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「発明者に寄り添う」という、特許の仕事の原点について

2018年の年末は、こんな記事を読んでいた。

少年ジャンプ伝説の編集長・鳥嶋和彦氏と、角川書店をサブカル業界の雄・KADOKAWAに育て上げた功労者・佐藤辰男氏という、コンテンツ業界のレジェンド2人の対談記事である。

この記事では「中堅出版社だった角川書店がラノベ(ライトノベル)という新しい書籍のジャンルを開拓し、総合メディア企業としてコンテンツ業界で大きな役割を担っていく過程」を描いている。

そんな記事の最後で語られるのは「編集者とは何か?」という問い。記事の後書きで語られているが、この問いは本対談の聞き手であり、同記事が掲載されている電ファミニコゲーマーの編集長・TAITAI氏が長年感じていたもので、同氏は「今回、自分にとってのその答えが出たような気がする」と述べている。

自分は、TAITAI氏がたどり着いた答えを読みながら「作家と編集者の関係と、発明者と特許担当者の関係」の類似性について想いを馳せ、そして最近の自分を戒めた。この気持ちを忘れないよう、本記事にまとめておきたいと思う。

対談の最後で語られた「編集者とは何か?」という問い

この対談記事の大まかな構成を説明すると下記の通りである。

・KADOKAWAはいかにしてラノベという新ジャンルを切り開き、総合メディア企業となったのか
・その過程で、佐藤氏やKADOKAWAの編集者はどんな役割を果たしたか
・編集者とはいったい何なのか、編集者に必要な資質とは

今回語りたいテーマは、対談の最後の「編集者に必要な資質」の中で出てくる。少し長くなるが、TAITAI氏の書いた後書きから該当部分をいくつか引用する。

佐藤氏の凄さとはいったいなんだったのだろうか?
それは要するに、目利きなどではなく、まして独自の編集理論でもない。
鳥嶋氏も認めた佐藤氏の凄さとは、何よりも作家に「共感する才能」であった。そして、それこそが編集者にもっとも求められる資質であり、最初に必要とされる感覚だったわけだ。
編集者は、自身が何かを生み出すわけではない。編集者とは、他人の才能を引き出し、その才能を磨く職業だ。なればこそ、まず誰よりも最初に作家(才能)を認め、励まし、そのクリエイティビティに寄り添うことが、編集者には求められる。
その「奇(稀)なるもの」を目の当たりにしたとき、多くの人はそれをそのままでは理解できない。だからこそ、それを理解し、共感したときに得られる面白さを、広く人々に伝える「編集」という仕事が重要となるのだ。

「作家と編集者」と「発明者と特許担当者」という関係の類似性について

この対談を読むまでそういう見方をしたことがなかったが、特許担当者と編集者の仕事は実に似ている。

編集者の仕事は「作家の頭から生み出された創作物(世界観であったり、キャラクターであったり)を起点にして、いかに社会に良い影響を与え、そこで生まれた利益を作家や出版社に還元するために縦横無尽に動き回る(創作内容に意見をしたり、プロモーションを考えたり、権利処理をしたり)」ことだと思っている。

かたや特許の仕事は「発明者の頭から生み出されたアイデアを起点にして、いかに社会に良い影響を与え、そこで生まれた利益を発明者や企業に還元するために縦横無尽に動き回る(発明を権利化したり、その権利を適切な形で活用したり)」こと。こう見てみると、特許の仕事と編集の仕事は本当に良く似ている。

特許の仕事(あるいは編集の仕事)に日々関わっている人が見たら「現場ではそんな広い業務領域はカバーできない」と思われるかもしれない。それは自分も十分承知している。

かくいう自分も弁理士のように特許の明細書を自分でバリバリ書くわけではないし、特許侵害の裁判で当事者になったこともない(ちなみに、特許庁を相手取った審決取消訴訟は関わったことがある)。

なので、自分は特許の仕事を細分化した様々な分野(弁理士であったり、情報分析の専門家であったり)のプロフェッショナルと繋がる努力をしてきたし、その人たちと対等な関係になるために、自分しか持っていない専門性を磨こうとしてきた。

自分の場合だと、コンテンツ業界の知見をテック業界に持ち込む。さらに視点を上げて「他分野や他文化、過去の歴史からの知見を自分の頭の中に構造化してストックして、その時々で関わっている案件に接続する」スキルを磨くことは、それを意識した上で選んだ道である。

発明者の悲しみを救う「特許」という仕組み

コンテンツ業界における作家と同様、時に発明者も孤独な存在である。

「このアイデアはおもしろい。絶対に社会を変える」と本人が思ったものでも、所属組織の判断で自社では実装されないこともある。

そこで「自分で起業をしてでも!」と動き出す人もいるが、自分は万人がそうではないと思っている。自分もそうだが、全ての人が強いわけではない。体調を崩すときもあれば、いろんな状況がそれを許さないときもある。

