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出会った人々♬

 10月末から季節労働者として働いていた。
 レギュラーにはなれず、解雇になったものの、なかなか充実した2カ月間だった。

 まず、毎朝ではないけれど、お散歩をするおじいさんと仲良くなった。

 彼は、私の姿を見ると、ただちに杖を構える。
 うまい具合に、おじいさんと会う時は、いつも傘を持っていたので、私も傘を構えて対抗する。
 数回目に会ったとき、おじいさんがキャンディーをくれた。

 「アルゼンチンのキャンディーやねん。
 これは噛んだらあかん。ずーっと舐めてたら、フルーツのジュースが出て来るねん!」

 言われたとおり、ずーっと舐めていたら、パイナップルのピューレが出て来た。
 翌日、お礼を言うと、オレンジの飴も追加された。

 バスの運転手さんとも顔見知りになった。
 太った白人の運転手さんは、すべての人に、

 「よい1日を!!!」

 と言ってくれる。
 白人のおばさん運転手も、いつも笑顔で迎えてくれる。
 アラブ系のお兄さんは、比較的不愛想だ。
 黒人の兄ちゃんは、とりあえず挨拶をしてくれるけど、思ったほど朗らかではない。
 
 それでも毎朝挨拶をする。
 なかなか楽しい。

 会社の人とも仲良くなった。

ミシェル
 いつもニコニコしている不思議ちゃんだ。
 ハロウィーンの前には、ゴースト系の刺繍が入ったワンピースを着て登場する。
 サンクスギヴィングの前には、ターキーの刺繍が入ったドレスを着て、仕事をする。
 クリスマス前は、緑と赤をベースにしたワンピースだ。
 体格のよいミシェルが、ひらひらピカピカの衣装を着て、楽しそうに仕事をする姿を見ていると、こちらまで楽しくなる。

ターシャ
 
幼稚園の先生の彼女は、仕事を終えた後、夕方5時に出勤してくる。

 「あんた、名札逆さまやで」

 上下逆さまに付けていた名札を、唯一指摘してくれた人だ。
 6時に退社する私の名札は、7時間ずーっと逆さまだったようだ。
 英語がパーフェクトに話せないことを、まったく意に介さず会話をする人は意外と少ないけれど、彼女はそのひとりだ。
 幼児の相手をしているターシャは、話がわからなくてもへっちゃらなのかもしれない。

ジョーイ
 パパが日本人のハーフ。
 おしゃべりで、”女の子?”と思うくらいソフトな口調。
 パパと仲良しで、二人でマツタケ狩りに行ったことや、相撲を見に行ったことをぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ話してくれる。
 解雇が決まった時は、びっくりするほど凹んでいたけれど、

 「セールスの仕事に向いてるね」

 と誰かに言われたらしい。
 途端に元気を取り戻した。
 デパートの中の靴屋で拾ってもらうために、毎日、靴屋の人と全力でおしゃべりをしている。

 スティーヴンⒶ  
 
レギュラー3年目で、黙々と静かに仕事をする人。
 ちょっと暗い。
 けれども、すべての従業員の名前を憶えて、誰かが困っていると、必ず声をかける優しい人だ。
 困ったときのスティーヴンで、私は、声をかけられる前に質問をする。
 いつもお世話になっている彼に、ダイソーで買った飴をおすそ分けすることにした。

 「飴って好き?食べる?」
 
 その瞬間、彼は3倍サイズのぺこちゃんキャンディーを、ジーパンの後ろポケットから、さっと取り出し、ニタッとした。
 この日から、仲良しになり、ちょこちょこ話すようになった。

 アーミーで働いていたパパと二人で各地を転々とし、高校生からシアトル暮らし。
 今もパパと二人で暮らしている。
 30歳、40歳近いのかなー?そんな彼が、パパと二人で暮らしている。
 しかも、この仕事しかしていない。
 数か月働いて気付いたことだけれど、この仕事は家族、遊び、趣味、他に夢や目的、もしくは何らかの時間的拘束がある人にしか続けられない。
 スティーヴンも、なんか理由や事情があるのだろう。

