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《生き続ける文化財》『上賀茂やすらい花』と世界遺産『上賀茂神社』

文・写真:京都市文化観光資源保護財団アドバイザー 松田彰

平安時代に起源をもつと伝えられる「やすらい花」。いまも京都市内の4地区で伝承されており、2022年11月には「風流踊」の一つとしてユネスコ無形文化遺産に登録されました。また、鞍馬火祭、太秦牛祭(現在休止中)とともに京都の三大奇祭に数えられています。

今回ご紹介する『上賀茂やすらい花』は葵祭と同じ毎年5月15日に行われていますが、他の3つ(今宮やすらい花、川上やすらい花、玄武やすらい花)は4月第2日曜に行われています。
昨年(2023年)の葵祭は天候不順のため順延となりましたが、上賀茂やすらい花は予定通り実施されました。あいにくの小雨ではありましたが、子供の健やかな成長と地域の人々の厄除けを祈願する祭の一行が、上賀茂地域を練り歩きました。それでは祭の一行とともに、大田神社や世界遺産『上賀茂神社』周辺を巡りましょう。

上賀茂やすらい祭

2023年5月15日、『上賀茂やすらい花』が4年ぶりに実施されました。上賀茂やすらい花は、北区の上賀茂岡本町・梅ケ辻町地区の住民による「上賀茂やすらい踊保存会」が中心になって保存継承しています。

出発地点の上賀茂の岡本やすらい堂には朝から人が集まり、装束を着たおよそ50人の人たちが午前11時に出発しました。花を飾った大ぶりの花傘「風流傘」をおしたて、「鬼」に扮した踊り手や「カンコ」という二人の子供、そして歌い手などの一行が、「いんやすらいや花や 今年の花はよう咲いた花や」と歌いながら地域をまわりました。この地域で古くからある大田神社で踊りを奉納し、明神川の流れる上賀茂地域を練り歩いて上賀茂神社に向かいました。上賀茂神社では、今宮神社に向かって遥拝した後、「シャグマ」と呼ばれる茶色のかつらと赤い装束を身につけた「鬼」が、かねや太鼓を鳴らして踊りを奉納しました。

岡本やすらい堂の前で踊るやすらい花の一行

やすらい花は、春の花が飛散する時、悪霊や疫神も飛び散って人々を悩ませるという言い伝えから、疫神を鎮めるために行われるようになったもので、稲の花が早く飛び散らないようにという農耕の予祝行事の意味あいも加わったとされています。そして花傘の中に入るとその年の疫をまぬがれると信じられているのです。

明神川に沿って練り歩くやすらい花の一行

大田神社

上賀茂神社の東約600メートルにある大田神社は、賀茂社造営以前からあるといわれる古社で、927(延長5)年成立の延喜式神名帳にも記載されている神社です。恩多社(おんたしゃ)ともいわれ、上賀茂神社の境外摂社であり、本殿・拝殿は1628(寛永5)年に造り替えられました。大田神社参道東側にある大田ノ沢にはカキツバタの群生があり、5月には濃紫色の花を沢一面に咲かせます。このカキツバタ群落は国の天然記念物です。

大田神社、写真の右側が大田ノ沢
大田ノ沢のカキツバタ群生

世界遺産『上賀茂神社』

この機会に、上賀茂神社が世界遺産「古都京都の文化財」の構成資産としてどのように登録されているのか見ておきましょう。
上賀茂神社は、国宝の本殿、権殿をはじめとする36の国指定文化財で構成されています。創建は古く7世紀末には有力神社となり、平安時代以降は国家鎮護の神社として朝廷の崇敬を集め、11世紀初頭までに現在に近い姿に整えられました。17世紀初頭には衰微しましたが、1628年に再興。再興後の本殿は17~19世紀にかけて7回の造替が行われ、現在の本殿と権殿は1863年再建のものです。この二つの社殿は同じ形状で東西に並び、正面3間・側面2間、正面に向拝をつけた形式で、檜皮葺、切妻造平入の屋根を基本に、前方の流れを長くした“流造”となっています。正面右が本殿であり、左の権殿は式年遷宮斎行のときに仮の本殿となります。上賀茂神社の後方には神社の聖域となる神山(こうやま)があり、世界遺産区域にはこの山も含んでいるのです。

上賀茂地域を流れる明神川

境内には御手洗川(ならの小川)が流れ、そこで葵祭の斎王代御禊(さいおうだいみそぎ)が行われます。この川は、賀茂川の志久呂橋下流にある明神井堰(いせき)で取水し、上賀茂神社境内を南流したあと、明神川となって社家町を東に流れていきます。賀茂氏渡来以前からある集落と上賀茂神社造営とともに形成された社家町、そしてこれらの土地を潤す明神川のもとで、地域の祭として『上賀茂やすらい花』が営まれているのです。

【上賀茂神社周辺地図】出典:国土地理院ウェブサイト https://maps.gsi.go.jp/#16/35.060739/135.753883/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1  (地理院タイルを加工して作成)



参考文献
◇やすらい花《国指定文化財等データベース》
 <https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/302/101>
◇やすらい花《京都市歴史的風致維持向上計画(2期)》
 <https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000282/282388/2-2.pdf>
◇上賀茂やすらい祭《京都観光ナビ》
 <https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=4745>
◇賀茂別雷神社《国指定文化財等データベース》
・古都京都の文化財(構成資産:賀茂別雷神社)
 <https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/911/4>
・賀茂別雷神社 本殿、権殿(国宝)
 <https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1550>他
・賀茂別雷神社境内(史跡)
 <https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/401/1753>
◇賀茂別雷神社《公式サイト》
 <https://www.kamigamojinja.jp/>
◇大田神社《上賀茂神社公式サイト》
 <https://www.kamigamojinja.jp/shaden/oota/>
◇大田ノ沢のカキツバタ群落《国指定文化財等データベース》
 <https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/401/1694>


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