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JAXA兼業社員がStarlink使ってみた~低軌道周回衛星による高速インターネット通信の時代へ~


天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

2022年10月11日、日本でのサービスが開始されたStarlink。Starlinkは、米国の民間企業スペースX社が展開する衛星通信によるブロードバンドインターネットサービスです。
SpaceX社は、アメリカの電気自動車メーカー「テスラ」のCEOであるイーロン・マスク氏が2002年に設立した会社で、民間企業として初めて有人宇宙飛行を成功させたことでも知られています。SpaceXは、人工衛星を軍用や、科学・探検などの用途に販売することを計画しており、最近では、ウクライナ侵攻での通信サービス提供支援などをきっかけに、ニュースなどで取り上げられる機会も増えています。

今回は、最近日本でも話題のStarlinkを実際に天地人のJAXA兼業社員が、家の屋根の上や、公園などの様々な場所で使用してみました。実際、Starlinkは空の見通しの良い場所で速く遅延のない通信を行うことができると分かりました。さて、Starlinkはどのようなものなのか、そして一般的なインターネット通信とどのように違うのかについて詳しく解説していきます。



1.Starlinkとは?何ができるの?

さて、冒頭でも触れたStarlinkですが、何ができるものなのでしょうか。一言で言うとSpaceX社が運用している通信衛星コンステレーション(多数の人工衛星を協調動作させる運用方式)を活用した、ブロードバンド(大容量な通信を行うことができるインターネット接続サービス)インターネット提供サービスです。
一般的なブロードバンドインターネットは、インターネット専用の光ファイバーケーブルを利用した光回線を使用します。
一方で、通信衛星によるブロードバンドインターネットは、衛星回線を使用します。衛星回線は、インターネットを使用する場所に、地上局を設置し、地上局から衛星を経由して、ゲートウェイ局(地上インターネット網と接続する地上局)通信することで、インターネットに接続します。
衛星回線は、光回線でいう光ファイバーケーブル(及び中継器)の部分が衛星を介した無線通信に置き換わっているイメージです。特徴としては、災害が発生しても地上局が損傷しなければ通信が可能であり、長距離ケーブル敷設の必要がありません。

Tenchijin Tech blogでは、これまで衛星通信や衛星コンステレーションに関する解説記事を掲載しています。よろしければ、こちらの記事もご覧ください。


SpaceXは世界トップクラスのロケット打ち上げサービスプロバイダーとして、宇宙船に加え、軌道上への衛星投入にも深い経験を有しています。自社でロケットを製造・打上げが可能なため、Starlink衛星の打ち上げは頻繁かつ低コストで実現可能です。
インターネット通信が、高速・低遅延かつ、カバーエリアが広いという特徴があるStarlinkは、2020年、北アメリカ大陸とヨーロッパで試験運用が始まりました。2022年9月時点では、全世界で10万人のユーザーを抱え、これまでに打ち上げられた衛星は3500基以上を超えます。

従来の他社の衛星通信インターネットサービスの多くは、高度35,786kmで地球を周回する1基の静止衛星によって提供されることが主流でした。そのため、ユーザーと衛星の間をデータが往復する時間(遅延)が長くなり、ストリーミング、オンラインゲーム、ビデオ通話など、高速のデータ通信が必要なサービスには向きませんでした。
一方でStarlinkは、高度550kmというはるかに低い軌道を周回し、地球全域をカバーする数千基の衛星で構成されます。そのため、遅延時間は通常の600ミリ秒以上に比べ、約20ミリ秒と大幅に短縮され、高速のデータ通信を快適に使用することができるようになりました。


2.実際にJAXA兼業社員がStarlink使ってみた!

