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クラウド利用料の積算方法

 来年度からガバメントクラウドを利用するけど、クラウド利用料が分からなくて令和6年度の予算要求ができない。そういった声を最近聞くようになりました。
 AWSであれば、一度動き出してしまえば、マネージドサービス(AWS Cost Explorer)にて今後1年間の利用料金の予測が可能で、それを元に予算要求をすれば良いので、実績のない初年度のみが問題となる認識です。
 今回は、この初年度に向けたクラウド利用料の積算手法について記載したいと思います。
 例によってCSPはAWS想定ですが、他のCSPでも同様な手法は活用できると思います。


1.そもそもベンダから見積もりが出てこないのはなぜか

 まず、クラウド利用料を予測して積算するというのが意外に難しいというのがあります。

 システム構成はもちろんの事、仮想サーバ等の性能や必要なストレージ容量が確定していることが前提で、ある程度運用が想定でき、かつAWSのマネージドサービスの料金形態に熟知していなければなりません。
 マネージドサービスだけではなく、それらを用いた設計と料金形態の知識が必要であるため、入門資格のクラウドプラクティショナーを取得した程度では厳しく、中級資格のソリューションアーキテクトアソシエイトが最低ラインになります。
 ですので、そもそも見積もりが出来るエンジニアが少ないという可能性があります。
 また知識があっても、運用に左右される要素は困難です。例えばデータ通信量等です。そもそも正確に見積もりを行うのはかなり難しいのです。

 こうした理由のため、自治体側から見積もりを簡略化する条件を提示して依頼する必要があると思います。

2.正確な見積もりには料金見積りツールを利用する

 デジタル庁は自治体からの「クラウド利用料を示してほしい」という質問に対し、一貫して「CSPの見積もりツールを利用して積算せよ」と回答しています。
 AWSであれば、calculatorという簡易見積もりツールです。

 AWS料金見積りツール

 システムの構成や用いる仮想サーバのタイプが確定しており、ある程度運用が想定できれば、このツールで積算が可能です。
 ただし前述のとおり、設計や料金形態の知識が必要です。
 そうでないと、まずシステム構成図を読み解いて、そこから料金見積もりツールで何を入力したら分からないですし、入力項目もチンプンカンプンです。

 またシステムの構成が確定しておらず、運用の想定も出来ていない場合は、その部分の積算は困難です。
 例えば毎月のデータ通信量が分からなかったり、運用にどのようなマネージドサービスを利用するか確定していない場合などです。

 これらの理由から、料金見積もりツールによる積算が出来ない場合は、次の3で述べる近似方法を用います。

3.近似手法

 パブリッククラウドの利用に関しては長年のデータの蓄積がありますので、大体の傾向が分かっています。
 その傾向から、最低限の項目のみ積算して近似するという手法があります。

 具体的には言うと、クラウド利用料の大半がコンピューティングとデータベースの2つで占められるため、この2つのみ料金を積算し、残りは係数をかけて近似するという手法です。

 これであれば、システム構成や用いるマネージドサービスの詳細が決まっていなかったり、運用の想定が難しい場合でも、一定説得力のある金額が弾けます。
 また、設計や料金形態の知識が無くとも積算が可能です。マニュアルさえあれば、自治体の職員でも見積もりができます。

4.コンピューティングの料金の考え方

 コンピューティングには大きく分けて、仮想サーバ(EC2)、コンテナ(ECS、EKS等)、サーバレス(Lambda、Fargate、Batch)の3種類があります。EC2以外の後者の2つがいわゆるモダン構成というやつです。

AWSのコンピューティングのマネージドサービス

 まずベンダからシステム構成図を入手し、そのアイコンからEC2インスタンスの数等を把握します。
 システム構成が決まっていない等で、入手できない場合は、便宜的に現行システムのサーバ構成から求めます。
 また、システム構成図を見た結果、コンテナやサーバレスを用いたモダン構成であった場合も現行システムのサーバ構成から求めます。

 仮想サーバであるEC2の料金は、インスタンスの種類(時間あたり単価)×稼働時間で求められます。

 まず、システム構成図に掲載されているEC2インスタンスについて、ベンダにインスタンスの種類とOSを確認してください。
 インスタンスの種類が未定の場合、CPU数を確認してください。
 CPU数も未定の場合は現行システムサーバのCPU数やOSから積算を行います。システム構成図が入手できない場合やモダン構成であった場合も同様です。

 次に、EC2インスタンスについて、ベンダに年間稼働時間を確認してください。
 稼働時間が未定の場合、24時間365日とします。

 なお、このEC2インスタンスはWebサーバやアプリケーションサーバ用であり、データベースサーバのEC2については省きます。
 データベースサーバのEC2については後でデータベース料金の積算にて解説します。

5.コンピューティングの料金の積算

 案ずるより、産むが安し。ものは試しで、実際に積算してみましょう。
 まず、EC2の料金のページにアクセスし、「オンデマンド」をクリックします。

 リージョンのプルダウンから「アジアパシフィック(東京)」を選びます。

 OSを選択し(WindowsまたはLinux)、インスタンスタイプを「汎用」とし、CPU数を選択してください。
 この時、インスタンスの種類が決まっている場合は検索窓に直接入力して探します。

