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脳内英語のすすめ

わたしの義父はアメリカ人で、日本語はほとんど話せない。

「ダイジョウブ」「ソウソウ!」「ゴメンナサイ」「ドウゾー!」それぐらいかな。

「Ayako」という名前はアメリカ人には発音しにくいみたいで、名前を呼ぶのもギリギリである。

必然的にやりとりは英語になるのだけど、日本人には英語が理解できても話すのが苦手という人が多い。

わたしももれなくそうで、完璧主義になりがちな性格も手伝って、言葉を口に出すのを躊躇ってしまい、義父といると口数が少なくなることが多かった。

間違わないよう、正確な英語を話さなくては、という勝手なプレッシャーのようなものが常にあったのだ。

ある時、義父がわたしに「もっとコミュニケーションをとりたいから、もっと話してほしい」と言った。わたしがネイティブでないのはわかっている、だから間違っても誰も気にしないと。

それもそうだな、と思ったけど、頭の中で日本語を英語に直す作業をしていると、やはりもたついてしまって話せない。

それに、アメリカ滞在中はだんだん慣れて、一週間経って帰国する頃にはヒアリングにもあまり困らなくなるけれど、帰国すると忘れてしまう。また次に会う時には慣れるところからやり直し。これでは、長期滞在しない限りいつまでも変わらない。

せめて慣れた状態のままで居られればいいのに。

その時ふと、日本語で考えるから話せないのでは?と思いついた。

それなら常に脳内の会話を英語にしてしまえばいいんじゃないか、つまり独り言を英語で言えばいいんじゃないか、と考えて、その日から脳内の言語を英語に切り替えることにした。

独り言なら、ちょっと気恥ずかしいけれど、誰に聞かれるわけでもない。

使う辞書も「英英辞典」に変えた。未知の言葉は、英語で理解するようにして、義父との会話でわからない言葉が出てきたら、都度聞くようにした。英語圏の子どもは、きっと、そうやって言葉を覚えると思ったのだ。

半年後にアメリカを訪れた時、自分では何も変わらないつもりだったけど、義父が「なんで急にそんなに英語が上手くなったんだ?」とびっくりしていた。その時はじめて、脳内英語には効果があるのかも?と思った。

その後、脳内英語はいつの間にか習慣になっていて、だけど英語がそんなに喋れるようになったわけでもなく、二年ぐらいが過ぎた頃、アメリカ人のアーティストと一緒にイベントをやることになった。

準備のためにメッセンジャーでやりとりをしたり、日本人スタッフのメールを通訳したり、遊びだったので思いのほか気構えずにやることができた。

イベント当日に会ってすぐ「Ayakoは、どうしてそんなに英語が話せるの?アメリカに住んでいたの?」と聞かれて、驚いた。

え!わたしの英語で大丈夫なんだ?

実は、今度は「自分の英語は子どもっぽいのでは?」という疑いが芽生えていて、そのせいで仕事の場では英語を話せずにいた。

わたしに足りなかったのは、英語力ではなく、自信だったようだ。

この話を友人に飲みながらしたところ、「脳内英語いいね、やってみる」と言ってくれたので、英語がわかるのに話せない人の役に立つかもしれないと思い、書いておくことにした。

そうそう、脳内英語には思わぬ副次効果がある。

脳内を英語に切り替えると、ボキャブラリーが不足し過ぎていて、シンプルなことしか考えられない。結果、ものすごくポジティブになる。

でも、だって、どうしよう、というような日本的モヤモヤを英語で表現するのは難しすぎて面倒なので省略してしまうのだ。

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