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ジ ワン 三話 ダンジョン一階層攻略

 初めて町を体験している。

 単純に一つ一つの建物がデカい。

 町の外を囲んでいる壁はデカいなんてもんじゃない。

 それに驚いたのが畑と牧畜だ。

 町の中にそれを行う余裕がある。

 ハッキリ言って町の外に出なくても全く問題なく生活できるだろう。

 外の魔物の事を考えると、快適そのものだ。

 快適な生活をするにはお金がいるらしい。

 お金。

 使ったことないな。

 爺に聞いて存在は知っていた。

 住むところを確保する前に先立つものが無い。

 どうしようかと思っていたらダズから良い話が転がり込んできた。

 ダズが次に何を言うか俺でもわかる。

 ダズのお眼鏡に適った様だ。

 案内人は素質のある後継者が不足している。

 ただ、成れる人材が不足しているだけで人気の職業だ。

 町の壁を守る兵士や、夜に結界を張る結界師の育成をする重要な職業だ。

 今案内人は六町の中でサバスに七人しかいない。

 重要な分、稼ぎも多い。

 ダズはいい奴だと思う。

 うまい話には裏が有りそうな気もするが、他に選択肢が思いつかない。

 このまま流れに乗ることにする。

 爺、何か金に変わる物を持たせておいてくれよ。


 案内人の拠点に招かれる事になった。

 ダズが俺の素質を強くアピールしてくれたおかげでお客として招いて貰う形になった。

 全く、そこまでされると逆にちょっと怖くなるな。

 案内人の拠点は住居と一緒になっている。

 広い。

 七人が同じ建物で生活している。

 正確には案内人候補が何人かいるので七人以上が生活している。

 俺も部屋の準備が出来次第住まわせてもらえる予定だ。

 倉庫部屋を一つ空けてくれるとのこと。

 あまりの待遇の良さに、最早若干どころでない恐怖を感じる。

 でも事実としてそんな話になっているのだ。

 食卓に招かれての懇談会になった。

 大勢に囲まれての食事は初めてで緊張した。

 今まで食べた事のない旨い料理を食べた。

 何を話したかって?

 七人の自己紹介とか案内人の心構えの話とかが有った。

 が、緊張と料理の衝撃でハッキリ覚えていない。



 ダズがダンジョンに連れて行ってくれる。

 ダンジョンの魔物は死ぬと消滅し魔石を落とす。

 魔石集めは低階層でも良い稼ぎになる。

 低階層の魔物は、小さい、純度の低い魔石を残す。 

 低品質の魔石でも砕いて魔道具の材料になる。

 その為、低品質の魔石でも買取価格はそこそこだ。

 ダズが予備の武器を貸してくれる。

 俺は槍を借りた。

 何を選ぶかはフィーリングで良いのだそうだ。

 俺は、性格はおとなし目だけど、爺と二人暮らしで協調性が無い。

 魔物と適度な距離を保って戦える槍は丁度良い気がする。

 ソロ向きの性格な気がする。

 ダズになぜこんなに良くしてくれるか思い切って聞いてみた。

 なんでも、ダズは案内人の中で戦闘の出来る斥候という立ち位置らしい。

 今案内人は戦闘向けのポジションが多く、斥候役が特に不足しているとの事。

 気配を読む事を新人に覚えさせようとして何度か逃げられている、とか。

 危機的経験が多いほどよく育つ特技のため、外の世界に連れ出して習得させようとしたらしい。

 つまり始めから魔物の気配を読むことの出来る若い人材を探していた。

 当てはまってるな、俺。

 気配を読む事はそれほど有用な特技みたいだ。

 爺との生活は無駄じゃなかった。

 ありがとう爺。

 しかし俺の性格はたぶん斥候向きじゃ無いぞ。

 それは良いのか?

