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【海外編】衛星を活用したカーボンクレジットの算出方法~持続可能な未来を目指すための衛星技術の応用~

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。
Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

さて、先月(2023年6月9日)配信のTenchijin Tech Blogでは、国内の事例を元に「衛星を活用したカーボンクレジットの算出方法」について解説しました。

無料パートではカーボンクレジットに関する基本概念や国内のクレジット制度について紹介しています。有料パートでは、温室効果ガスを測定する衛星や、複数の衛星データを用いて森林密度や日射量を測定する手法についてご紹介しております。

もしご興味のあるかたはこちらの記事もご覧ください。


カーボンクレジットについて

カーボンクレジット(Carbon Credit)とは、企業が森林の保護や植林、省エネルギー機器導入などを行うことで生まれたCO2などの温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)をクレジット(排出権)として発行し、他の企業などとの間で取引できるようにする仕組みで、炭素クレジットとも呼ばれています。

SMBC日興証券HPより

クレジットには政府や公的機関が発行するものと、民間が発行するボランタリークレジットの2種類があります。前回の記事では国内制度によるJ-クレジットについて触れました。

国が主導のクレジットでは政策や法律の制約があり拘束力が強い一方で、ボランタリークレジットは民間が主導になるのでクレジットの創出方法論の幅が広く、クレジット供給者にも需要側にとっても扱いやすいクレジットとなります。しかしながら、信頼できるクレジット発行元が分かりにくかったり、価格や取引量が不明瞭であったりとデメリットも存在します。


経済産業省:クレジットの分類

ボランタリークレジットの海外トレンド

ここでは、経済産業省が2022年の7月に報告した「カーボン・クレジット・レポート」を元にボランタリークレジットの海外の動向について触れていきます。

取引所・取引プラットフォーム設立

従来のカーボンクレジットは主にブローカー・リテーラーを介した相対取引、Over-the-Counter (OTC)取引で行われてきました。

しかし、近年ではアメリカやシンガポールを始めとして、取引所・取引プラットフォーム設立の動きが活発になってきています。

取引所の多くは「高品質」「安全性」「流動性」「透明性」を重要視し、機械学習やトークン化などデジタル技術を活用しています。

2023年5月には、渋谷ブレンドグリーンエナジー株式会社がカーボンクレジット流通事業として日本初のWEB完結カーボンクレジット取引所を設置しました。


渋谷ブレンドグリーンエナジー株式会社プレスリリースより

航空業界での活用

カーボンクレジットの活用を積極的に進める業界も現れてきています。
下記のグラフのように、Covid-19のパンデミック以前の旅客機利用者数はうなぎ上りに増加していました。利用者の増加伴い、二酸化炭素排出量に関する議論が行われてきました。

ICAO: 世界の旅客機利用者数の推移

IPCCの第5次評価報告書によれば、国際及び国内航空が世界全体の二酸化炭素排出量に占める割合は約2%であると報告されています。世界全体の二酸化炭素排出量は年間約330億トンと言われているので、およそ6~7億トンを排出していると推測されます。

今後パンデミック後の旅客機需要の増加や人口増加に備え、航空機による温室効果ガス排出量の削減が求められるでしょう。

そこで航空業界は下記の4つの対策を打ち出しました。

  • 新技術の導⼊(新型機材等)

  • 運航⽅式の改善

  • 代替燃料の活⽤に向けた取組

  • 経済的⼿法の検討推進

4つ目の経済的⼿法の検討推進がカーボンクレジットを主活用した温室効果ガス削減策にあたります。

国際民間航空機関(ICAO)は、2021年以降、国際線を運航する航空会社に対して、2019年の二酸化炭素排出量を上回った量に対して、航空以外の事業から相当量の二酸化炭素排出量(カーボンクレジット)を購入することなどを必須とするCORSIA制度を導入しました。

ボランタリークレジットの要件より高い航空業界での独自規制はカーボンクレジット市場においても先進的な取り組みと言えます。よって、今後他産業へ影響を与える可能性があります。

ICAO:航空業界の二酸化炭素排出量削減計画


カーボンクレジットの課題

1.算出方法に関する課題
二酸化炭素吸収量や削減量を算定するためにサンプリング調査を行う場合、毎回プロジェクト実施地まで行く必要があり時間・労力・コストがかかる上、リアルタイムでのデータを検証することが困難です。

また、クレジットの取引ではより保守的で検証可能なエビデンスを用いたプロジェクトから発行された信頼性の高いクレジットが求められます。

2.検証コストに関する課題
クレジットの創出時と発行時には、データ取得費用、認証機関の審査費用や第三者検証費用がかかるため、費用に対する投資が可能な企業単位の取引が主となってしまいます。よって、個人や小さなコミュニティにとってはコストの点からもハードルが上がり扱いにくさがあります。

そこで、人工衛星のデータを活用することで、検証可能な高精度のエビデンスと労力やコストの削減が可能になります。よって算出方法と算出コストの課題に対して、人工衛星で解決を図る海外企業を紹介します。

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