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平熱39℃ #7 愛が燦々2023。

今日はちょっとした用事があり、家の近所の十字路で人を待っていた。

住宅街にある遊歩道の十字路で、ぼちぼち車や人が通る道だ。そこに立っていると、ふわふわ〜とおばあちゃんが寄ってきた。


このおばあちゃんはご近所では大体の人が知っている認知症のおばあちゃんだ。優しい顔立ちと話し方、無類の子ども好きで、とても気さくな方なのだが、如何せん下校時の児童に誰彼構わず声をかけるので要注意人物となってしまっている。

私も何度か仕事帰りに見かけては、すれ違い様に「こーーんにちは〜!!!」って、全力錦鯉で挨拶して貰ったりしている。

そのおばあちゃんが十字路に立ち止まってる私を見つけふわふわ寄ってきて「先生、お仕事ご苦労様です〜」って話しかけてきた。

先生でもお仕事でも無いですよーと挨拶しながら返事したけど、おばあちゃんには今日は私は先生に見えてるようで、そのまま先生と呼ばれながら話が始まった。

おばあちゃんはいつもテンションが高く、いつもウキウキしている。
今日ももう少ししたら子供たちが帰ってくるから楽しみなの〜!かわいくてたまらないの〜!と。
そのウキウキが今日はいつもの2,3倍増しだったようで、突然「ねぇ、先生は何の歌が好き?ねぇ何か歌ってよー!」とおねだりされたのだ。

いや…ごめんなさい、先生はストリートミュージシャンじゃないので路上で急には歌えないよ…

ゴニョゴニョ誤魔化しながら歌わない方向で会話をしてたのだが、「ねぇ〜何か歌って〜〜」とおねだりが続くので「うーん、、私は歌は苦手で…何か得意な歌ありますか?」と返すと、おばあちゃんの瞳がギン!っと輝いて「愛燦燦とかかな〜、先生は知ってる?」と言うや否やおばあちゃんリサイタルが急遽開催されたのだ。


♪雨〜 潸々と〜 この身に〜落ちて〜


おばあちゃんは御嬢を降臨させて、身振り手振りしながら熱唱している。

♪人はかわいい かわいいものですね〜

の所で、私の頬を撫でるかのような仕草までしだした。私はその場を一歩も動けずにいた。最初にもお伝えしたが、ぼちぼち人通りのある遊歩道。
横を通り過ぎる人や自転車、車からの視線を完全に遮断し、私は出来るだけ透明化した。


しかしおばあちゃんはお世辞抜きでとても歌が上手だった。ビブラートなんかもかけちゃって、好きだから何となく歌ったってレベルじゃなかった。絶対めっちゃ練習してて完全に十八番だった。これは最初から歌う気だった。


♪人生ってぇえ〜嬉しいものですね〜と歌うおばあちゃんは今幸せの中に生きてて、愛燦燦を体現しているようだった。
歌い終わったおばあちゃんに小さな拍手を送って「お上手ですねー!」と言うと、

「この歌が好きだからたまたまデイサービスのカラオケ大会で歌ったら優勝しちゃったのよ〜!」
と嬉しそうに言って、


♪雨 潸々と〜


二周目の愛が燦々と注がれたのでした。


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