Starlinkキットには、世界初の商用フェーズドアレイアンテナ(位置配列アンテナ)、Wi-Fiルーター、ケーブル、ベースなど必要なものがすべて付属しているので、数分でインターネットに接続できます。空への視界が開けた場所があれば、アンテナの向きは自動で調整されます。料金は、1度だけ払えばいいハードウェアコスト(¥73,000)と毎月¥12,300。極度の低温、高熱、あられ、みぞれ、豪雨、強風にも耐えます。

それでは実際にJAXA兼業社員の稲岡和也(いなおか かずや)さんがStarlinkを使用してみての感想を紹介していきます。稲岡さんは、JAXAに入社し、衛星に搭載する通信システムや装置の研究開発を行う部署を経て、温室効果ガスの観測を行う衛星(いぶき2号)の開発などさまざまなプロジェクトに携わっています。天地人では通信技術を知るエンジニアとして、人工衛星の周波数リソースの効率化に取り組んでいます。

         

Starlinkキット

アンテナは重い(約7kg)が、組み立てはとても簡単で、アンテナをベース(3脚)に接続、イーサネットケーブルをルーターに接続、あとはルーターの電源を入れればOKです。なお、電源プラグは、三ピンタイプ(接地用のピン付)です。屋外用コンセントは日本でも3ピンタイプが一般的ですが、室内コンセントの利用を想定する場合は、変換プラグ(3ピン→2ピン)が必要になるかもしれません。


3ピンタイプのコンセント


3ピンタイプのプラグ

次にStarlinkアプリを用いて、インターネットに接続を試みます。アプリを起動すると、まずStarlinkの設置場所をどこにするか聞いてきます。Starlink(衛星)は低軌道周回衛星なので、Starlink(地上局)は衛星を追尾する必要があり、そのため空の見通しの良い場所、つまり、衛星とアンテナを結ぶ見通し線に障害物が入らないような場所、に設置する必要があります。

なお、2022年9月23日配信のTenchijin tech blogでは、地上局の適切な設置場所を解説しておりますので、ご参照ください。

Starlinkアプリでは、見通しチェックをとても簡単に行えるので、家の数か所で試してみました。チェックの仕方は以下のサイトを見るとイメージがつかめます。

Gigazine;スマホを空にかざすだけでStarlinkの衛星通信状況をすぐにチェックできるStarlink公式アプリを使ってみた

調査の結果、手軽に設置できるところで最も見通しのとれる場所は、1階物置上でしたので、ひとまず1階の物置上に置くことにしました!(それでも3%強は障害物ありです。少ない障害物でさえ安定的な障害(通信断)に繋がるかも、と情報が出ます)。


物置の上に設置したアンテナ

設置して気が付くと、真上を向いていたアンテナが北を向いて、少し傾いていました。(分かりますかね・・・)以降、この方向から機械的には動いている様に見えませんでした。(少し手動で向きを変えてみましたが、気づくとこのポジションに戻っていました。)なお、機械的には動いていませんが、電気的には動いており(フェーズドアレイ)、Starlink衛星を追尾しています。フェーズドアレイの特徴については、例えば以下のサイトなどが参考になります。

日本初 「フェーズドアレイ気象レーダ」を開発

そしてWiFiの設定を行い、数分待つ(Starlinkが衛星をサーチする時間)とインターネット接続が完了します。ここまで、アプリのガイドも分かりやすく、とても簡単でした。また、そのアプリの機能で、インターネットの回線スピードも計測できるのですが、ダウンロード速度は200Mbpsを超えていました!高画質の動画再生に必要なスピードが20〜30Mbps位なので、十分なスピードであることが分かります。この後、何度も計測しましたが、常に100Mbpsは超えていました。

さて、上記の見通しチェックで、全体の可視(地上局と衛星が通信する可能性があるエリア)の3%強で障害物が見えている結果でしたが、この影響についてインターネット接続開始から約6時間後、評価結果が示されました。結果は、56秒毎に通信断が想定されるとあります。アプリの情報通りでした。なんとなく96%強は可視が確保できているので大丈夫なのでは?と思っていましたが、この結果は意外でした。
通信断に関しては、アプリ内のレポートで詳細に確認できます。6時間程度ウォッチしたところ48回の通信断、最大の通信断時間は45秒で、0~20分に1回の頻度で発生しました。通信断の影響は、使用するアプリケーションによると思いますが、リアルタイム配信サービスなどの利用に対しては、影響が大きいと思います。

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