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「俺は肉食童貞」58歳の童貞『ワイルドチェリーライフ』山口明さんのイベントに行ってきた

58歳の今もなお童貞をつらぬく…というか、童貞なのでつらぬいていないデザイナー・山口明さんのイベントに行ってきた。会場には、45歳の童貞や48歳まで童貞だった人をはじめ、40人近い童貞や元童貞の姿があった(女性もいた)。余談だが、45歳の童貞の方は、先日、はあちゅうさんと対談したという大物の童貞だった。

イベントは、山口さんの半生を綴った『ワイルドチェリーライフ 山口明: 童貞力で一億総クリエイター時代を生きる』の出版を記念するもので、山口さん本人と、著者の市川力夫さんが登壇した。

この約1年、自ら「ライター」と名乗ってネットメディアで書いてきながら恥ずかしいことに、この日まで山口さんの存在を知らなかった。知人のSNSへの投稿でたまたま知り、「おもしろそう!」と、その足でイベント会場に向かったのだ。山口さんは、単行本や雑誌の装丁・デザインをしてきた方で、それと知らずに自分が読んできたものだけでも『THE 3名様』(石原まこちん)、『バンビーノ』(せきやてつじ)、『昭和の中坊』(末田雄一郎/吉本浩二)などを手がけられていた。すごい方なのだ。

当然、そのお姿を拝見したのも初めてだったが、「えっ? 58年間も童貞って本当?」と疑ってしまうほど、モテそうな風貌だった。本によれば、666というブランドのものを着用されているらしい。しかし、トークが始まると、その言葉の端々に、いかにも童貞らしい「湿っぽさ」が感じられて、「やっぱり本物だ!」と感動した。

振り返ってみれば、自分のなかで「童貞」は、とても重いものだった。

いまでも覚えているが、高校2年の夏、授業中にふと「死にたいな」と思った。学校も面白くなかったし、人生が面白くなる予感もしなかったし、好きな女の子は他の男子に惚れていたし。教室は3階だったので、あの窓から飛び出せしたら死ねるかもな……と考えた。しかしその直後、「待てよ」と思った。せめて童貞じゃなくなってからのほうがよくないか? と。知らないまま死んだら、この場所で地縛霊となるんじゃないだろうか、と。

結局(わりとすぐに)、死ぬのは童貞じゃない人生を味わってからでも遅くはないという結論に達した。いわば童貞に命を救われたのだった。

イベントで山口さん自身も、童貞には「なにごとにも満足しない力がある」と語っていた。

「いまの時代、ハングリーさがないじゃないですか。『草食系』とか言って。……まあ、草食系の人たちも童貞なんですけど。俺は童貞でも、ハングリー。肉食童貞ですから」(山口さん)

躍起になって(そのせいで失敗もして)童貞ではなくなった自分が恥ずかしくなるような言葉だった。

『ワイルドチェリーライフ』の著者・市川さん次のように書いている。

「ヤらないことだけが偉いとは言わない。ただ、長年ヤらずに生きてきた男だけがたどり着いた境地がある。長年ヤらずに生きてきた男だけが言えることがある。それに耳を貸す価値は、たぶん、ある。」(まえがきより引用)

まさに、その通りだ。

イベントの終盤、会場からの質問が受け付けられたが、最初は誰も手を挙げなかった。口火を切ったのが、前の席に座っていた男性だった。

「45歳で童貞なんですが、童貞であることに対する迷いとコンプレックス、(そして)セックスに対する好奇心があるんですけど、そういうものから離脱した時期はいつごろですか?」

これが彼の質問だった。この正直さがすばらしい。

なお、これに対する山口さんの返答は、「最初から解脱しています。10代のころから」。こっちもすごい!

続いて手を挙げたのも、49歳になったばかりという男性で、48歳のときハプニングバーで初めて「経験」をしたと語っていた。だからまだ童貞の突破力が残っている感じがした。

このお二方ともに、持ち家(マンション)を持っていたことがわかると、会場が沸いた。市川さんは「童貞が経済をまわすんですよ」と語っていたが、さもありなん(←初めてつかった)。

高校生のころに山口さんを知っていれば、自分も彼らのように童貞ライフを楽しめたのでは。そんな悔しいような、たいして悔しくないような感傷にひたった夜だった。


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