特許の仕事は「テクノロジーによる課題解決の歴史と未来を巡る旅」である

今年、ひさびさに特許の仕事に復帰した。本格的に関わるのはエンジニア向けに知財教育をしていた5年以上ぶりになる。今はそのときの同僚に誘ってもらって、ITスタートアップの知財活動を手伝っている。

ひさびさに特許の仕事に関わって思うが、自分は特許の仕事が好きだ。なぜなら、それは自分にとって「テクノロジーによる課題解決の歴史と未来を巡る旅」だから。

1. 「課題解決の歴史」を辿る

たとえば、クライアントが新しく開発したサービスについて特許をとれるかアドバイスを求めてくる。

そのときに自分がする仕事は「過去にそのサービスと似たアイデアが無かったか調べる」ことだ。「どのような課題に着目していて、それをどのような手段で解決しているか」を軸に、過去の特許文献を調べていく。同じ業界のものも、違う業界のものも。かなり昔の者から、公開されている直近のものまで。

特許が権利として認められるには「新規性(これまでにない新しいアイデアである)」が必要で、それを客観的に証明する必要がある。そのためには、過去の文献を探し、違いを明確にする必要がある。

目の前の依頼に対する期限も気にしつつ、時間の許す範囲で気になった文献をできるだけ読むようにしている。ネットニュースを見てるよりよほど面白い。

2. 「課題解決の未来」に想いを馳せる

ときには、新しいアイデアを生み出すところからお手伝いすることもある。新規事業のアイデア出しなどだ。

『アイデアのつくり方』(ジェームズ・W・ヤング著)という発想法の名著の中に、

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせだ

という有名な言葉がある。

自分もまさにそのとおりだと思っている。

なので、アイデア出しの場面では「いかにクライアントが知らない既存の要素を場に出せるか」を意識するようにしており、そうすると他のメンバーが思いもよらぬ組み合わせ方をしてくれたりすることが多い。

自分の場合、大まかに下記3パターンでアイデア出しに貢献できる情報をストックするようにしている。

2.1 別分野の事例を持ってくる

クライアント向けのアイデア出しの場面では、まず「別の分野で既に起こったこと(実用されている技術、発生した課題など)」を考える。自分がエンジニアだったころの経験、特許の仕事を通じて読んだ様々な特許文献から得た知識を総動員して。

どの分野の事例を持ってくるか考えるときは「共通点」と「相違点」がある分野を選ぶ。と言っても分野が違えば「相違点」はほぼ必ずあるので、何かをフックにして共通点がある分野の事例を持ってくる。

先日スマートホーム関連のアイデア出しに参加したときは、工場用ロボット業界の話をした。「相互に接続された複数台のロボットを活用する」という共通点があるからだ。

過去事例との共通点をヒントに「ほぼ確実に起こる課題」を探り、過去事例との相違点から「新たに起こりうる課題」を探り、解決手段を考える。

2.2 海外の文化に触れる

別分野の応用編として、他の国での事例を参考にしたりもする。一昔前に「タイムマシン経営」という言葉が流行ったが、ITビジネスの場合、アメリカや中国の事例を日常的に調べるようにしている。

米中からの輸入のように単純に技術的に進んだ地域の情報を持ってくることもあるが、自分の場合はさまざまな分野に関する「文化」を仕入れるようにしている。たとえば下記のような記事だ。

様々な地域でのお金に関する風習・考え方などがまとめられているのだが、自分はアフリカのベナンにある「Tontine(トンティン)」という風習に興味を持った。

ざっくり説明すると「グループで毎月一定額のお金を持ち寄って、メンバーが順番にそのお金を受け取る制度」だ。それによって、貯金の習慣がない現地の人でも定期的に大きな現金を確保することができ、車など高価なものを購入できるようになる、と。

こういう話を聞いて、何か応用できないかなと考える。日本だと貯金をする習慣はそこそこあるけど、月末に「スマホの通信量が切れてる(ギガが死ぬ)」という声はよく聞く。そういう問題の解決にうまく使えないかなと考えたりする。

さまざまな地域で長年続けられてきた風習は、だいたいの場合、何かの課題を解決するために作られ、生き続けている。先人の知識をうまく活用させてもらえるよう努力している。

2.3 SF作品を見る

さらに発想を飛ばした情報を得るために、定期的に小説・マンガ・映像作品など、SF作品を読むようにしている。

直近だと下記の2冊を読んだ。前者は「AI自動車同士が交通事故を起こす直前のコンピュータ同士の会話」、後者は「生まれてから死ぬまでVRヘッドセットをかぶって生きる民族の暮らし」をテーマにした作品だ。Kindleでサクッと読めて200円なのでおススメである。

こういう作品を読みながら、具体的に描かれている部分は未来の1つの選択肢として参考に、描かれていない部分は自分で未来を妄想する材料にさせてもらう。

今回は小説を例に出したが、マンガやアニメ・ゲームも参考になる(ちなみにSFの権威ある文学賞「ネビュラ賞」では、2018年からゲーム作品も対象になった)

まとめ

特許に関わっていると、仕事で触れる情報と日常で触れる情報すべてを紐づけて「古今東西の課題解決の歴史と未来」について思いを馳せることになる。

最近特許の仕事に復帰して、この環境はおもしろいなと改めて思ったので、文章にまとめてみた。

(twitter:@tech_nomad_

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