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ソニーはなぜ超一流フランス料理店を自社ビルに作ったのか

『IP Business Journal』という知財系の雑誌で、ソニーの新旧知財部長による対談「知財を経営に組み込むDNA」(聞き手はIPTech特許業務法人副所長兼COOの湯浅竜氏)という記事の編集を担当させていただきました。

「IP Business Journal 2018/2019」巻頭記事「知財を経営に組み込むDNA」

今回は、この記事の編集を担当して最も印象に残った「銀座のソニービルに作られた超一流フランス料理店」について書いてみました。

銀座の伝説のフランス料理店「マキシム・ド・パリ」

1946年に創業したソニーはビジネスを順調に拡大し、1966年にはソニービルと呼ばれる自社ビルを銀座の数寄屋橋交差点に作ります(2017年3月に営業終了。現在はリニューアルして、Ginza Sony Parkという広場になっている)。

ソニーおよび日本企業のショールームとしてオープンしたソニービルは、当時の不況をものともせず、「銀座の人の流れを変えた」と言われるほどに人気のスポットとなりました。

そんなソニービルのオープンに合わせて、当時の副社長・盛田昭夫氏の肝入りで作られたのが超一流フランス料理店「マキシム・ド・パリ」でした。

名物メニューとして知られる「苺のミルフィーユ」は銀座を代表するスイーツとして話題に。2015年の営業終了時にはネットニュースで話題になり、現在はGINZA SIXにある「ザ・グラン 銀座」で復刻版が販売、歓喜の声が上がりました。

ウォークマン・CD・テレビ・プレイステーションといったハードウェア製品だけでなく、ソフトウェア(コンテンツ)の面でも音楽・映画・ゲームなどエンターテイメントの発展に広く貢献してきたソニーは、食の世界でも文化の発展に貢献してきたのです。

SONYというブランドをいかに磨くか。それを常に考えていた

対談記事の中に、こんな発言があります。

僕らが新人のときに叩き込まれたのは、どうすれば「SONY」というブランドを磨けるかを考えるように、ということです。(中略)良い製品を作るとか、良いサービスをすることは当たり前であり、そこにどう付加価値を付けていくかをひたすら考える。「SONY」にラグジュアリー感を持たせるために何ができるかを考え、実践していくということです。

続いてこんなエピソードが語られます。

例えば、ソニーは規模が小さい会社の頃からピエールガルソンと一緒になってマキシム・ド・パリという超一流のフランス料理店を立ち上げたり、社用ジェット機を所有していました。ソニーはそんなものまで持っているのかということまで含めて、幅広いブランドイメージを形成していました。

自分で決めた枠に捕らわれないこと

若手の知財人材に向けたメッセージとして、現在のソニー知的財産担当役員の御供氏は「自分で知財の仕事の枠を決めない、定義を決めすぎないこと」とおっしゃっていました。前述のマキシム・ド・パリのエピソードについて、「やっぱり日本を代表する経営者はすごいな」と思うのか、「自分もこんな提案ができるようになろう」と思うのか、ここに大きな差があると思います。

もちろんフランス料理店とかジェット機というのは極端な例であり、誰しもが実践できることではありません。さきほど引用した発言に、“「SONY」にラグジュアリー感を持たせるために何ができるかを考え、実践していくということです。”とあるように、選択肢を可能な限り広げて、それぞれの効果を見極め、実践できるものから実践していくというのが実際の実務です。

大事なのは「自分で枠を決めない。打ち手を制限しない」こと。90年代からソニーの様々な製品・CMなどに触れてきた自分としては、今の時代であっても「ハードウェアとコンテンツを両方作れる企業」として、ソニーより先に頭に浮かぶ企業はありません。

CDの普及を加速させたソニー知財部の戦略

記事を担当した編集者・ライターとしては「マキシム・ド・パリ」のエピソードが一番好きなのですが、特許実務に携わるテック系人材としては記事後半にある「CDの特許に関するライセンス契約」の話が一番興味深いです。

中村:ビジネス戦略に知財活動を積極的に組み込んでいく体制を作るべきと考えています。
御供:ビジネスを考えて知財を活用する発想は中村さんの頃からありましたよね。CDのときの話ですが、アダムソンというカナダ人が特許を持っていた。でも、小さい会社なので彼だけでは何もできなかった。そこで中村さんが、彼のために特許ライセンスの仕組みを作ってあげたんです。
アダムソンは収入を得ることができて儲かる。一方で、CDを作るときのコストが明確になるのでより多くのメーカーが市場参入して全体の市場が大きくなるというソニーにとってのメリットもありました。

ざっくりまとめると、

・CDビジネスを始めるにあたって必須の特許を個人発明家のアダムソン氏が持っていた
・ソニー、フィリップスなど大手家電メーカーと個人発明家が対等に話ができる状況ではなく、ビジネスを組み立てるにあたってリスク要因となっていた(訴訟がこじれてCDビジネス全体が滞るなど)
・大手家電メーカーと個人発明家が同じスキームで話ができるように、当時ソニーの知財担当だった中村氏が、アダムソン氏のために契約を整えた

ということです。

自社のリソースを使って他社(アダムソン)を利する選択をした、だがその選択によりCD業界全体が盛り上がり、シェア一位になったソニーは大きな利益を得た、と。

これも1つの「自分で作った枠を外す」ことです。自分たちが目指したい方向があって、そのためのボトルネックが何かを見極めて、他社の領分に踏み込んででもそれを解消する

ちなみに、記事中に出てくるエンジニアのモチベーション向上の話も人事の領域に踏み込むわけで、全体を通じて「会社の枠・知的財産部という枠などさまざまな枠を外して、やるべきことを考えて実践しろ」というメッセージを角度の異なるエピソードを入れつつ記事に組み立てたつもりです。

20~40代の企業知財部を読み手に想定しているので、それぞれの状況に合わせて響いてくれればと思っています(このあたりはライターとしての小話ということで)。

日本のモノづくり企業が持ってるエピソードは面白い

先日、知人に紹介してもらって、『豊田章男が愛したテストドライバー』という本を読みました。現在のトヨタ社長の豊田章男氏が、1人のテストドライバー・成瀬弘との出会いを通じて、数字だけ・コンピュータの中だけでは分からない「車」について深く理解していく経緯を記した本です。

自分も最近は米中IT企業(GAFAとか、BATとか)のサービスだったりビジネスモデルだったり、数字でわかる、あるいはロジックでわかるような情報ばかりを追いがちだったので、SONY対談記事の仕事とトヨタ本との出会いは、それこそ「自分の思考の枠に気づかせてもらった」ような気がします。

(twitter:@tech_nomad_

おまけ:参考書籍

ソニー創業期のブランド戦略について詳しく知りたい方は下記書籍がおススメです。


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