 死ぬほど辛い何かが待っているような気がしていたが、そういう理由じゃないみたいだ。

 死ぬほど辛い何かに気づくのはまだ先のようだ。


 ダンジョンには受付が有って、勝手に中に入れない様に二人の兵士が守っていた。

 中に入る。

 一階層は迷路のように入り組んだ洞窟になっている。

 日が入らないが天井が薄く光っており、不思議と暗闇ではない。

 通路は槍を振り回しても余裕のある広さだ。

 一階層に出る魔物は人型の泥で出来たゴーレムらしい。

 通路の曲がり角から現れた一体を相手に、槍を何度か突き刺した。

 簡単に倒すことができた。

 一定以上ダメージを与えると消滅して魔石を残す。

 これならこの階層では命の危険はないな。

 と、そう思っている時が俺にもあった。

 このゴーレムは複数同時に出現するし、戦闘音に反応して地面からどんどん出現してくる。

 あっという間に取り囲まれてピンチに陥った。

 そばで見守っていたダズが二本のダガーを振るって助けてくれた。

 このゴーレムを一人で捌き切れるようになるまでがダンジョン攻略の第一歩との事だ。

 つまりしばらくは一人でダンジョンに入るのは無理のようだ。

 あれから何度かダンジョンに連れて行って貰ったが、結果は芳しくない。

 ダズはピンチになると助けてくれるが、何も言ってはくれない。

 自分で考えて何とかしろという事だろう。

 ダズは割と忙しいみたいだ。

 ダンジョンに連れて行って貰えるチャンスは少ない。

 何度か連れて行って貰った中で課題も見えてきた。

 焦らず少しずつ前進していこうと思う。


 課題のまず一つ目は、体力が続かない事。

 山育ちで体力には自信があったが、戦闘で使う体力は山の生活のとは根本的に違う。

 山の生活は長距離走だが、戦闘は短距離走を何往復もするのに似ている。

 使う筋肉が違うのだ。

 そんな訳ですぐに息があがってしまっていた。

 二つ目は、一つ目の体力にも影響してくるが、武器の振り回しの習熟不足だ。

 十五歳で大人が使う槍を選んでいることもあるだろうが、武器に振り回されている。

 もっと扱いに慣れないといけない。

 力が入りすぎて、動きも遅くなっているようだ。

 他にも、そもそも槍の正しい使い方がわかってない事もある。

 そんな事を言い出したらキリが無い。

 まずはこの二つを何とか改善していこうと思う。

 一つ目の課題には走り込みをして対処しようと思う。

 それも短い距離を全力で走らないといけない。

 二つ目の課題には、一つ目の課題と矛盾する部分がある。

 連続で使っても力まずに槍を振るえるようにならないといけない。

 何度も武器の素振りを行う。

 それとやはり槍が大きすぎるので短槍に変更した。

 案内人の拠点近くに、訓練に使える道場の様な場所がある。

 さっそく行ってみた。

 藁の巻いてある木の杭にひたすら槍を突き入れる。

 突き入れた衝撃で、握った手に負担がかかり、無駄な力が入っているせいだろう、皮が剥けてくる。

 魔物に槍を打ち込んで手の皮が剥けていては戦闘にならない。

 まだまだ訓練の必要がありそうだ。


 前回ダンジョンに行ってから一か月が経った。

 俺の担当は完全にダズに決まったようだ。

 ダズの忙しかったこの一か月はダンジョンに入れなかった。

 ダズは結界師の訓練で一か月もダンジョンに潜っていたらしい。

 久しぶりのダンジョン一階層。

 ゴーレム一体と遭遇した。

 一体なら処理できる。

 でも同時に二体出てくると処理が間に合わず囲まれてピンチになる。

 武器の扱いはこの一か月みっちり訓練したし、体力もだいぶついたと思う。

 変わってきた手ごたえはあるのだ。

 だが何かが足りない。

 結果が出ないことに焦りを感じていたら、ダズから初めて助言があった。

「魔物の気配を読め」
「お前が森で使っていたのは気配を読むというより索敵にあたる」
「長距離から全方位の気配を察知出来ていたなら近距離でも出来るはずだ」

 なるほど。

 魔物の気配を読む、か。

 有用と言われていた自分の特技を忘れていた。

 出来そうな気がする。

 試した結果、一時的に死角からの攻撃でさえ躱せるようになった。

 複数体を相手に持ちこたえることが出来るようになった。

 さすがダズ。

 助言が的確だ。

 ダンジョン攻略の最初の一歩。

 第一層。

 攻略完了だ。



(ダズ視点です。)

 久しぶりにゆっくり眠れた。

 天気も良い。

 日の当たる場所で食事でもするかな。

 食堂に来た。

 テラス席に移動する。

 ティトレがいる。

 この時間に会うとは。

 今は昼過ぎだ。

 珍しい事もあるものだ。

 少し離れた席に座る。

 ティトレは無言で俺の目の前に座った。

 無言が続く。

 解っている。

 言葉が無いんだろ?

 つまりは絶句。

 絶句だ。

 俺も同じ気持ち。

 絶句だ。

 ついにティトレが話し出した。

「ヤバいね」

「ああ、ヤバい」

 即答だ。

 同意するしかない。

「一階層攻略にかかった期間は?」

「一か月半」

「一階層が一番時間かかるって彼は知っているのかい?」

「知る訳無いだろ」

「だよね」
「素性は?」

「しっかりしている」

「山で拾ったんじゃ無かった?」

「拾ったのは偶然だ」

「含みのある言い方だな」

「あいつはサバスを目指していた」
「偶然じゃない」

「で?」
「正体は?」

「あいつの育ての親の名前は、バルド・ゼードだ」
「そう名乗っていたらしい」

「バルド・ゼード、ね」
「聞き間違いじゃない?」

「そう思うか?」

「はーあ」
「案内人の創始者の一人でしょ?」
「何年前の人物だよ」

「あいつは爺と呼んでいた」
「案内人が出来てから百年は経っている」
「爺で合っている」

「つまり、本人だと?」

「違うと思うか?」

「思わないけどさ」

「だろ?」

「あの気配消しと索敵を見せられたらなー」

「俺の様に寝ていても気配が消せるようになりたいらしい」

「最初からそれかよ」

「品がある」
「粗暴さが全くない」
「読み書きが出来るらしい」
「金の存在も知っていた」
「教養がある」

「つまり、英才教育されているのか」
「そうか」

「無いのは狩りの知識だけだ」

「性格はどうなの?」

「落ち着きがある」
「いつも自然に振る舞う」
「俺に寄りかかって来ない」

「足りない事の方が少なそうだ」

「自分の才能に自覚が無い」

「それが欠点か」
「なるほどね」
「嫌味な奴」

「お前は余計な事するなよ?」

「するさ」
「会話してみたい」
「段取り決めとかない?」

「はー、しょうがない」
「なら…………」

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