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ヴェネツィア名物アクアアルタのお話

Aqua alta= #アクアアルタ は直訳すると「高い水」という意味で、
ヴェネツィア名物の高潮のこと。
よくヴェネツィアは沈んでしまうの?
と聞かれますが、正しくは水没ではなくて冠水です。
月の満欠けによる潮の満ち干に加えて季節風(アフリカから吹いてくる
シロッコ)や気圧の変化、それに降雨など複数の条件が重なって
ひき起こされる気象現象なのです。
近年では地球温暖化による海面上昇も大きな要因になっています。

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サン・マルコ広場はアクアアルタの名所


アクアアルタになると、必ずサン・マルコ広場が水浸しになって観光客が
右往左往する様子がニュースで流れます。映像として面白いからだと
思いますが、これがけっこう誤解を招いているような気がします。
ヴェネツィアはエリアによってかなり高低差があり、潮位が上がると
海抜の低いところから次第に水に浸かっていくのですが、大運河に面した
サン・マルコ広場は島内で最も低い(海抜80センチ)冠水の名所なのです。

アクアアルタはだいたい110センチの水位になると、あちこちで冠水が
始まります。ざっくり言うと、120~30センチの水位だと、
ふくらはぎくらいまで浸かる小川のような状態になる程度で、
長靴を履けばなんとかなります。また潮の満ち干にシンクロしている
ので、通常はものの数時間の出来事です。

しかし、2019年の11月には暴風雨を伴った、53年ぶり史上2番目(最大の被害は1966年の190センチ)となる187センチの記録的な大洪水となり、島の9割近くが冠水、市民生活と歴史的遺産に深刻な被害を及ぼして
しまいました。
これはサン・マルコ広場では100センチ余りの腰上まで浸かる水位です。
一番高い場所のサンタルチア駅周辺(海抜110センチ)でも、
約70センチの膝上まで浸かる水位でした。

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画像12冠水時のハザードマップ「アクアアルタ地図」

長靴は生活必需品

ですからヴェネツィア人にとって長靴は生活必需品。町の雑貨店には種類もいろいろ、太ももまである長さのものや、漁師のような胸まである装備も揃っています。観光客用にビニール製のオーバーシューズを売っていたり、一時しのぎにはゴミ袋を履いてしまうこともしばしば。
水上バスの停留所やホテルのロビーなどには、冠水時のハザードマップ
「アクアアルタ地図」
が掲示してあり、潮が上がってきたら、どこが水に浸かってしまうのか、またはどの道を辿れば大丈夫なのかが色分けで
分かるようになっています。

アクアアルタは晩秋から冬にかけてよく起きる現象です。シロッコという南風が吹くので、アクアアルタの日は冬場でも案外あたたかく感じます。
この時期になると、通りの真ん中に積み上げた大きなテーブルのような平台「PASSARELLE」が出現します。
潮が満ちてくるとなれば、この台をどんどん並べていって渡り廊下のようにし、その上を歩くのです。
ヴェネツィアの建物はふつう1階部分は住居には使用せず、倉庫や階段室
などになっています。ただ店舗は1階ですから、ドアの前に水の浸入を防ぐ防護板がついていたり、土のうを用意しているところもあります。

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DSC_0048 のコピーゲットー近くで見かけたユダヤ教のラビ。ゴミ袋を袴のように履き、携帯で話しながら歩くツワモノ。

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#アクアアルタのサイレーン

アクアアルタは気象現象なので、ある程度の予報ができます。
町角にオシロスコープが設置されていたり、市の潮位予報警報センターが
発表する水位予報をネットでチェックできます。
だいたい110センチの水位になると冠水が始まり、警報=サイレーンが
鳴らされます。
以下のように水位の高さによって鳴らす回数と音階を変えているのですが、語源である海に棲む魔女サイレーン(イタリア語ではシレーネSirene)
啼き声を思わせる、なんとももの哀しい響きです。
昨年の大洪水の時はさすがに鳴りっぱなしだったそうです。

110 cm: un suono prolungato sulla stessa "nota"(注意喚起1回だけ)
120 cm: due suoni in scala crescente(段々大きく2回)
130 cm: tre suoni in scala crescente(段々大きく3回)
140 cm e oltre: quattro suoni in scala crescente(段々大きく4回)

ヴェネツィアに暮らす人々にとって、アルアアルタは日常です。
もちろん、アクアアルタは生活に支障をきたすやっかいなものですが、
だからといってヴェネツィアから逃げ出そうと思う人はいないようです。
潮の満ち干や季節の変化という自然のリズムにうまくおりあいをつけ、
ヴェネツィアならではの風物誌として受け入れているのです。
実際に、ひたひたと潮が上がってくると、道路と運河の区別がつかなく
なってきて、本当にすべてが水に浮いているような感じになり、
その不思議な光景を目にすると、この町が世界で唯一の稀有な場所なのだとあらためて実感することになります。

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デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。