 「シアトルにはずっといるの?」

 という彼の質問から発展して、私も質問をした。

 「どっか行きたいとこある?」

 「砂漠・・・」

 「砂漠で何するの???」

 「絵を描きたい・・・」

 「・・・スティーヴンは絵描きさんなん?」

 大喜びすると、彼がインスタグラムに載せている絵を静かに見せてくれた。
 スティーヴンらしい、とても優しいタッチの水彩画だ。

 「すごいすごい!」

 「・・・しばらくしてなかってんけど・・・また始めなあかんよな・・」

 絵を続けられなかったり、砂漠に行けない事情があるのかな?
 元気を出して、好きなことをして欲しい。

スティーヴンⒷ
 こちらのスティーヴンは、仲良しではない。
 ある日、見つけた靴の箱がなかったので、近くにいたⒷに聞いた。

 「大丈夫。汚れてるから、綺麗にして、袋に入れてあげるよ」

 「そんな全部してくれるんやったら、スティーヴンが見つけたことにしたらええやん」

 「そうなん?!?!?!」

 目がキラキラになった。 
 この瞬間、この仕事はチームワークではなく、コンペティションだと気付いた。
 その日以降、Ⓑは私から、ホイホイ商品を奪えると思ったらしい。
 なにかと言えば、私の商品を奪いに来るようになった。
 解雇が決まったのであげるけど、自分の成績ばかり考えているⒷのことは、あまり好きではない。

エスメラルダ
 朝3時から働いている彼女は、飾り気ゼロ、気のいいおばちゃん風だ。
 家に帰って寝れる日もあれば、子供が起きている時は寝れない日もあるけれど、いつもフラットで、穏やかだ。
 出勤すると、エスメラルダのところに行って、ちょこっと話をしてから仕事を始める。
 解雇を報告した。

 「えー、そうなんー?あんたのこと好きやのに。ステファニーと話ししたん?」

 内容は驚きと、残念な言葉に満ちていたけれど、エスメラルダの口調はいつもと一緒なので、あんまり残念そうに聞こえない。
 そんな彼女が大好きだ。

レネー
 半袖のTシャツを着て、店中をブンブン走り回って仕事をする。
 私がランチを食べていると、なぜか私に向って突進してくる。
 海外留学生を20年くらい受け入れている彼女は、他の国の人と接するのが好きなのだろう。
 
イージー
 ヒスパニックとフィリピンのミックスのイージーは、ごっついけれど、心は女の子だ。

 「昨日ね、お洋服を持って倉庫に入ったら、セキュリティに通報されたのよ~」

 「なんやとーーー!!!」

 イージー以上に、私が怒ってから仲良しだ。
 
 「ユミコ~!素敵なキャンドル見つけたの~」

 かわいい商品や洋服を見つけると、必ず教えに来てくれる。
 選ぶ商品も、とってもかわいい。 

デュエル
 紳士服売り場のおじさん(おばさんかもしれない)。
 私を発見すると、必ず声をかけてくる。

 「何を探してるの?」
 
 「何を言ってるのかわからないわ!」

 「もっと大きな声で、はっきり言いなさい!」

 言いたい放題だ。
 けれども彼に聞けば、ただちに商品を見つけてくれる。

 「時間を無駄にするんじゃないわよ!私に聞きなさい!」

 とはいえ、彼も仕事中なので、ちょっと遠慮がある。
 がんばって探していたら、デュエルが叫んだ。

 「あなたがそこでウロウロしていたらイライラするのよ!!!
 あなたたち、あちこち触って、商品をぐちゃぐちゃにするじゃないの!」

 ・・・なるほど、私の時間をセーヴするためじゃなかったんだ。
 私は商品をぐちゃぐちゃにしないけれど、ぐちゃぐちゃにする人も多いのだろう。
 デュエルは一番言いやすい私に、彼の怒りを爆発させたらしい。
 このことがあったので、彼がどんなに忙しくしていても、必ず引き留めて質問をする。
 とりあえず仲良くやっている。

