塩村あやかで振り返るAV新法

ちょっとセンセーショナルなタイトルをつけてみましたが、塩村議員ほど多数の発信をしている議員がいません。そこで、彼女の過去の発言から、
・なぜAV新法が法案化されたのか?
・塩村議員は嘘をついていたのか?
最終的には
・立法における業務プロセスの整理や、業界の整理の必要性
を「読者の方にも」理解していただけたらと思って書いています。

全年齢に適用したのは誰か?

これに関しては、先行して検討していた自公のメンバーが内閣法制局との審議をする中で「成人年齢が引き下がっているのに、18歳・19歳のみに適用することは難しい」と判断した結果と思われます。
下に貼ったツイートのように、塩村さんは「18歳・19歳のみに適用」と考えていたようですが、法的には無理だと解釈するべきでしょう。
また、それを理解した上で自民党案に立憲民主党案を持ち込んで超党派になった以上、この主張は立法する上では成立しないと思います。

表現や職業を規制するつもりはなかった

これも結構重要な点です。
適正AV業界側はじめ、「おれらの業界には強要はない」と信じる人からすると、「契約の義務化」と「その内容」自体が適正AV業界に対する締め付けだと感じると思います。
実際に自分もそう考えましたが、一方で彼女の目線は「性的動画の被害者全般」を見ています。これにより、できることが増えたのも事実です。「どれほど有効になるか」はこれからの活動次第ですが、「メリットになる部分があること」は忘れるべきではないでしょう。

統制と契約がなぜ厳しくなったのか

では、なぜ統制と契約は「適正AV業界以上に」厳しくなったのでしょうか。そこには二つの原因があると思います。
一つは、塩村議員が「統制によって被害を完全に撲滅できると思っているのではないか」ということ。二つ目は「実際にきびしくしたつもりはないのでは」と思われること、です。

一つ目ですが、塩村議員の言い分では「被害が確認されている」と、統制で100%被害をなくそうと思っているように思われます。これはAV新法でもできないわけですが、この当時、「適正AVの取組において被害が確認されているということが決定打」だとも言っています。

一方で、この被害に関する情報も議事録も一切公表されることがありませんので、塩村議員の発言が事実なのか、実際に何件あったのかを確認することはできません。ただ、この一連の流れでやり玉に挙がった河合さんは、後日このような記事をゲンダイに寄稿しています。

「腕力は使わないが言葉巧みに意に反して撮影」までいったケースは一定数(1%程度)あるとみるが、そのような作品が継続して配信販売されていることはない。

業務統制というのは、100%問題が起きない統制を作ることはできないと言われています。むしろ、「万が一の時にトレースできる仕組み」を構築することが常識になっています。AV新法も「被害があったら取り消せる」ことを念頭に入れています。
先日、公開した適正AV業界のプロセスを見てもらっても、トレースに関してもかなりの配慮がされていることがわかります。

そして自信満々の山口弁護士(AV人権倫理機構の理事でもある)

塩村議員の言うように、もし被害があったとしても、積極的にトレースをして、問題をあぶりだすことができるのかどうかを検証するのがAV人権倫理機構の構築した統制です。問題があったからと「統制プロセス」を否定するのは、統制の常識から言ってありえません。この点、塩村議員の発言には納得ができません。

そもそも、AV人権倫理機構は「AV業界の統制の監督者」です。
被害者団体や塩村議員は、積極的にAV人権倫理機構へ情報を共有し、「適正AV業界の仕組みの中で、改善していく」のが本筋であって、今回のように「やっぱり被害があるじゃないか」というのは、全く統制の論理からは外れていると言わざるを得ません。

しかし、一方でこうも言っています。

つまり、契約書含めて丁寧に対応できる適正AVに寄っていくということ。政策公表者の質の担保になる法案。

これ、現在のAV新法からすると、明らかに矛盾しています。
塩村議員の発言からは、「塩村議員は適正AV以上に規制する必要性を感じていない」ように思えるのですが、実際には「適正AV以上に規制された」わけです。この矛盾はどこから来るのでしょう。

そこで、AV人権倫理機構の、契約に関する規則を見てみます。

第7条 契 約
団体等間における個別の契約については、AV出演者等の自己決定権に配慮されて作られた本機構が定めた共通契約書を使用し、撮影時より相当期間前に、それをもって契約をすることとする。なお、契約を交わした際には、必ずそれぞれの当事者に締結した契約書を手交し、当事者はその当該契約書を保管する義務を負う。メーカーやプロダクションは、出演者から契約書の写しの交付を求められた場合には、これに応じなくてはならない。

これを見ると、AV人権倫理機構の文章からは「適正AVでは、事前に契約書を巻いている」そして「契約日は撮影日以前」ように思えます。しかし、実際には契約書は電子での取り交わしを事前に行い、当日契約書に捺印と同意書を取り交わし撮影を行う段取りになっています。AV人権倫理機構の手法は、契約慣習上、問題ないですし多くの業界でも取り入れているやり方ですが、おそらくこれを理解していなかったんじゃないでしょうか?

