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スーパースター

子供の頃、なんでも解決できるスーパーマンみたいな子がいた。
私たち同級生はどうしたらいかわからずオロオロする中、的確に指示を出して、わからないことは適切なところから情報を得て、私たちが言う通りにしているうちに解決に導いてくれた。
お礼を言うと、なんだかつまらなさそうな顔で一応笑顔に見える表情を作り
「終わったな」
と言う。
その子は若くして命を絶った。みんな、親にも命を絶った理由がわからなかった。
いつものように学校に向かい、帰宅途中の雑木林の中で木にかけた紐に首を……
 遺影には、子供の頃よりは大人びた彼が、やはりつまらなそうな顔で写った写真が飾られていた。
 どうして…なんでもできたじゃん、なんでもわかってたじゃん…私たちみたいにオロオロする不安なことなんか、なかったんじゃないの?
心の中で答えが変えるはずない問いをかけているうちに、ふと思った。
「つまらなかったのかな?」
彼はオロオロすることもジタバタすることもなかったけど、いつも1人で解決に導いて、つまらなそうに少し離れたところに佇んでいた。
みんなとオロオロしたいな、なんて思ったりしたのかな?
たくさんの思い出の中に彼の姿はあったが、彼のエピソードは本当に少なかった。
「終わったな」と笑顔のような表情を作ったとき、なんだか、さびしそうにみえたのは気のせいじゃなかったの?
 遺影をみると、やはり
「終わったな」と言いそうな顔で、こちらは笑顔の前の無表情な顔の遺影だった。
しつこく聞けばよかったかな?
さびしかった?どんな気持ちで過ごした?私はあなたが好きだったけど、好きな気持ちはどう伝わってた?

あそこに一緒に行こう。

買い物にいくから一緒に来てよ

今日の洋服素敵だね

どんな食べ物が好きなの?

何を思って暮らしてるの?

今までかけたくて、つまらなそうな表情に気圧されて言えなかった言葉が溢れそうに浮かんできた。

みんな微妙な顔してた。なんで自分で命を?て顔。

彼女でも友達とも言えない距離の私が泣くわけにいかないけど、いつものつまらなさそうな顔をいつまでも思い出して、かけたかった言葉を心で呟いていた。

さよなら私たちのスーパースター。
スーパースターではないあなたをもっと知りたかったな。


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