草履が片方落ちた。ぽちゃんと溝フタの暗い穴の中へ。町がだいだい色の灯りに浮かぶ祭りの夜のことだった。側溝の黒い穴には絶望しかなかった。半ベソの幼児に母も困ったことだろう。誰かが竹ひごですくいとって渡してくれた。私は死の淵から生きかえったような気持ちがして世界の光はまた動き出した。

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