えます。

クリアランス調査と合わせて特許出願のススメ

PMF達成のタイミングでクリアランス調査と合わせて考えたいのが特許出願です。ユーザーに提供する機能が固まりつつあるこのタイミングは、特許出願にも適したタイミングとも言えます。自社で特許出願しておくことにより、その後の他社の特許取得を防止することも可能になるので、その点からも特許出願を視野に入れると良いでしょう。

とは言え特許出願は早い者勝ちの側面があるのと、世の中に公開される前に出願している必要があることから、特許出願に関してはもっと前の段階から進めていくのも良いと思います。

訴訟のシミュレーションとしてのクリアランス調査体験

最後にちょっと違う観点から。特許訴訟は多くの場合、「あなた、うちの特許権を侵害してますよ」という警告書が郵送されてくることから始まるんですが、いきなりそんな警告書が来たら怖いですよね。

参考:こんなかんじです

警告書には、特許侵害を主張する特許のリストが同封されてるんですが、特許を読んだこともない状態でそれに冷静に対処するのはなかなか難しいかと思います。

警告書に含まれる特許のリストは、

・事業会社からの警告の場合は「確度の高い特許が少数」
・パテントトロール・PAEsの場合は「確度の高い特許が少数 or 確度の低いものも含めた特許が多数(後者の場合は、多数の企業に同じリストをばらまいている)」

参考:任天堂がコロプラを訴えた訴訟は特許5件が対象

なんですが、少数の特許をしっかり読み込むにせよ、多数の特許をざっと読むにせよ、クリアランス調査で特許のリストを読んだ経験は必ずや生きてくると思います。

まとめ

以上、スタートアップ向けの特許クリアランス入門として

・スタートアップと特許訴訟
・クリアランス調査の内容
・クリアランス調査の費用
・調査を行うべきタイミング

などまとめてみました。スタートアップの皆様の参考になれば幸いです。

※ 本記事の前編「スタートアップを取り巻く特許訴訟の現実」についてはこちら。

(twitter:@tech_nomad_

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テクノ大仏(『技術広報の森』編集長)

ITスタートアップ向けの特許活動や技術資料作成支援など行うテック系フリーランスが、「アジアの最新IT事情」「ITスタートアップと知財」などのテーマで記事を書いていきます。

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