 HITしたもののうち、第3世代インテルXeonプロセッサ搭載タイプ(m6i.からはじまるもの)の価格を参照します。
 なお、ベンダからインスタンス種類の指定があった場合は、その価格を参照します。

  上記の図は、CPU数4のWindowsサーバの場合の例です。(料金は2023年10月現在です。以下同じ)

 CPU数4のWindowsサーバを24時間365日稼働させる場合で計算してみましょう。

 ベンダからインスタンスの種類指定がない場合、該当インスタンスは「m6i.xlarge」で時間単価は「0.432 USD」です。
 稼働時間が24時間365日の場合、閏年を加味して8,766時間とします。

 年間推定利用料は0.432×8,766=3,786.912 USD
 為替レートを150円とする場合、3,786.912×150 = 568,036.8 ≒ 569,000円
 なお、これは税抜きの価格です。(以下同じ。)

6.データベースの料金の考え方

 データベースは大きく分けて、仮想サーバ(EC2)+Oracle等のデータベースソフトの構成、Amazon RDS、他のDBサービス(AuroraやDynamoDB)の3種類があります。

AWSのデータベース関連のマネージドサービス

 コンピューティング同様、まずはベンダからシステム構成図を入手し、そのアイコンからデータベースのインスタンスの数等を把握します。
 システム構成が決まっていない等で、入手できない場合は、便宜的に現行システムのサーバ構成からAmazon RDSを用いるものとして求めます。
 また、システム構成図を見た結果、他のDBサービスであった場合も同様です。

7.データベース料金の積算

 では、データベースの料金についても積算していきます。

(1)仮想サーバ(EC2)+Oracle等のデータベースソフトの構成

 まず、仮想サーバ(EC2)+Oracle等のデータベースソフトの構成であった場合は、コンピューティングのEC2と同様に算出しますが、インスタンスタイプを「メモリ最適化」とし、第3世代インテルXeonプロセッサ搭載タイプ(r6i.からはじまるもの)の価格を参照します。

 留意点として、この料金には持ち込みとなるデータベースのライセンス料金が含まれていないため、必要があるならば、そちらは別途ベンダに確認します。
 ベンダでこの持ち込みライセンスの料金積算が困難な場合、便宜的にAmazon RDS構成として積算します。

(2)Amazon RDS構成

 Amazon RDS構成の場合は、まずRDSの料金ページにアクセスし、ページの中ほどにDBエンジン一覧があるので、該当のものを選択します。

Amazon RDSのDBエンジン一覧

 ここでは例としてRDS for Oracleの場合を説明します。

 DBエンジンでRDS for Oracleを選択した後、左側メニューの「料金モデル」をクリックし、「ライセンス込み」か「BYOL(持ち込みライセンス)」のいずれかの「+」をクリックします。

 ここでは例として「ライセンス込み」の場合を説明します。

 冗長化なしのシングルAZか冗長化構成のマルチAZかどちらかを選択し、東京リージョンを選択します。

 ここでは例として「マルチAZ」の場合を説明します。

 スタンダードインスタンスとメモリ最適化インスタンスの2つがありますが、メモリ最適化インスタンスの方で料金を参照します。

 末尾がlargeがCPU数2、xlargeがCPU数4、2xlargeがCPU数8、 4xlargeがCPU数16です。

 これでデータベースインスタンスの時間単価が求められましたので、後はコンピューティングの料金の積算と同様に、稼働時間と為替レートを乗じて年間料金を求めます。

8.実績による係数での近似

 AWS公式では、コンピューティングとデータベースの2つで90%という実績を示しています。

 https://d1.awsstatic.com/webinars/jp/pdf/solution-casestudy/aws_for_startup_20130712public.pdf

 デジタル庁もこの値を採用し、ガバメントクラウド移行手順書第1.0版にて「仮想マシンとデータベースのスペック・台数で9割程度の見積りが可能」と説明しています。

 ただし、サーバ/DBで90%といいつつ、上記の図ではEC2にアタッチされるストレージまで含んで90%であり、純粋にサーバ/DBだと85%ですので、それを係数とします。
 即ち、求めたコンピューティングとデータベースの料金の和を0.85で割り、消費税を加味した金額が、予算として計上すべきクラウド利用料です。

 なお上記の実績は若干古いという難点があります。
 最新の情報は、一部のリセラー事業者が公開していますので、それを採用する方法もあります。
 例えば以下はクラスメソッド社が公表した直近の動向です。

国内最大級のAWS技術支援サービスを提供するクラスメソッド、最新のAWS利用動向を発表

 https://classmethod.jp/news/20220816-aws-report/

 こちらの最新の動向を採用すると、コンピューティングとデータベースの2つで65%ですので、求めたコンピューティングとデータベースの料金の和を0.65で割り、消費税を加味した金額が、予算として計上すべきクラウド利用料です。

9.まとめ

 上記の方法で、とりあえずはある程度の精度があり、説得力のある数字が積算できると思います。
 自治体職員でも積算が可能ですが、それよりはベンダに「見積もりが出せないならこの方法でやって」と依頼するのが良いでしょう。


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