数秘術の信憑性(1):カバラとゲマトリア
●西洋数秘術を応用した姓名判断
西洋の数秘術を日本人の名前に応用した技法があります。ここで使われる数秘術はユダヤの神秘思想「カバラ」(伝統の意)に由来するとされるもので、一般に「ゲマトリア」と呼ばれます。
名前のアルファベットを数字に変換して性格や運勢を占う方法ですが、この姓名判断は欧米では昔からあるようです。[注1]
●ゲマトリアの占い方
旧約聖書の時代にユダヤ人が話していた言葉はヘブライ語だったそうですが、このヘブライ語のアルファベット(アレフベート)は文字であると同時に数を表していました。そこで、単語の文字は数に変換できる、または数と等価であると考えられたのです。
これが人の名前にも応用され、その人の性格や天分を占う姓名判断として用いられるようになりました。ヘブライ語と英語のアルファベットをそれぞれ対応づけてやれば、英語つづりの名前なら数に変換できるわけです。
具体的には、名前の各文字が表わす数の総和を出します。もし二桁以上になったら、さらに各桁の数を足し合わせて、一桁の数になるまでこの操作を繰り返します。最後に残った数が、この名前の持ち主に関する何事かを示しているというのです。[注2]
●ゲマトリアの歴史
ゲマトリアがカバラ思想で使用されるようになったのは、早くても2~3世紀以降とされています。カバラ思想には、「ある単語の数値の合計が別の単語のそれと等しいとき、それぞれは対応関係にある」とする考え方があります。そこで聖書解釈などにゲマトリアが利用されました。
聖典に書かれている単語を別の単語に置き換え、隠されたメッセージを読み解くのです。一種の暗号解読法といえますが、瞑想を伴った文字の置き換えで神との合一を目指すなど、カバラ思想でのゲマトリアは、本来、宗教的な用途だったようです。[*1-4] [注3-4]
この特殊な瞑想法を実践したある神秘家によれば、修行をはじめて3ヶ月たった頃、ロウソクの炎が自分について回るという奇妙な現象が起きたそうです。それから1週間以上して、今度は文字が目の前で大きな山のようになり、自らは激しい震えに襲われ、髪の毛が逆立って、正気を保っているのも困難になりました。[*4]
さらに数日後、とうとう神とのコンタクトに成功し、えもいわれぬ歓び、いわゆる法悦を体験したのです。これが気のせいで無いとすれば、かなり強力な瞑想法のようです。
●ゲマトリアのふたつの問題
ゲマトリアを試みる際、どの変換システムを使って文字を数に変換するかが、まず問題になります。現在、代表的な二つの変換システムがあり、それぞれヘブライ・システム、モダン・システムと呼ばれています。使用するシステムによって、結果は当然違ってきます。[*5]
たとえば、「神田うの」さんなら「KANDA UNO」で、ヘブライ・システムでは「2+1+5+4+1+6+5+7= 31 ⇒ 3+1=4」ですが、モダン・システムを使うと、「2+1+5+4+1+3+5+6= 27 ⇒ 2+7=9」となります。
使うシステムに関係なく、4は実際的で堅実な性格を、9は理想家で情熱的な性格を、それぞれ表すとされます。(テキストにより異なる)
数値変換システムが二つだけなら話は簡単ですが、『数秘術』(ジョン・キング著)にはもっとたくさん紹介されています。著者独自のものも含めると、別に5種類が追加されるのです。
しかも、これらは変換システムの「試みの幾つかの例」でしかなく、「どれ一つとして完全に満足なものではない」と、この著者は明言しています。[*6]
また、伊泉龍一氏も『数秘術の世界』の中で、現代では使われなくなったシステムも含め、40種以上に言及しています。「こういったさまざまなシステムのうち、どれを使うかによってヌメロロジー〔数秘術〕の占いの結果に大きな違いが出てきてしまう」そうです。[*7]
●「姓名判断的に正しいローマ字変換方式」ってなんだ?
さらに、日本人にはもっと切実な問題があります。そもそも日本人は名前にアルファベットを使用していません。文字を数値に変換する前に、名前の読みをアルファベットに書き換えなければならないのです。これが二つ目の問題です。
ローマ字変換にはいくつかの方式がありますが、これもどれを使うかによって結果が変わってきます。たとえば、町田さんなら「MACHIDA」とするか、「MATIDA」とするか。大野さんは「ONO」か、それとも「OHNO」か。99式という方式では「OONO」になるそうです。
姓名判断的に意味をもつローマ字変換方式はどれか? この問題も占い師の見解を聞いているだけでは、はっきりしません。そこでローマ字の歴史を調べてみたのですが、これが結構 奥が深いのです。要約すると、だいたい次のようになります。(つづく)
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