発明者個人ではなく、サービスを提供する企業の単位でも同じ。自社のサービスで社会を良くしようと思っても、いろんな事情で事業継続が難しいこともある。

自分が特許の仕事に魅力を感じているのは、特許の仕組みがこういった「発明者の悲しみ」を救える可能性があるからだ。

昨今は「考えた人ではなく実現した人が偉い! 最初に形にした人が正義だ!」という風潮があるが、正直に言うと自分はこの空気に疲れている。

自分は「考えたことを自分で実現できなかった人も、もっと尊重される社会であってほしい」と常々思っているし、特許は社会をその方向に少なからずシフトさせる可能性がある「人類が生み出した知恵」の1つだと思っている。

僕は自分自身もアイデア倒れで終わることが多い人間だと自覚しているので、特許がもたらしうる社会の変化に希望を抱いているし、それに救われる多くの人がいると思っている。

発明者に寄り添いながら特許の仕事をする

さきほど書いたような想いを実現するためには力がいる。アイデアを考えた人が報われるためには、(特許の文脈でいうなら)そのアイデアを強い権利にする能力が必要だし、それをうまく活用する能力も必要だ。それは間違いない。ただ寄り添うだけではプロフェッショナルとは言えない。

でも、最近は「力を付けたい」が先行し過ぎて、想いに目を向ける機会が無くなっていたなと思ったりした。記事前半で紹介したTAITAI氏の後書きには、こんな記載もある。

思えば、前述の鳥嶋氏へのインタビューでも、それを「好奇心」という言葉で表現していた。いわく「才能は奇(稀)なるもの」、「まず奇(稀)なるものを面白がること」が重要だと。これに比べれば、作品そのものの目利きやプロデュースの巧さなどは、些細な能力に過ぎないのかもしれない。

自分が特許に対して持ってる想いを今一度振り返り、また今後も定期的に目を向けようと思った。

おまけ

今回取り上げた対談記事だが、最初は「コンテンツ業界の知見をテック業界に横展開」するために記事を読み始めた

2018年の夏にコンテンツ系の仕事からテック系(特許)の仕事に復帰して数か月。自分の中で時間をかけて考えようと思ったテーマの1つが「コンテンツ業界で得た知見をテック業界に応用する」ことだった。

下記の記事は自分の頭の整理もかねて、最近のコンテンツIP戦略について自分がいま持っている知識をまとめたものだ。こんな感じで自分の頭の中身をまずは言語化して、他業界の仕事にも応用できる準備をしておきたいと常々思っている。

知見の横展開の話でいうと、たとえば対談の中で「角川書店がさまざまな会社を吸収統合して、オタク業界の雄・KADOKAWAグループになっていく」エピソードが出てくる。

佐藤氏:偶然もあるんですけど、一緒になる相手には、自分たちの強い方面のメディアミックスをさらに強化する、映像とオタク系をやっぱり選んでいるんですよね。映画にしても大映であったり日本ヘラルドであったり。その一方で出版は、いちばん最初はメディアワークスだけど、アスキー、エンターブレインにメディアファクトリーでしょ。これらはどこもライトノベルとマンガをやってる出版社ですよ。

シリコンバレーであれ深センであれ、イノベーションが連続的に生まれる場所にはいろんなリソースが集積しているという話はよく聞く。

それと照らし合わせるなら、

「コンテンツ業界にイノベーションを起こしたKADOKAWAグループにどんなリソースが集積しているか(例えば、どんな出版社がグループ内にあるのか)」

を調べることで、「イノベーションとリソースの集積の関係」について、新しい切り口が出てくるのではと思ったりしている。

もう一段メタな見方をすると、この対談はマンガ業界とラノベ業界の伝説的人物が

・ラノベという新しいジャンルを育てるために、マンガという他ジャンルをどう参考にしたか(KADOKAWA目線)
・マンガ側から見て、ラノベはどのように見えていたのか(少年ジャンプ目線)

について当時の状況を語っているわけで、一流の人たちが他分野をどんな視点で見ているかという学びに溢れている。これは「コンテンツからテックへの横展開」をテーマとしている自分にとって、実に貴重な教材だ。

これはこれで書きたいことがたくさんあるのだが、今回の記事の本題ではないので別途記事にまとめたいと思っている。

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テクノ大仏(『技術広報の森』編集長)

ITスタートアップ向けの特許活動や技術資料作成支援など行うテック系フリーランスが、「アジアの最新IT事情」「ITスタートアップと知財」などのテーマで記事を書いていきます。

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