Microsoft vs FTC裁判感想戦

裁判の結果
FTCが原告として米地方裁判所にMicrosoftとABKの接近禁止命令及び資産差押を求めて訴えていた裁判は、原告の請求を棄却で結審しました。
また、判決後FTCは控訴しましたがこれも即日棄却しています。

残る手段はFTCが控訴委員会に訴えて裁判を継続するよう主張し認められれば…というところですが、それまでに買収取引の完了する可能性があり、訴えること自体手遅れとも言える状態です。

FTCの戦略としては取引期限ギリギリに訴えて妨害することで、取引期限をオーバーさせ取引を無かったことにする、という戦略だったのでしょう。
しかし、そのギリギリで訴えたために自分たちが今度はその時間がなく負けそうというのは皮肉なことです。
正面か当たっては理がないことをわかっていたからこういう搦手みたいな手を使ったのでしょうが、キチンと調査し理論武装し準備していたらもう少し違った結果だったかもしれません。
(その結果買収を認める、ということになってたかもしれませんが)

Microsoft側としてはやはり各企業にCOD等の提供の契約を提示し、より多くの人に提供できるように動いたこと、それがPSユーザーよりも多い数にアプローチしていたということが大きかったと思います。

また、この結果を受けて判事の子がMicrosoftに勤務しておりそれで判決を曲げた、と主張するPS系インフルエンサーの方などいるようですが、これは裁判前から事前に公表されていた情報であり、それを知った上でこの判事に訴えたのはFTCです。また判決文にはそう言った点もありませんので論外の主張であると言わざるを得ません。

最初から無理があった市場定義
一般の人にソニーのライバルは?と聞いたら大抵の人は任天堂とMicrosoftと答えるのではないでしょうか。この認識は正しいです。

今回FTCが定義した市場はこのコンソール市場ではなく、任天堂を除いた市場を定義しました。この「ハイエンドコンソール市場」という市場定義ですが、最後までFTCは立証出来ませんでした。

コンソール市場で見ると首位は任天堂、2位はソニー、3位はMicrosoftになります。
ハイエンドコンソール市場で見ると首位は圧倒的大差でソニー、2位はMicrosoftになります。

FTCの主張の歪なところは、このどう見ても最下位のMicrosoftが競争力をつける買収をすることは自身の主張するハイエンドコンソール市場で圧倒的首位のソニーに不利益だ、と主張してることにあります。

そのための槍玉に挙げられたタイトルがコールオブデューティ(以下COD)でした。
FTCはこのCODが市場での趨勢を決めるタイトルで、これを買収することでMicrosoftが圧倒的に有利になると主張しました。
ですが、このFTCの主張を否定する存在があります。
それが任天堂の存在でした。

任天堂のSwitchにはCODはリリースされていません。それでもコンソール市場では圧倒的首位です。FTCのいうCODが圧倒的な存在であれば、Switchはここまで圧倒的になってはいないでしょう。
そしてCODの脅威の主張を出来なければFTCとしては買収取引への攻撃手段を失います。
そこで彼らは市場から任天堂を除外した市場を定義しました。

こうした主張のための市場定義だったため最後までチグハグで不明瞭な主張に終始し、彼ら自身が呼んだ証人の証言もありFTCは市場定義を証明できませんでした。

Microsoftの信用を毀損したかったFTC
CODはハイエンドコンソール市場の影響は甚大で競争に影響を与える、という主張です。
しかしMicrosoftはソニー、任天堂、steam、各クラウド企業への提供を提示し、ソニー以外とは契約を締結しました。

これをMicrosoftは信用できない、と主張したのがFTCでした。そこでMicrosoftの過去の事例を出してなんとか信用できないことを立証しようとしました。

過去に社内で展開された「ソニーを撤退に追い込むための戦略」のメールをこの買収と結びつけようとしました。しかしメールは買収提案前で一蹴されてしまいます。

次にベセスダでスターフィールドの独占を持ち出しました。しかしこれも当初からハードは決まってなく、元々PSで出すかどうかすら決まっておらず、「ケースバイケース」の事例して独占を決めたこと、と一蹴されました。

次に他機種へは劣化版を提供するのでは?という疑念をFTCは主張しましたが、マインクラフトやFallout76で公平にアップデートが提供されていることが示され退けられました。
この過程でマインクラフトのPS5最適化版がないのはソニーが開発ツール提供を渋っているためだったことが皮肉でしたね。

その他、COD独占を企んでるなど主張していましたが取締役会の議事録から買収計画当初からCODマルチ維持が話し合われ決定していたなど、FTCの作戦は失敗に終わりました。

クラウド市場での反撃
ハイエンドコンソール市場ではちぐはぐでしたが、クラウド市場では反撃にでました。
ただ、その反撃の相手はMicrosoftの証人として呼んだ経済学者で、クラウドの専門家ではありませんでした。
ウクライナの会社のクラウドゲーミング会社に提供してもアメリカ国民は遊べないのでは?
台湾のnvidiaに提供してもアメリカ国民の選択肢には入らないのでは?
との質問に専門家ではないエコノミストは返答に窮しました。
一見反撃は成功したようにみえましたが、ウクライナの会社や台湾nvidiaのクラウドゲーミングはアメリカにサーバがありアメリカ国民が遊べることを事前提出の書類に記載されていました。

専門外の人が答えに困るのは仕方ないですが、裁判やる側が事前の資料読み込んでないの?とすら思われる展開でした。

FTCの呼んだ証人の質の低さ
今回のFTCの裁判でFTCが呼んだ人に、ソニートップのジムライアン、GoogleStadiaの技術責任者、ボストン大学の経済学者のリー博士などでした。

市場定義についてFTCはハイエンドコンソール市場はソニーとMicrosoft、任天堂やPC、クラウドは別市場と主張していました。

そんなFTCの呼んだ証人の発言は以下になります。
ジムライアン「PSの競合はXbox、PC、任天堂は直接ではない」
GoogleStadia技術責任者「Stadiaの競合はコンソールゲーム機、その他クラウドゲーム」

自分の呼んだ証人に自分の主張を否定されています。事前の打合せとかしてないんですかね?

また、CODを独占するとマルチにするよりも利益がある、と主張していたリー博士でしたがデータの出所に答えれなかったり、使ってるデータが旧世代のデータだったりとこちらも主張を裏付けるには程遠い内容でした。

総評
Microsoftが勝つべくして勝ち、FTCが負けるべくして負けた、という結果でした。
キッチリ準備してなMicrosoftと、無茶苦茶な理屈を主張しているFTC。

判決でも指摘されてますが、FTCはソニーの主張に依存しすぎていたのだと思います。
そのため主張が消費者のためというよりソニーのためという主張になっていました。
裁判中に判事の言った「ソニーがサインしていたら私たちはここにいたでしょうか?」というのが全てを表してたのではないでしょうか。

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