ヨシダコウヘイ

英語歌詞の我流和訳とレヴューを週一ペース、映画の備忘録を不定期で書いています。 Twi…

ヨシダコウヘイ

英語歌詞の我流和訳とレヴューを週一ペース、映画の備忘録を不定期で書いています。 Twitter: tele1962 Instagram: telecaster0225

最近の記事

Big Thief "Born For Loving You"

ダブル・ストップの人懐っこいギター・フレーズに導かれ、ベースとドラムがリズムを刻み、アコースティック・ギターが軽やかにI・VI・IV・VのDoo Wop進行を鳴らし始める。 そんなふうに、あまりに4人組バンドとして完成された陽気な風に乗せて、NYの4人組BIg Thiefの『Born For Loving You』は走り出します。 4度進行の2コードを繰り返すシンプル極まりない構成に演奏のダイナミクスでツイストを加え、トキシックな愛欲に溺れていく様をエイドリアンのシャウト

    • Laufey "Letter To My 13 Years Old Self"、または僕らがもう少し愛について上手く話せること

      アイスランド人の父と中国人の母の間に生まれ、10代の頃からテレビのオーディション番組などで母国メディアから注目されバークリーで学んだシンガー・ソングライターであり、ピアノ、ギター、チェロをあやつるマルチ奏者でもある才女Laufeyの2ndフルアルバム『Bewitched』が素晴らしい。 幼い頃から親しんできたエラ・フィッツジェラルドなどのジャズ、著名なヴァイオリニストを祖父にもつ母方からのクラシック、そして1999年生まれの若者として親しんできた2010年代の現行ポップス、

      • Mitski "Bug Like an Angel" 優しくない世界と私たちへ

        7月26日、現代ポップ最重要シンガーMitskiの新曲『Bug Like an Angel』がリリースされた。 その実力に見合った名声を得たことで訪れた環境の変化、SNSでの悪質な誤報をキッカケに、当時最高潮だったキャンセル・カルチャーの荒波に巻き込まれた災厄を何とか乗り越え、チャート的に大躍進した前作『Lauren Hill』に続き9月にリリースされる6枚目のフル・アルバム『the land is inhospitable and so are we』からのリード・シング

        • Big Thief “Vampire Empire”、その不確かな心を叫べ

          Covid禍の回復途上にあって、穏やかにバンドの結束と自身のコンディションを確かめながら1970sな音像を追求した傑作『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』から一年半。 久しぶりにNYから届けられた4ピース・バンドBig Thiefの新曲『Vampire Empire』は、ついにフィジカルとメンタルの絶好調を取り戻したかのような爆発的なロック・ナンバーです。 4度進行の2コードを繰り返すシンプル極まりない構成に演奏のダイナミ

        Big Thief "Born For Loving You"

          boygenius “Not Strong Enough”、天使のままで生きること

          「同性婚によって社会が変わってしまう? おー、いいじゃん、いいじゃん、変えたれ!こっちは社会を変えることを目的にしてるんだから!」Phobe Bridgers 1st EPから5年。Julian Baker、Lucy Dacus、Phobe Bridgersによるトリオboygenius待望の1stフルアルバム『the record』がリリースされた。 Pitchforkに代表されるインディ・ロック界隈において、17歳でappleのCMに出演するなど華やかなルックスと機知

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          Son Lux, David Byrne and Mitski "This Is A Life"、または可能性という名の道が幾つも伸びてるせいで起こること

          開巻、仄暗いリビングに置かれた丸い小さな鏡に、楽しそうに揺れる人影が映っている。 慎ましやかな音楽の波長と合わせて徐々にカメラがズームアップしていくと、どうやらアジア系の家族が3人、マイクを握り歌っている。 そんなふうに、これから始まるマルチ・ヴァースの物語を鏡で見事に表象したオープニングから、「永遠の重さと光の速さで」2時間20分を語りきる、アイデアと技巧とプリミティブなギャグに満ちたプロフェッショナルなスラップスティック・アクション・コメディー『Everything E

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          Whitney "For a While"、祝祭が見たい僕ら

          シカゴのフォーク・ロック・バンドWhitneyの新曲『For a While』がリリースされた。 ドラムスのJulien Ehrichがヴォーカルを取る、The BandのLevon Hoimを思わせるスタイルに各楽器の弦の震え、軋むリヴァーヴ、ブレスする口元が見えてくるようなバンド・アンサンブル、ニール・ヤングやボン・イヴェール的ハイトーンが地元シカゴのミシガン湖に育まれた幽玄性を醸す2016年のデビューアルバム『Light Upon the Lake』のヒットで一躍US

          Whitney "For a While"、祝祭が見たい僕ら

          boygenius "True Blue"、別離の予感への抵抗について

          ROLLING STONE最新号において、Nirvanaのアイコニックな表紙を再現したboygenius。美しい蒼い瞳に長いブロンドのフィービー・ブリジャーズによるカート・コベインはもちろん、ウェーヴがかったブラウンヘアに野生的な顔立ちのデイヴ・グロール=ジュリアン・ベイカー、そしてもう何もかもそっくりなクリス・ノヴォセリック=ルーシー・ダッカス。三者三様にハマりまくったパロディは、世界中で幅広い世代の好事家たちの話題になった。 2018年のセルフ・タイトルのEPでMata

          boygenius "True Blue"、別離の予感への抵抗について

          短編ドキュメンタリー『HOULOUT』(2022)感想

          2020年秋、プーチンのウクライナ侵攻前にイギリスと合作された、25分間の短編ドキュメンタリー。 北極圏、シベリアの10月…にしてはそれほど寒さが伝わってこない、名作『ドクトル・ジバゴ』『ひまわり』のイメージからは遠い、秋の海辺の荘厳な遠景に点在する一人の男の影。 ナレーションや字幕は廃され、浜辺を歩いたり崖に腰掛けタバコを吸ったりしながらヴォイス・レコーダーに状況報告を淡々と吹き込む男の声と、フレーム内フレームや簡素ながら無駄なく美しい構図のフィックスなどタルコフスキーら

