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NovelJam参加してきた記の3

喫煙所は駅近くの小さな公園にあった。JR市ヶ谷駅ホームを見下ろしながら一服する。寒いから煙と吐く息の区別がつかないなと思ったとき、以前もここで煙草を吸ったことがあるのを思い出した。それはたぶん1995年7月で、ぼくはライターというものになろうとしている名古屋の小劇団員だった。やり方がわからず、手当たり次第、東京の雑誌に企画書やコラムを送りつけていたら「これ載せるよ」と連絡があり、それがこの駅の近くにある雑誌の編集部で、高速バスに乗って挨拶に来たら「また何か書いたら持っておいで」と編集長にいわれた。その帰りに興奮しながら一服をしたのが、たぶんここだ。翌月には脚本家を目指す友だちの運転する軽トラで引っ越した。その後何度も市ヶ谷駅には来たけれど、編集部で堂々と打ち合わせしながら吸えるようになったから、この喫煙所に来ることはなかった。雑誌が休刊してからはほとんど来ていない。

「あのさ」「うん」「思い出にふけるのはいいけど、それとこれとはちっとも関係ないよね」「え」「関係ないでしょ」「そうだね、ないね」「参加してきた記なのに、まだNovelJam始まってすらいないよ」「うん」「そろそろいこうよ」「わかった」「よかった」「ところでさ」「なに?」「君は誰だ?」「え?電車の音でよく聞こえないよ。さあ急ごう」

NovelJam会場はビルの7階。エレベータを待っていると、1階の床屋さんの扉が先に開いて、植物の鉢を抱えたお姉さんが「おはようございます」といいながら出てきた。開店準備らしい。「おはようございます」と返し、ぼくはこれから何をする人に見えたのかなと思う。土曜朝から出勤した熱心な編集者だろうか。似てるけど、違う。違うけど、似てる。思いながらエレベータに乗り込んだ。7階には、不思議な帽子をかぶった男性が1人立っていた。「おはようございます。9時になるまで開かないそうです」「おはようございます。そうですか」SF作家の米田淳一さんは作家として参加する。かぶっていたのは、自作の架空鉄道『北急電鉄』の制帽とのこと。なるほど。なるほど?

NovelJam(公式サイト) http://noveljam.strikingly.com/

(つづく カバーイラストふじさいっさ)

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