やはり「ルールを守る人たちは当事者」であり、彼らの実情を知ることは重要だったということでしょうね・・・。

AV新法推進者はいったい誰に話を聞いたのか?

さて、どう考えても実務者に話を聞くべきであり、彼女が何と言おうと「実務レベルの問題を潰せるほど話を聞いていなかった」ことは明らかです。
いったい、誰にヒアリングを行ったのか、は不明な点が多いです。
塩村さんの発言を見ても、AV人権倫理機構にはヒアリングを行っているようですが、事業者と言える人に話を聞いたのかは不明です。

オープンになっている情報をかき集めてみましたが、彼女が「当事者」という「被害者団体」の話は聞いていますが、AV事業者側には聞いていません。

この時点で、彼女の頭の中では「AV人権倫理機構がAV事業者の代表」と位置付けていたのでしょう。あるいは、現在「ヒアリングされていない」と声を上げていない別のどこか、からヒアリングをしていたのか、どちらかです。そもそも、彼女が実際にAV人権倫理機構と公式に、あるいは内々に議論をしていたとは思えません。
気になるのは後者の方で、確かにプロダクションやAV女優の方にはヒアリングしていないのでしょうが「AV業界に聞いていないのか」という点で、彼女の言っていることは事実の可能性があります(だからといって、それでいいのか、とは思うわけですが)

AV新法vsAV禁止派の戦い

AV新法への反対者は、実はAV業界のプロダクションやAV女優だけではありません。こちらは、AV新法を取り巻く環境ですが、AV新法には「AV禁止」「本番行為禁止」を要求する「別の反対派」が存在します。
郡司真子さん、仁藤夢乃さんのような反対活動家。
また、堤かなめ議員、柚木道義議員のような議員にもいます。

塩村議員は徹底してこの反対派をけん制してきました。
下記のツイートで言う「反対派」とは、このようなAV禁止・本番禁止派のことですね。彼女の中には立憲主義といった発想があり、その基準からするとAV業界自体を法案にて規制することはできない、と明言しています。

AV新法を覆そうとすると、「より強力なラスボス」が登場する可能性があります。このラスボスから塩村議員がAV業界を守ってくれていたことも、忘れないほうがいいでしょう。

次期改正でより強化する話

最後に、二年後と予定される改正で「より厳しくする」という発言については、正確に理解する必要があります。
一連の流れを見てもらえればわかりますが「今回の新法では被害者は救えない、作られてしまう」という声に対して、塩村議員は「だったらより強化するしかないですね」と答えています。
これは「適正AV業界への脅迫」というよりは、「新法で十分じゃないなら強化するしかない」という当たり前の理屈を言っているだけだと思います。この点で、「塩村議員が適正AV業界側を脅した」というのは誇張された表現のように思いますね。

結論

ここまで見てくると、塩村議員の発言は「適正AV業界の側からすると許容できるものではない」のですが、誤解・誤読の可能性とがあるのでは、と思います。あくまで可能性ですが。
また、ある面で彼女はAV業界を守った人間でもあります。
図式としては、そうなってます、ということなんですが。
彼女がこの理解通りの思考なのであれば、彼女自身が改正に進んで動いてくれる可能性はあると思います。あくまで、可能性の話です。

余談

このnoteを書いた際にも、「塩村あやかは東京都議会を批判してた時に、自分に都合よく事実を捻じ曲げていた事を知ってる」といった声をいただきました。同様に、伊藤弁護士に対しても、同様の指摘をいただきました。
正直、このnote以外にも何本か記事を書きましたが、その過程で塩村議員や伊藤弁護士に対するいろいろな感情も聞くことができました。しかし、その一方でエビデンスの収拾には限界がありました。

そして、エビデンスに基づく仮説以上のことを書くのは、二つの意味でためらわれました。

ひとつは、塩村議員や伊藤弁護士に対して、エビデンスの不足した記事を書くのはフェアではない、ということ。彼女たちには彼女たちの言い分があり、その立場に沿って立法プロセスにかかわってきたのです。それを無視し、十分なエビデンスもないままの批判は、誹謗中傷になりかねません。

もう一つ、こちらがより重いことですが、「AV新法をどうにかしよう=今のAV業界が受けている被害をどうにかしたい」という思いから、彼女たちの背景や過去を語ることは、AV新法本来の問題解決の「時間」を損なうのではないか、という点です。

その結論として、ボクは「今回の新法を可決するまでのプロセス」と「現在のAV業界を知ってもらう」ことに注力することにしました。
結果として、過去から塩村議員や伊藤弁護士を知っている人からすれば、「ぬるい」記事に映るかもしれません。しかし、何を重要視したのか、ということは伝わってほしいと思います。

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