          短編ドキュメンタリー『HOULOUT』(2022)感想

          Bonnie Raitt "Just Like That" のグラミー受賞に向けられた悪意に寄せて

          日本時間2月6日に催された、第65回グラミー賞。賑やかに華やかに行われたショウタイム終盤、主要部門の1つ、Song of the year発表において会場及びSNS界隈がどよめいた。 ボニー・レイット、『Just Like That』。 大きな瞳をさらに大きく見開いた73歳の大ヴェテランは、受賞スピーチでも閉会後のプレス・カンファレンスでも、無邪気な喜びと配慮、慈しみに満ちたスピーチを披露。その偉大なキャリアにまた1つ、栄誉ある勲章を加えた。 カリフォルニアの芸能一家に

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          Death Cab for Cutie "Pepper"、または『(1460)日のサマー』について

          四半世紀をこえるキャリアにおいて、同時多発テロ以降の混迷するアメリカに生きることを鋭くかつ詩的に表現した歌詞と、激しさと美しさを折衷した絶妙なバランスのバンド・アンサンブルで第一線を走り続けるDeath Cab For Cutieが、昨年9月にリリースした記念すべき10枚目のフル・アルバム『Asphalt Meadows』から、人気曲『Pepper』のアコースティック・ヴァージョンをリリースした。 メンバー脱退など活動継続が不安視されるなか2018年にリリース、全米チャート

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          The Snuts “Glasgow” 、熱くて不器用な優しさ

          先日、Summersonic2023の第一弾ラインナップが発表された。ケンドリック・ラマーのインパクト、ブラーとリアム・ギャラガーという集客アピールと20数年前の文化的歴史的価値に目配せした並び、英国注目株を抑えたFLOにGabriels。国内からは今まさに音楽的最高潮にあるジャパニーズ・ポップスの化身Official髭男dism…と通し券購入を即決せざるを得ない素晴らしいラインナップの中、最後に載っていたまるで2000年代始めに幾多活動していたUKロックバンドみたいな白黒写

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          ペドロ・アルモドバル『ヒューマン・ボイス』(2020)と、バレンシアガとAir Podsと、ジャン・コクトーと

          70歳を迎えた2019年、『ペイン・アンド・グローリー』で、ともに激動のキャリアを刻んで来たアントニオ・バンデラスを主演に、自らの人生とバンデラスのキャリアに落とし前をつけてみせたペドロ・アルモドバルが次に選んだのは、かねてその作品から多大なる影響を受けてきたジャン・コクトーの戯曲『人間の声』の映像化だった。 ピナ・パウシュのコンテンポラリー・ダンスを至高の手捌きで極上のメロドラマ世界に編み込んでみせた傑作『トーク・トゥ・ハー』に先立つように、劇場や演劇と(実人生に対するそ

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          新海誠 『天気の子』雑感

          「自分にバトンが来たのだから走らなければ」 絶対的な憧憬の対象だったスタジオ・ジブリ製作部の解体、それまでカウンター相手、「超えられない壁」として想定していた細田守監督の新作『バケモノの子』の、あまりに劇的なクオリティ低下。 そんな幾つもの予兆を感じつつ公開された『君の名は。』の大成功と、それに伴う憤怒を含めた批判を受けて、多忙を極めてもぺースを落とさずに着想、製作、公開された『天気の子』は文字通り走り、叫び、狂った世界が狂ったままでも目の前の君と手を繋ごうとする映画だ。

          新海誠 『天気の子』雑感

          新海誠 『君の名は。』雑感

          「僕たちは何かの前日を生きている」 すべての発端、「見知らぬ男女が出逢う物語」を志向する前の核。 東北大震災を経て顕在化された「日本人の諦念」の根源を探る思索の旅を、万葉集を引用して「泳いで川を渡る」2人に託した『言の葉の庭』。 「この変わらぬ日常を肯定したい」という抑え難き欲望を成就するために始めた自主製作によるアニメーション「作家」から、より大きな世界で、これから激動するだろう世界の荒波に揉まれながら、スタッフの集合知を統括するアニメーション「監督」としての自信を深め、

          新海誠 『君の名は。』雑感

          新海誠『言の葉の庭』雑感

          個人製作から集団製作への過渡期だった『星を追う子ども』公開以降、大成建設に野村不動産と巨大スポンサーとの仕事で着実に結果を残し、満を期して東宝と合流。お手並み拝見、とばかりに与えられた枠に満点解答してみせた46分間の中編。 ファースト・カットから観客の心に清新な波紋を立てる雨の描写は、それまで星や雲、夕闇の空景描写、あるいは『秒速5センチメートル』の白く波打つ海や『雲のむこう、約束の場所』の跨線橋を浸す湖の水面にこそ作家的アイデンティを置いていた新海誠にとって、大いなる挑戦

          新海誠『言の葉の庭』雑感