USJ論争に見る公序良俗と規制

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)が来園者に向けてTwitterでこんな呼びかけを行っている。

ハロウィン期間ということもあり、露出の多い仮装写真をInstagramにアップロードしていたアカウントがあったようです。そして、それを見た一部の人々から「公序良俗に反する」「露出が過度過ぎる」といった声が上がり、このTwitterでの告知対応をした、という流れのようです。

もともと、USJでは下記のような告知をしており、確かにそこには「公序良俗に反しない」「過度な露出をしない」といった文言があります。

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こういった告知に反するのではないか、という声が盛り上がり、このInstagramにアップロードした女性を叩く声も散見され、ちょっと過剰な反応が見受けられました。一方で、それを擁護する声もあり、「法律に違反していない」といった反論も出ています。

そういった声に対する感想も添えつつ、この騒ぎがUSJのような公共性のあるパークに対してどのような影響を与えるのか、少し考えてみました。

簡単な時系列

まず、簡単に時系列的に並べます。

1.もともとUSJは「公序良俗に反しない」という告知を出していた
2.コスプレイヤーは上着を羽織って入園した
3.コスプレイヤーは上着を脱ぎ、園内クルーに写真を撮ってもらった
4.コスプレイヤーがInstagramに投稿
5.世間の一部が騒ぐ
6.USJが今回の件についてはNOのコメント

公序良俗とは?

さて、もともとUSJは「公序良俗に反しない」という告知を出していました。この、「公序良俗」というのは、ボクの考えだと「時節によっても変わるもの」だと思っています。そういう意味では、ルールとか、法律とも少し異なり、TPOという言葉が適切なのかもしれません。

おそらく「公序良俗に反しない」というのは、時代や自説の変化も踏まえた場の空気を読む、というアバウトなものを指す言葉なのだと思います。
しかし、それだとわかりにくいので、ちょっと例を挙げてみます。

例:安倍元首相を殺害した山上容疑者のコスプレ

安倍信者の人からすると許しがたい例かもしれませんが、7月に銃弾に倒れた安倍晋三元首相。それを実行した山上容疑者。この「山上容疑者」のコスプレは、USJの「公序良俗に反する」に該当するでしょうか?

これも人によって意見が分かれると思いますが、ボクは該当すると思います。ただ、「10年後だったら?」「安倍さんと政治信条が違う人は?」と条件を付けると、この答えは変わってくるかもしれません。
ただ、仮にUSJが「山上容疑者のコスプレは公序良俗に反する」と最終的に判断するとして、これを事前に書くことはできません。重要なのはまさにこの点で、時節や信条の変化の違いで世の中の受け止め方が変わるようなものを列挙できないからこそ、「公序良俗に反する」という言葉が使われるのではないでしょうか。

そして、この「山上容疑者のコスプレは公序良俗に反する」とした場合、これは「法律に違反はしていない」ことも、また確かです。すごいおぼろげなものですが、「公序良俗」というのが法でもなく、ルールでもないことがわかります。

「公序良俗に反する」と「法律」

さて、実際に上着を羽織って入園し、撮影したコスプレイヤーさんの行為は何が問題なのでしょうか?
実際に、コスプレをしていた彼女たちが法律違反(例えばわいせつ物陳列罪や、軽犯罪法違反)に該当するかどうかは法律の専門家に判断してもらうしかありません。まあ、ボクは引っかからないんじゃないかと思いますが。

一方で「公序良俗に反する」というUSJの告知に対してはどうでしょう。
この時点で、「公序良俗に反しない」と判断するのはUSJのスタッフが下すことなので、難しいですね。しかし、先ほどの「公序良俗に反しない」とは何かという観点から言えば「法律に違反していない」という反論は成り立たないでしょう。

もっと深読みすると、USJの「公序良俗に反しないでほしい」という告知を完全に無視する形になっていると思います。実は、この論争が炎上する一番の理由は、この「法律に違反していないからいい」という反論が「USJの公序良俗に反しない」という告知に合致していないことが大きな要因になっている気がしますね。

園内クルーが写真を取ったらOKなのか?

一部に「クルーが写真撮影をしたのだからUSJが許可したのと同じ」という声もありますね。この声に、ボクは賛成しません。
なぜなら、時給いくらで雇われているのかしらないが、バイトや派遣のクルーがUSJの「公序良俗を判断する責任」を負って仕事をしているわけじゃないですよね。いやいや、ボクなら時給で働くなんてゴメンこうむるw

クルーだってそんな責務を負って派遣契約をしているわけじゃない。気がついたら報告しろとは言われているだろうが、よいか悪いか判断しろ、なんて契約書には書いてないと思います。
むしろ、USJというイベントパークではそのくらい「曖昧」だからこそ、新しいファッションが生まれたり、自然発生的なイベントが生まれ、それはパークとしても歓迎するんじゃないですかね。

公序良俗に反した、というUSJの判断

この騒動を受けて、USJは以下のようなコメントを出している。

「同じようなことをする方が増えてしまうといけないので、注意喚起した。コスプレは凝りだすと、楽しむあまりに露出が多くなる傾向がある。節度を持って楽しんでいただきたい」
「反響に驚いたと思う。大切なゲストであり、これ以上センセーショナルにする気はない」

現在の状況は、完全にUSJの希望に反した状況なのだが・・・w
最終的にUSJはインスタグラムに投稿したコスプレイヤーの服装にはNOという見解のようだ。しかし、この判断はルールでも法律でもない、「公序良俗に反しない」という基準を示したにすぎず、彼女たちがバッシングされるいわれはないと思う。

なぜなら、先ほども書いたように「公序良俗に反しない」とは時節や時代を踏まえたアバウトな指針だからだ。それに反するかどうかは最終的にはUSJに判断される以上、それこそ「曖昧な文化の中で摺合せされる」ものだと解釈したほうがいいのではないだろうか。

「公序良俗」という曖昧性の文化

明確にルールがないという反論もあるだろうが、むしろ時節や時代を踏まえて寛容性があるとボクは捉えている。だからこそ、法律やルールでもなく、ダメだと思う人がそれとなく声を上げたり、あるいはUSJ側にどこまで許容されるのか聞いてみたり、といったコミュニケーションが大事なのだと思う。

自由を訴えると、不自由がやってくる

最後に、この問題をUSJ側から考えてみたい。
今回、USJはあの仮装に対してNOという判断を出したが、「これ以上センセーショナルにする気はない」とも明確に言っている。「あれは下着だ」とUSJに「強い抗議」をしたり「コスプレイヤーを叩く行為」もあってUSJとしては「そろそろ言っとくか」と反応したのだろう。

一方で、USJとしては「公序良俗に反しない」という時代や自説を加味して曖昧にしていたのに、「あれは下着だ!」という声にやむなく対応したわけだ。「これ以上センセーショナルにする気はない」というのも、これ以上炎上して規約にしなくっちゃいけない状況は避けたかったのではないだろうか。

そこにきて、「いや、そうじゃない」という意見が双方から出れば、結論を出さなくてはいけなくなる。コスプレの性質や露出の自由を、今回の件に絡めて訴えれば訴えるほど、「曖昧な文化」は消えて「明確な規制をする文化」が生まれてしまう。

自由を訴えた結果、不自由がやってくるのだ。

USJはUSJのものであり、その判断を尊重するべきでしょう。
その判断とは「公序良俗に反しない」という曖昧性の文化を理解し、「反響に驚いたと思う。大切なゲストであり、これ以上センセーショナルにする気はない」というUSJ広報の思いを拾うことではないでしょうか。

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