頰はこけ、髪は乱れ、
肩は撫で落ちている。

いまにも閉じそうな瞼の先には
世の中の絶望と苛立ちと悲壮を
集めて塗り固めたような
ヒトの形をしたものが映っていた。

普段、鏡を避けるように
生きているものだから
夜の車窓にふいに映り込んだ
自分の姿は、他人のようだった。

窓の外側は全てを飲み込むほどの深い闇なのに
車内は目がくらむほどの明るさで
窓を隔ててふたつの別世界が
存在していることが不思議だった。

この世界は自分には眩しすぎる。

隣に立っていた若い男性が
悪酔いしたのかその場で吐いた。

小さい悲鳴が聞こえたのち、
周りからの冷ややかな目が
その青年に集中するのが分かった。

我に返ったその青年は
ごめんなさい、ごめんなさいと
謝り続けていた。

わたしは今朝コンビニで買った
タオル地のハンカチを取り出し
電車の床を拭くのを手伝った。
もう少し大きめのタオルを
持っていればと後悔した。

青年は所在なさげに次の駅で降りていき
わたしは再び窓に目をやった。

昔アルバイトをしていた純喫茶があった場所に
巨大なパチンコ店が建っていた。
マスターは元気にしているだろうか。

窓に映る自分と目があった。
薄い瞼は自身の意思を持って
少し開いているように思えた。

家に帰ったらコーヒーを入れよう。

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ten.

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