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Vol.3 大沼酒造店【酒を造る、喜び】

宮城県南部に、仙台と山形を結ぶ交通・商いの要衝として、古くから栄えた村田という町がある。
現在も重厚な店蔵が数多く残っており、その一角に「乾坤一」を醸す大沼酒造店は位置する。創業から300年を超える老舗造り酒屋だ。

今回は、10年以上 杜氏(製造責任者)を務める菅野さんにお話を伺った。

菅野杜氏は、1999年に大沼酒造店に入社し、20年近く日本酒を造っている。
もともと日本酒が好きだったのかと聞いたところ、意外な返事が返ってきた。
「昔は好きではなかったんですよね。酒造りをしたいとも思っていなかった。」

もともと村田町周辺に住んでいた菅野さんは、人材募集をしていた大沼酒造店を、知人に紹介される。
「乾坤一」を最初に飲んだ際に、好きではなかった日本酒の「イメージがガラッと変わった」という。

(写真 左:大沼健専務、右:菅野幸浩杜氏)

その後入社した菅野さんは造りを担当することになり、次第に夢中になっていったという。
「自分の手掛けたことが結果になって返ってくる。こうすれば、こう変わる、というのが目に見えてわかる。自分で造ったものが、商品になって、美味しいと言ってもらえる。酒造り、モノヅクリは楽しいですよ。」
と、笑顔で話してくれた。

2006年に杜氏となった菅野さん。
しかし、その5年後に試練に襲われることになる。東日本大震災だ。

酒蔵は、長屋のような蔵2棟からなっているのだが、
そのうち一棟が、別の棟にもたれるように倒壊してしまった。

ライフラインも断たれ、生活するだけでも大変である。
更には、「廃業」という声も聞こえてきて、途方にくれていたという。

どうすればよいのかわからないまま1ヶ月程度過ぎたころ、
社長が皆に声をかけた。「やろう」と。

菅野杜氏は、
「またやれる、また酒造りができる。と思って。嬉しかったですね。」
と当時を思い出すように語ってくれた。

菅野杜氏の言葉や表情からは、「酒造りが好き」という気持ちを終始強く感じた。

(写真 長屋2棟からなる酒蔵。柱等は倒壊した蔵から引き継いでいる)

大沼酒造店は、原料となるお米を9品種以上も使っている。
菅野杜氏は、「ひとつひとつの個性を把握するのが大変ですね」と笑う。

それでも、「乾坤一の基本的なベースは守っていきたい。そのうえで、毎年チャレンジもしていきたい」と話してくれた。

(写真 仕込み蔵の様子。ここで乾坤一になる醪が管理されている)

そのチャレンジのひとつとして、お米と精米歩合と酵母を揃え、
すっきりしたタイプと、甘めのタイプに造り分けるという、遊び心満載なお酒も造っている。
「乾坤一 特別純米辛口」と「乾坤一 HEAVEN & EARTH」だ。

伝統を守りつつ、チャレンジする。
そして何より「酒造りが好き」な菅野杜氏が造るお酒を、
もっと飲みたいと思う取材であった。

(2018年6月6日 取材・撮影)

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てっちゃん@全国酒蔵めぐり🍶

酒蔵の魅力を知り、未来に届けるため、日本酒を醸す全ての酒蔵を巡る旅をしています。 元蔵人。元酒販店員。

酒蔵の物語

「日本酒を醸す全ての蔵を巡る旅」にて出会った酒蔵のお話。 ひとつひとつの酒蔵の物語を、「人」に焦点を当てて、丁寧に紡ぎたいです。
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