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ヴェネツィア〜洗濯物のある風景

イタリアの下町といわれて誰もが思い描くのは、
あの映画に出てくるような洗濯
はためく
路地裏の光景ではないでしょうか。
今や都市部ではそんな眺めも少なくなっているというけれど、
ここヴェネツィアではまだまだ健在です。
庭先はもちろん、通りに面していようが運河の上だろうが、
おかまいなく洗濯物は窓の外に盛大に干すのが常識なのです。

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DSCN9907 のコピー 3ヴェネツィアの典型的な集合住宅にあるcorte=コルテ

ヴェネツィア流洗濯干し

ヴェネツィアの一般的な住居は大半が石造りの集合住宅で、
corte=コルテという中庭があります。コルテの真ん中には
pozzo=ポッツォ
(天水井戸)や共同の作業場などがあり、
駐車場ならぬ自家用ボート置き場になっています。
そして上空には向いあう窓から窓へ物干用ロープがはりめぐらされ、
盛大に洗濯物がはためいています。
ロープの両端には滑車がついていて、洗濯物を干したら順々に向こうへ
送りだしていき、乾いたら逆に手前にたぐりよせながら取り込みます。
これはやってみるとなかなか面白いのですが、
シーツや毛布など大物を干すとなるとかなり重労働です。
お天気のいい朝、あちこちの窓の外にずらっと家族全員分の洗濯物が
整列しているのは圧巻で、まるでヴェネツィアのマンマたちが掲げる
誇らしげな旗印のよう。
眺めるだけで、賑やかな家族の風景が目に浮かびます。
リネン類など白ものと、色の濃いシャツなどは分けて洗濯するので、
真っ白なシーツやタオルばかりがはためいていたり、家族全員分の
黒いシャツやパンツがまるでアート作品のように並んでいたり。
明らかに洗濯物の干し方、カラフルなレイアウトに意図的な美学を
感じるものも少なくありません。
洗濯物ひとつにも自己表現の場であり、スタイルがあるのです。

洗濯だけでなくマンマたちの毎日はとても忙しい。
家のなかはすっきり片づき、鍋や家具はいつもぴかぴか、
バスルームは清潔そのもの、ささやかながら窓辺には花を欠かしません。
洗濯物が乾いたら、シャツやリネン類はもちろん、
Tシャツや下着までもぴしっとアイロンをかけるのです。
我が愛しのマンマ・ロ-ジィも例外ではなく「どうしてこんなに私ばっかり忙しいんだろ」と文句をいいながらも、次から次へ休む間もなく体を動かしていました。家庭は主婦の城であり、家事をきちっとやってこそ
マンマとして君臨できるのです。

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料理もアイロンもキッチンはマンマの定位置DSCF0107 のコピー

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台所はマンマたちのテリトリー

そして毎日手をかけ、せっせと愛情たっぷりのごはんを作る。
とくに台所はマンマたちのテリトリー、マンマのそのまたマンマから
リチェッタ(レシピ)を受け継ぎ、さらに自分なりに工夫したやり方を
築きあげているので、おいそれと手出しは許されません。
週末などに家族が集まって食事をする際にも、キッチンの主導権はその家のマンマにあり、同居の娘はともかく嫁が手伝うことは稀です。
それゆえ、マンマのレシピは常に直系の娘に引き継がれていきます。
(→このことについては別章「リチェッタのゆくえ」に書いています)

食材はほぼ毎日こまめに仕入れて使い切るため、冷蔵庫も小さく、
電化製品も最小限、調理道具もシンプルです。
ところがこの小さい簡素な台所で、魔法のように最高の料理を
つくり出してしまうのです。
手抜きというものが一切ない料理は、当然手間ひまかかるものばかり。
口癖の「pazienza=パツィエンツァ(忍耐)」を連発しながら、
水で戻した干ダラの小骨をていねいに取り、手を黒く染めながらスミイカをさばき、レモンマリネにする小鰯もひとつひとつ手で開き、サラダのルコラは根気よく茎を取り、カルチョフィ(西洋アザミの蕾)はレモンでアクを
抜いてパセリを詰める。
マリネやアク抜きに使ったレモンは、魚をさばいた手の臭みをとったり、
鍋やお皿を洗うのに無駄なく再利用します。

エコとリサイクル


そういえば、家庭から出るゴミも最小限です。
昔からスーパーのレジ袋は有料、市場へは必ず買い物袋やカートを持参、
もとより食品の包装自体も日本に較べずっとシンプルです。
プラスティックのトレーもなく、パティスリーで買うお菓子も箱ではなく、素朴な紙製トレーに乗せて包んでくれます。
自家用に自分で瓶詰めするワインの空瓶は、洗ってはまた使い続ける
完全なリサイクル。量り売りのワインを買う時は、適宜空のボトルを
持っていき詰めてもらいます。(→「ヴィーノのある暮らし」
それ以外のガラス瓶や不燃ゴミは町角の回収ボックスへ。
可燃ゴミも同様に回収ボックスまで捨てにいくか、決まった時間に出して
おけばゴミ回収の台車が集めに来るシステムです。回収したゴミは専用のボートで運搬します。あたりまえだけれど、自動車のないヴェネツィアでは、移動も運搬もすべて徒歩と舟です。
ゴミ回収の他、郵便配達、警察、救急車ならぬ救急ボート、その他あらゆるものの運搬、DHLだってちゃんとロゴ入りのボートがあります。
もちろん公共交通もモトスカーフォやヴァポレットという水上バスなので、ラッシュアワーの混雑もなんだかのんびりしているように見える。
ここでは時間までもall'onda=波まかせ、ゆったりと流れているようです。

DSCF0263 のコピー量り売りのワインも台車と舟で運ばれます

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デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。