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映画「マトリックス」の電脳空間の外側を描いた弐瓶勉「BLAME!」を読んで迫りくる未来に備える


まえがき

さて、日本が生んだミラクル・弐瓶勉氏をついに語る時が来ました。
過去記事で多くのクリエーターを取り上げてきましたが、その中で、あえて弐瓶勉のことは書きませんでした。この方はちょっと次元の違うクリエーターです。と、私が勝手に思っていまして、どこかで弐瓶勉だけを語りたいと思っていました。
先の記事で映画「マトリックス」を取り上げましたので、比較するかたちで、語らせていただきたいと思います。


本文

これまでの記事で、巨大資本が、金融システム支配や情報システム支配などの社会インフラ支配の延長として、人類の直接意識支配を企んでいること語ってきました。

現代において、チョムスキーの「生成文法」が悪用され、ペンローズの「量子脳理論」を伴って解析が進む人間の「意識」という概念は、ボードリャールの「ハイパー現実」という概念と共に、映画「マトリックス」の大きな主題とされました。
簡単に説明すると、「人間の意識を支配し、ハイパー現実を見せて飼う」AIと、AIの支配から逃れた人々がネブカドネザルやザイオンで戦いながら最後には主人公が救世主として意識支配の構造を理解してAIに勝つという内容です。

映画「マトリックス」は、現代思想や現代科学の重要論点をテーマにしながら、ヒーローアクションてんこ盛りで、最後には主人公がAIを倒してしまいます。わたくしは、この映画の構図のわかりやすさ、倒すべき敵を明確に表現している点、宗教色を出しすぎとはいえ(欧米人が社会構造を克服するという意味でそれが必要だったのでしょうが)、ポスト構造主義という思想が生んだミラクルだと評価しています。欧米では、こういうテーマを素直に現実とリンクさせて影響を受ける方が多いので、このような構図は決して悪くないと思うのです。

アニメ「攻殻機動隊」は、日本においてはエンタメですが、欧米では、「実存」を電脳空間として描くものすごい発想力だ!となって思いっきり影響を受けてしまう人が続出してAIの研究者になってしまうのです。(AIの研究は最終的に意識の抽出と載せ替えを目指します。)欧米人はテーマを素直に理解して現実に取り込んでしまいます。お釈迦様の仏教思想など東洋思想が実存哲学に吸収され、現代思想や理論物理学にまで影響を与えていることも過去記事で説明しました。

現代において、実は、東洋の発想の多くが西洋の理論構築の土台になっているのです。日本では、ほとんどの人がこの事実を知りません。

私たちが認識している世界は、まさに記号として認識している電脳空間なわけで(実存哲学とソシュールの「記号論」)、攻殻機動隊で描かれた近未来は当時から非常にリアリティがあったわけです。実存という哲学的な論点が西欧においてテーマになる前に、そもそも東洋思想は直感的な現象把握によって実存のトリックを理解し、その幻想性をコントロールする手法を東洋思想として編み出してきたのです。みなさんがよく知る仏教の色即是空の概念がまさに実存です。西欧思想は今頃その概念がテーマなのです。

ただ、現代において、多くの日本人は、勧善懲悪モノを見ると、エンタメとして消化してしまう傾向にあると思います。特に、哲学を教えないので(東洋思想も当然教えないので)、マトリックスや攻殻機動隊の中の世界にリアリティを感じ取れる若手がいないのです。大学は勉強馬鹿を選んで入学させたうえで、哲学などリベラルアーツをしっかり教えないので、バカを飼いならしてるだけになって、専門バカを大量に市場に送り出してしまっています。勉強バカを専門バカに仕立て上げるという、とんでもないことをしているのですが、これはおそらく意図的なものでしょう。そして彼らが巨大資本の家畜エージェントとなって、さらに一般人含め自分たちの首をしてめている。それが今の日本の姿です。

このような日本はもう絶望的な状況かもしれません。
そこで、今回は絶望の未来を生き延びるヒントとなる作品を紹介したいと思います。

それが、弐瓶勉「BLAME!」です。

弐瓶勉「BLAME!」も映画「マトリックス」も、AIが支配する社会構造の外側にいる人々を描き出しています。
映画「マトリックス」は、ネブカドネザルがいる方の外側の世界を描き出して、現実の社会構造の理解を促し、戦え!とわたくしたちを啓蒙しています。実際、この映画も、シミュレーショニズムという社会構造を克服しようとする芸術運動の中から生まれました。
弐瓶勉「BLAME!」は、映画「マトリックス」とは違い、社会構造の外側にいる人々をメインにして虚無的な世界観を描き出しています。弐瓶勉「BLAME!」は、戦うことを読み手に強いることはなく、「攻殻機動隊」よりもさらに先の未来を描き出し、AIが支配する社会構造の外側の世界を、現実感を漂わせながら描き出しています。

