特許事務所のドル箱「外国出願」とAI翻訳の今後について

以前告知した「弁理士のキャリアデザイン」についての座談会、無事に終了しました。

大まかな質問案は既に公開していましたが、当日スキップした質問や参加者からいただいた質問を追記したものを改めて貼っておきます。

今回は自分が進行を担当したこともありツイッター実況などできませんでしたが、対談の様子は後日まとめて記事としてどこかに公開する予定です。

なので、このnoteでは、その中から1つだけトピックを上げてご紹介しようと思います。

特許事務所の今後のビジネスモデルについて

「弁理士のキャリアデザイン」を主なテーマとしたものの、それを考える上で重要になる「特許事務所の今後」についても質問がいくつかありました。

今回はその中から「いま特許事務所のドル箱と言われがちな外国出願(内外・外内)」の今後に絞って書いてみようと思います。

特許事務所の「ドル箱」と言われがちな特許翻訳

大手特許事務所に在籍する特許翻訳に携わっている方が、こんなツイートをしていました。

昨今の機械翻訳(いわゆるAI)の進歩によって「特許翻訳の自動化が進み、この利ザヤが稼げなくなる」という話がここ1~2年の特許事務所経営のホットトピックの1つになっています。

このツイートが本当であれば、「ドル箱」というより「命綱」になっちゃってますね。

特許事務所側の危機感を煽るかのように、企業側から「AI翻訳を導入することでコスト削減に成功!」といった事例紹介記事が出たりもしてます。

私たち特許部門は、先ほど説明した多大なコストと時間を要する明細書の翻訳作業の効率向上を進めることを決めました。具体的には、翻訳作業を行うにあたり、自動翻訳ソフトウェアもしくはシステムを導入し、コスト低減と作業時間の短縮を実現することを考えました。(中略)
外部の特許事務所や翻訳会社に翻訳作業を依頼することにより発生する、翻訳費用を大きく圧縮することができます。さらに、翻訳作業に要している時間も大幅に短縮できる(中略)
社内で「AI契約書翻訳サービス」を使って翻訳すれば、外部に出ていく翻訳費用はゼロになり、サービスの年会費だけを考えればよいわけですから、予算管理も非常に楽になります。こうした効果の存在は、実際に導入してから気付きましたね。
引用:特許部門のコスト、大幅削減の決め手はAI翻訳 ルネサスが歩んだ導入までの道のり

「コスト削減、納期も短縮、予算管理も簡単」とまさにべた褒めで、本格的に導入を進めるためにドキュメント整備など進めているとのことです。

自分は知財に関わるきっかけが企業知財部側だったので「外国出願高いなー。ツライ」という立場でした。言い換えれば特許事務所にとっては美味しい案件だったのかもしれません。

外国出願による利益は当てにしない。ボーナスみたいなもの

この世知辛い話題に対して参加者から質問があり、それに対して登壇者が所属(というか経営)しているIPTech特許業務法人の状況に関して説明がありました。

ざっくり書くと下記のような話。

・IPTech特許業務法人はできたばかりの事務所なので、外国出願の優先権主張の期限(※1)が来てないクライアントがほとんど(=外国案件がほぼ無い)
・それでも事務所としては健全に利益が出ている。所員の採用を積極的に進めているくらい(現在14名の事務所で4名採用予定)
・外国出願の利益は当てにするものではなく、ボーナスみたいなものと考えた方がいい。機械翻訳でコストは下がり、利益も減っていくと認識している。
・国内の基礎出願および顧問契約などで価値を提供し、そこだけで経営上問題ない状態にしていくことが大事と考えている

※1に書いた「外国出願の優先権主張」について簡単に説明すると「外国に特許出願する場合には、日本で出願してから1年以内に出願すると良いことがある。逆に、1年以内であれば急いで出願するメリットはあまり無い(ので普通日本の出願から1年後を目途に外国出願の準備を進める)」というもの。

(詳しく知りたい人は下記ページなど参照してください)

「まだ優先権の期限来てないんで、そもそも当てにしようが無い」って、これ以上なく分かりやすい話だったなと思います。

AIによる特許翻訳コスト削減はむしろチャンスに?

ここからは座談会中の話ではなく、その数日前に収録した「インターネットラジオ・知財Bar」の中で出た話(この内容の動画は5月下旬にYoutubeで公開予定)。

ラジオ収録後に事務所で麻雀にいそしむ出演者たち

番組中の雑談の中で「外国出願の翻訳費用で儲けてる事務所」という話が出たんですが、某出演者から「AIによるコスト削減分がまるまるクライアントへの請求から削減されるわけではない。そう考えると、実はAIの導入はボーナスの時期だと思っている」という話がありました。

この話題、収録中に掘り下げなかったので、同席した自分が勝手に予測すると「AI翻訳を導入するだけではなく、AI翻訳を使って成果を上げるにはそれなりの準備もいるし、ノウハウも必要」なので、その部分は事務所の新たな付加価値になる可能性あるよね、ということだと考えてます。

さきほど紹介した企業知財部側の導入事例でも下記のような話が出てきます。

翻訳前の日本語の明細書原文の作り込みが非常に重要だと考えています。自動翻訳においては、原文で主述の関係を明確にすることや、短文で表現することがポイントですので、現在は日本語明細書の作成ガイドラインの整備を進めているところです。(中略)
日本語明細書の作成ガイドラインの他にも、「AI契約書翻訳サービス」のトラブルシューティングの整備やファイル名の付け方など、細かい部分まで考慮した仕組みを整備しているところです。大変な作業ですが、導入効果を上げるためには重要であると考えています。
引用:特許部門のコスト、大幅削減の決め手はAI翻訳 ルネサスが歩んだ導入までの道のり

これは企業知財部側が仕組みを整備するという文脈ですが、すべての企業が自社でそんなことをできるわけないので、ここに新たな利益の種があるということかなと聞いてて思いました。

おわりに

湯浅氏は外国出願と特許翻訳費用の話について、「外国出願の費用がコストダウンされるということは、クライアントにとって知財戦略の選択肢が増えるということ。戦略立案や実行の方で価値を提供すればよい」と話していました。

上記発言から何を感じるかは人それぞれで良いと思いますが、「弁理士のキャリアデザインや特許事務所の役割」を考える上で良い示唆となる発言だったと思います。

今回は座談会で話した中からごく一部のトピックを切り取った形になりましたが、全体をまとめた記事を後日公開予定です。そちらも楽しみにしていただければと思います。

(twitter:@tech_nomad_

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テクノ大仏(『技術広報の森』編集長)

ITスタートアップ向けの特許活動や技術資料作成支援など行うテック系フリーランスが、「アジアの最新IT事情」「ITスタートアップと知財」などのテーマで記事を書いていきます。

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