見出し画像

ただ「茹でた魚」がこんなにおいしい〜ヴェネツィアのキッチンから


この魚料理をはじめて食べたのは、
ヴェネツィアのマンマの長男アドリアーノの家でした。
しかもそれはお葬式の後の家族や親戚が集まる食事会。
茹でただけの魚なんて、と敬遠していましたが、
すすめられるままに食べてびっくり。
以来、我が家でも #魚料理の定番 になりました。

DSCN9429 のコピー

#常識をひっくり返すはじめての味

その日の昼食の主役はbransin=スズキでした。
ニジマスくらいの大きさの小ぶりのスズキは、アドリアーノ自身が
今朝ラグーナで釣ってきたもの。
10匹以上もの魚を半分グリリエ(焼き魚)にし、もう半分をlesso=レッソ
といって茹でて食べるのだという。
料理はこの家の主婦であるアドリアーノの妻グラツィエッラが仕切ります。
プリモピアットの魚介のタリアテッレを食べ終わると、皿が取り替えられ、
焼いた魚と茹でた魚が盛られた二つの大皿が運ばれてきました。
どっちを食べる?と訊かれたので、迷わずグリリエを選んで皿に取り、
食べ始めました。新鮮な地魚スズキは文句なくおいしい。
かなりの満足感に浸っていると、こっちも食べてみたら、とグラツィエッラが茹でた方の魚を取り分けてくれました。
こちらも各自の皿の上で、魚の身に塩胡椒、レモンを絞り、オリーブオイルをたっぷりかけて食べるのです。
う〜ん、茹でただけの魚かあ、としぶしぶ口に運んでみると、
これがアレッと思うほど意表をつくおいしさ!
水煮の魚なのに、不思議と旨味も逃げていないどころか、
やわらかくあっさりとした白身に香りの良いオリーブオイルが調和して、
なんともやさしく上品な味わい。
魚の味に対する常識を見事にひっくり返されてしまいました。

それからというもの、すっかり茹でた魚が気に入ってしまい、
マンマと連れ立っていくリアルト市場でも、白身の魚を見つけては、
茹で魚をリクエストしたものです。

画像1

*リアルトの魚市場ペスケリアで、マンマと買い物。
*razza=エイはやや高級な魚。上はcagnetto(カニェット=子犬の意)と
呼ばれる小ぶりのサメ。日本ではネコザメですが、イタリアではイヌザメ。

DSCF8378 のコピー 2

画像13


味の決め手となるオリーブオイル


アドリアーノの家のオリーブオイルは南イタリア、プーリア産の厳選された
ものを、定期的に産地から取り寄せていました。
とろりとした緑のオリーブオイルの入った細い注ぎ口の瓶が、
食卓の真ん中にどんと置かれ、魚に、茹でた野菜やサラダに、パンにも
と皆が手を伸ばします。
家庭料理の多くは、このような素材を活かしたシンプルな料理なので、
オリーブオイルが大事な味の決め手になります。
ですから、どの家庭でもオリーブオイル選びは重要事項なのです。

同じ魚でもオーブンやグリルパンで焼くグリリエの方がやや格上のご馳走
であり、茹でた魚は家庭でのふだんのおかずという位置づけなので、
ヴェネツィアのレストランでは、グリリエはあってもレッソに
お目にかかることはめったにありません。

魚を茹でて食べるのは、新鮮な魚が手に入るヴェネツィアならでは。
しかも、茹でたてではなく、必ず常温でしっかり冷まし、身がすこし
しまった感じのところを食べるのです。
つまりフランス料理にもある、魚の冷製の原型のような料理です。
冷ます時間を逆算して、少なくとも食事の1~2時間前には用意しておきます。
逆に言うと予め用意しておけるセコンド(主菜)なので、お客料理として
準備しておくには好都合です。
肝心なのは、ちょっと上等なオリーブオイルを奮発すること。
魚の鮮度とオリーブオイルの質がすべてという料理です。
ヴェネツィアではスズキのほかcagnetto=小ぶりのサメや
razza=エイ
などもよく茹でて食べますが、手に入りやすいイシモチなど
白身の魚ならなんでも。
私はこの料理、茹でたエイが一番好きです。

ワインはビアンコ、プリモピアットも魚介を使ったもの、あるいはシンプルなトマトソースのパスタなどを合わせます。
このような魚料理の時はチーズを食べることはありません

ここから先は

537字 / 9画像

¥ 150

デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。