映画「マトリックス」の中では、ネオがAIを倒す部分は象徴的な描かれ方をされています。ネオは、見せられている世界が記号(数値)でしかないと悟り、ボードリャールが著書「シミュラークルとシミュレーション」で明らかにした社会構造を理解するのですが(記号により差異化された社会構造を理解するのですが)、映画監督は、それが、現実社会を克服する術だと伝えています。その部分には宗教的な意味が込められていて、欧米人向けの作品となっています(詳しくは過去記事へ)。つまり、アメリカのヒーローアクションにありがちな、奇跡的な勝利、という展開になっているのです。救世主が奇跡を起こすのです。

弐瓶勉「BLAME!」は、論理の飛躍をあるレベルに抑えながら(もちろんエンタメ性も十分に含ませながら)、非常に現実的な手続きにより、最終局面を描きだしています。この辺りは「攻殻機動隊」と非常によく似ています。十分に未来のことを描きだしているのに、恐ろしいほどのリアリティを感じさせるのです。ですので、おそらく、わたくしたちの中で巨大資本のトリック(実存という意味での電脳世界における記号操作)に気が付いている人々が、万が一、欧米が巨大資本やAIを倒せなかった場合に訪れるであろう世界において、AIの支配システムの外で生き延びようとするなら、この作品の世界観は参考になると思います。家畜として生きることを拒否した人々・支配から逃れた人々が生きる世界を主題として描いているのです。

それで、上橋菜穂子氏の作品を語った時もそうだったんですが、本当に素晴らしい作品の中身は語るべきではなく、読んでほしいと思います。なので、中身については語りません。(上橋菜穂子は歴史の隠蔽をテーマにした作家です。)

いくつか前の記事で、思想家とクリエーターがコラボすることの重要性を強調したのですが、日本のクリエーターが凄いのは、思想家と兼務していることです。クリエーターが同時に思想家でもあります。日本人が凄い!と言いたいわけではなく、上でも言及しましたが、東洋の価値観は、世界の構造を直感的に把握することに優れている可能性があります。欧米人は私たち東洋人をサルだと思っている様なのですが、ニーチェはルサンチマンの思想によって西欧の価値観こそひねくれた現実把握だと主張して、実は、その論理が西欧の現代思想までつながっています。
人類は数学的、科学的(意識的)に現実を把握しますが、動物は直感で世界を認識します。動物は数学や科学を持ちません。20世紀に、西欧の思想家が東洋思想や未開の地で生活している人々の方が実は正しいのではないか?と西欧合理主義を疑い始め(構造主義哲学)、最近ではやっぱりそうだったのではないか(ポスト構造主義哲学など)、と確信に至り始めています。だからこそ、西欧の既存の価値観(数学や科学の手法)を絶対的な価値観としてきた巨大資本が焦りだして、ついに、わたくしたちの意識を直接支配してしまおうと企てているわけです。巨大資本も焦っているのです。

そういう焦りが、最近世界で起きているもろもろのおかしな出来事に繋がっているのではないでしょうか。わたくしたちは、非常に不安定な時代へと突入した可能性があります。いろいろと準備をしておく必要があると思います。そのような観点から、映画「マトリックス」と弐瓶勉「BLAME!」は非常に示唆的な作品だと思います。映画やコミックなどフィクションを取り上げて飛躍しすぎだと思わないでほしいです。この世界は実存という意味ですでにフィクションであり、リスクマネジメントのポイントは最悪を予想することにあります。

以上です。


あとがき

弐瓶勉氏を語ると言いながら、作品の中身には敢えて踏み込みませんでした。私は弐瓶勉の作品は全部読みました。どれもこれも面白いものばかりです。読んでほしいのです。誰かにお勧めはある?と聞かれたときには、わたくしは必ず弐瓶勉と答えます。なかでもこの記事で紹介した「BLAME!」はスゴイ作品です。アニメ映画もありますが、コミックで読んでいただきたいです。アニメ映画はコミックを読んだ後で見てください。

わたくしは、いつも、陰謀論にならないように、巨大資本が本当にやっかいな相手だということを語っています。巨大資本は単なる悪者ではありません。人類が生まれ、農耕牧畜が生まれ、貨幣経済が浸透し資本主義が生まれ、必然的に巨大資本や科学が生まれ、そして現在に至っています。必然という流れのなかで、わたくしたちが、この必然にどう抗うのか、または、必然の流れのなかでどう克服してゆけるのか、ということを考える必要があると思います。

過去記事でも語りましたが、一人一人が難しいことを考える必要はないと思います。シンプルに質素に楽しく人生を生きる、という観点から、現代の大量消費社会を問い直す、ということから始めてみることです。まずやるべきは、日本食に切り替えることでしょう。梅干しや納豆を食べて、味噌汁を飲んでください。わたくしはそのような生活を実践していますが、最近、鮭や鯖がこんなにも美味しかったのかと驚かされます。しかしその鯖もゲノム編集され市場に流通される日が近いそうです。本当に最悪です。現代科学が一体何を手に入れてきたのか?答えは明白です。多くのモノを失っただけです。

この記事を読む上で参考になる過去記事を下に貼っておきます。興味がある方はご覧ください。

2022.10.29