ジェイジェイ(JJ)
 「私、ジェイジェイ。アシスタントマネージャーよ!
 マネージャーはホイットニー!」
 
 シアトルの人は、

 「あなた、なんて名前?」

 と聞く人が多い。
 ダンナはいつも、

 「人の名前聞く前に、自分の名前を名乗れ!シカゴでは通用せん!」

 と言うけれど、彼女は自分から自己紹介をした、珍しい人だ。

 「そのブーツかわいい!どこのブランド?」
 
 私の履いていたブーツや、服装が、彼女の好みと合ったらしい。
 よく褒めてくれる。

 「ユミコ!!!こっちと、こっち、どっちの組み合わせがええと思う?」

 彼氏のプレゼントまで、私に選ばせてくれた。
 鼻ピアス、肩にタトゥーを入れた彼女は、いつもハツラツとしている。
 サバサバしていて、大好きな女性だ。

ホイットニー
 
ジェイジェイほど話すことはないけれど、会えば必ず言葉を交わす。
 彼女は、足がちょーっと短いけれど、彼女の外見は本当に素晴らしい。
 ものすごーーーーーーーーーーく美しい!!!
 美しいけれど、偉そうにしたり、ツンケンする雰囲気がまったくない。
 いつも穏やかで、優しい笑顔でおしゃべりしてくれる。
 先日、廊下に張り出された売上げをみると、彼女は店内で2位だった。
 男性なら、ホイットニーに対応されたら、ちょっとくらい高い商品でも買ってしまうと思う。

マシュー
 紳士服売り場で、コンピューターを使って、お客様に似合うタキシードやスーツをアドヴァイスする男の子(女の子かも)。
 
 「ユミコは日本人?今度故郷に戻るときに、日本で一泊するんだー。すっごい楽しみ!」

 ある日、マシューが話しかけてきた。
 彼は2年前に、フィリピン?から移住してきた。

 「ラーメンを食べたいの」

 会えば、日本の食べ物や、ファッションの話をするようになった。
 出発前日、

 「ユミコー!明日、出発なの。ユミコに何か買ってくるね!」

 知り合って数週間の私にお土産を買ってくる?
 不思議だけど、なんか嬉しい。

名前がわからない人
 裾上げや、ほころび、ボタンの付け直しをしてくれる部署がある。
 彼女たちは1日中ミシンに向かい、作業をする。
 その部署で働いている彼女は、髪にお花をつけて、ピンクやオレンジの色の洋服を着て、いつもニコニコしている。
 ある日、その彼女の顔がちょっと曇っていた。

 「大丈夫?」

 「クリスマス前でお客さんもイライラしてるのよね。ネガティヴなエナジーをぶつけられたのー。
 今そのエネルギーを振り払おうとしてるとこなのよ・・・Shake it off!Shake it off!」

 ネガティヴエナジーを振り払いながら、立ち去る彼女に、ダイソーで購入した飴を進呈した。
 その日から、会えば話をするけれど、相変わらず名前がわからない。
 彼女も知らないと思う。

バット
 モンゴル人の彼は、暑い店内の中で、いつも皮のジャケットを羽織り、革靴を履いている。
 仕事が嫌いで、物静か。
 けれども、女性従業員からは大人気だ。
 真っ暗な倉庫に入ると、彼と数人の女の子がいたこともある。
 「手出したやろーーー!」と、一発でわかる女の子もいる。

 「僕の名前は覚えてる?」

 私にも色っぽい声で、話しかけてくる。
 ある日、おしゃべりをしていて、彼は衣類やインテリアのデザインに興味があることを知った。
 自分で帽子のデザインもしているらしい。
 なるほどー、彼が嫌々仕事をしている理由がわかった。

 「そっかー!帽子が売れるといいねー!」
 「ユミコも執筆で、何かできるといいねー!」

 この時から、お互いの夢を応援するようになった。
 
 クリスマスの数日前、彼が日本語で話しかけてきた。

 「ユミコさん・・・明日は、僕の・・・」

 「・・・誕生日?」

 「ユミコさん・・・明日は、僕の・・・」

 「・・・結婚式?おめでとー!!!」

 「ノー・・・ユミコさん・・・明日は僕の・・・ラスト・デイ」

 「・・・おー!おめでとう!!!自分のしたいことにフォーカスするんや!」

 「・・・はい・・・」

 彼の前進を大喜びした。
 ふと彼の背後を見ると、仕事を放棄し、悲しそうな顔でうつ向いている女の子が数人いた。
 若いっていいなぁ💛

 この他、英語が話せない、お掃除のおばさん達とも仲良しだ。
 皆が触りたくない、汚い場所をいつもピカピカにしてくれる。
 偉いなーといつも思う。

 関西人の気性か、おしゃべりをすると、すぐに飴をあげてしまう。
 私の口にはほとんど入ることなく、飴はなくなる。

 ここまで書いて気が付いた。
 これだけ色々な人とおしゃべりをしているのだから、解雇されても仕方がない。

 

最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!