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ラブラブROUTE21(トゥエニーワン)実写映画化のこと、桜玉吉のこと

桜玉吉の「ラブラブROUTE21(トゥエニーワン)」が短編実写映画になると聞いて、速攻ねとらぼで記事にした。正直50RTくらい行けばいいかな~と思っていたら、なんと予想を大幅に上回る700RT越え。同じ日に載せたバクマン実写化より伸びてしまった。桜玉吉ネタがまだまだ通じるインターネッツすばらしいですね。


ついでなので、大好きな桜玉吉についてちょっと書いておきます。

「編集者が出てくるマンガにハズレなし」というのは僕の勝手な持論ですが、中でも指折りの「編集者いじり」の名手が桜玉吉だと思っています。

「しあわせのかたち」以前の仕事の1つに「MSXマガジンの巻末イラスト」があるんだけど、このころからすでに、当時の編集長だった田口氏を好き放題いじりまくっていた。のちにO村やヒロポンといった名物キャラを次々と生み出す才能の片鱗がこの頃からすでにうかがえますね。

画像1↑「桜玉吉のかたち」より


「ラブラブROUTE21」も、もともとは「担当編集をビックリさせてやろう」という悪ふざけから生まれた作品です。

普通のマンガは担当編集と綿密に打ち合わせしてから書くけど、当時のファミ通にはどうもそういう習慣がなかったらしく、「しあわせ」も基本的には玉吉先生が好き放題書いて、編集はあまり内容に口を出していなかった……らしい。それを逆手にとって、勝手にゲームと一切関係のないマンガを書いて担当者をビックリさせてやれ――というのが「ラブラブROUTE21」でした(どこまでがフィクションか分からないのが玉吉先生の漫画なので、全部をそのまま鵜呑みにするのも危ないけど)。なので、第1回では当時の担当だったヒロポン(まだ鼻チョーチンじゃない)が、「ラブラブ」のコマを指さして「なんすかー? この一般誌の4コマみたいなのー」と困り顔でツッコんでいる。

画像2↑「ラブラブ」がはじまる何週か前、
「このページは野放しみたいなもんだからきっと気付かれないぞ」
と言っていきなりエロ漫画を書きはじめる玉吉先生
思えばこれも前フリだったのかも……

画像3↑「ラブラブ」1回目はこの程度の扱い&ツッコミだった


さらに翌週以降も玉吉先生の悪ノリは続く。翌週には4コマが8コマになり、3週目は1ページ、さらに4週目にはほぼまるまる2ページと、「ラブラブ」はどんどん「しあわせ」のページを浸食していく。「しあわせ」は2ページマンガだから、4週目はほぼ全編が「ラブラブ」状態で、本編は最後にオマケのようにちょろっとくっついているだけになってしまった。

並行してヒロポンのリアクションもどんどんオーバーになっていき、2週目には「だからなんなんすかー!」、3週目「ど、どんどんでかくなる一方なんすけど」、4週目「なんかどんどん話もふくらんでるしーっ!」――と最後は玉吉さんの首をつかんでガクガク揺さぶっている。ある意味「ラブラブ」は、ヒロポンにこのツッコミをさせるために存在していたマンガでもあったわけですね(ちなみに「ラブラブ」のタイトルがついたのは3回目、暗黒舞踏ネタは4回目が初出)。

画像4↑4週目、ついにしあわせ本編はたった2コマに
「でもこれ以上スペースでかくなるこたないから大丈夫」
と笑う玉吉さんだったが……


で、さすがにもうこれ以上はないだろう――というところで迎えた5週目、今度はなんと「2ページマンガなのに、『ラブラブ』のためだけにわざわざ3ページ目を用意する」という超反則技(※)を繰り出す(書く方も書く方だが、ちゃんと載せるファミ通もファミ通だと思う)。この後もO村やヒロポン相手にいろんな抜き打ちドッキリを仕掛ける玉吉先生だけど、「ラブラブ」はそのはしりでもあったんじゃないかと思うわけです。「そこまでして人驚かして楽しいんですか!」「楽しい」というヒロポンと玉吉さんの会話で、「ラブラブ」はとりあえずひと区切りとなり、翌週からは普通の「しあわせ」に戻る。

※もちろんある程度のすり合わせはあったと考えるのが自然だけど、それにしてもよくやったなと思う(この「どこまでフィクションなのかが分からない」というのが玉吉作品の面白さですよね)


画像5↑2ページ漫画なのに3ページ目が……ある!?(5週目)


その後「ラブラブ」はゲームと一切関係ない内容だったにもかかわらずファミ通の読者アンケートでベスト3入り。「暗黒舞踏漫画がベスト3に入るゲーム専門誌って一体……」と嘆くヒロポンをよそに、不定期連載として華麗に復活を遂げるわけですが――それはまた別の話。

そんなわけで最初からストーリーなどあってないもののような「ラブラブ」を、一体どうやって実写映画化するのか興味は尽きないんですが、さすがにこの「ヒロポンを驚かせる」文脈まで映画に入れるのはムリだよなあ。

もし舞台挨拶にヒロポン&玉吉さんが出てきて「映画化とか聞いてないッスよ~~~!」とかツッコんでくれたらファン冥利に尽きるのですが。


追記:その後について

この後ちゃんと神戸まで見に行きました。残念ながら「ヒロポンを驚かせる」文脈は入っていなかったけど、思っていた以上にまっとうな暗黒舞踏同棲映画でしたw これ円盤化されたりしないのかなあ。

その後、ロフトプラスワンで行われた上映会にも足を運んだりして、このときの縁で後日O村さんにインタビューさせてもらったりしたので、自分の中ではいろいろと思い出深い映画でした。あと、イベントでは時間の都合で上映されなかった、玉吉先生とO村さんのコメンタリー付きバージョンもこっそり見せていただいたりしたんですが、これもどこかで公開されたりしないかなあ……。


赤ちゃんのおむつ代にします。