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発掘!「現代の姓名判断」の起源(1)

●「忘れられた元祖」を求めて

ここまでの調査結果を簡単に整理しておきましょう。「数霊法」(名前の字画数を合計して、その数で運勢を占う方法)は現代の姓名判断で用いられる代表的な技法ですが、その起源について以下のことがわかりました。

① 古代中国発祥とする説は誤りで、実は明治中期に日本で作られたこと。

② 「数霊法」について書かれた、現時点で確認できる最も古い資料は、菊池准一郎氏の『古今諸名家 姓名善悪論 初編』(明治26年3月)であること。

③ 明治末期から大正期にかけて大量の姓名判断書が現れ、多くの占い師が自分を元祖と主張し、あるいはほのめかしたが、どれも先行する誰かの著書のパクリであったこと。

④ 「元祖」の最有力候補は菊池准一郎氏であり、彼の『古今諸名家 姓名善悪論 初編』こそ、後に書かれるすべての姓名判断書の起源らしいこと。

⑤ そして、菊池准一郎氏をはじめ、創成期に関わった海老名復一郎、佐々木盛夫、小関金山、高階鏡郭の各氏の著作の中に、その後の占い師たちが誰の著書をコピーしていったか解き明かすヒントが隠されていること。

①~③は『「姓名判断は中国四千年の歴史」は本当か?』と『「姓名判断は我が国百年の歴史」が本当だ(1~6)』で見てきたとおりです。ここでは④~⑤について、さらに詳しく調べてみたいと思います。

なお、明治・大正期に出版された姓名判断書には、私が確認した以外にも存在する(した)可能性があります。ですが、このあとの展開を見てもらうと分かるように、「忘れられた元祖探し」パズルは、⑤に列記した人々だけでも完結するようです。

●「元祖」の最有力候補、菊池准一郎氏の主張

『古今諸名家 姓名善悪論 初編』(菊池准一郎著、明治26年〔1893年〕)の緒言には、「これは私が各種の占術をもとにして発明した新説である。開明の世とはいえ、中国人はもちろん、西洋の研究家も、未だかつて、このような原理を説いたものはないだろう」と書かれています。[*1]

この『初編』を出版した時点で、すでに『続編』の構想があったようですが、実際に『続編』が書かれたのは、20年も後のことでした。『続編』の緒言および本文中には、およそ次のように記されています。

私は明治26年3月に『古今諸名家 姓名善悪論 初編』を公にした。すぐに続編を出版するつもりだったが、同年5月から諸国を遊歴して年月が過ぎ、続編の出版を疎かにしていた。

ところが、現在、姓名の善悪をいう者が東京の各所に出現し、先に私が著した姓名善悪論に類似した種々の姓名説を世に公にしている。

姓名に関しては、私が自序の中で書いたとおり、未だかつて、姓名に乾坤●○を付け、文字の画数を組合せて、吉凶を説いた者はいない。これは私の発明であり、人生必須の新学説である。

私が『初編』を出版する以前は、姓名に関する書籍といえば、単に何年生まれの者は五行(木性、火性、土性、金性、水性)の何性に当たるから、金性の漢字と相性が良いとか、水性の漢字と相性が良いとか、そうした善悪をいうばかりだった。[注1-2]

ただ、文化6年に高井寛思明かんしめいという人が、〔漢字に〕丁寧に五行を区別して印を付け、文字の画数をも調べて、生まれの性〔五行〕に符合させるようにした、実用的な選名書がある。この書は私も若い頃から所持し、今も用いているが、このような書籍はこれ以外に見たことがない。

ところが現在では、私が著した『古今諸名家 姓名善悪論 初編』に類似した書籍が大量に出回っているが、羊頭狗肉が多いのは心配だ。読者はくれぐれも玉石を混同しないように。

『古今諸名家 姓名善悪論 全』 (菊池一郎著)[*2]

「元祖」を主張する人やほのめかす人は何人もいますが、菊池氏のように、具体的に技法を明示して自身の創案を主張する人は、他に見当たりません。[注3]

これに対し、同業者たちが無視を決め込んだのは、すでに書いたとおりです。黙殺とは不気味ですが、論争しても勝ち目がない場合、有効な手段ではあります。

===========<参考文献>==========
[*1] 『古今諸名家 姓名善悪論 初編』 (菊池一郎著、天命堂、1893年)
[*2] 『古今諸名家姓名善悪論 全』(菊池一郎著、帝国出版協会、1914年)

===========<注記>==========
[注1] 生まれ年の五行と名前の五行の相生相剋で吉凶判断する占い
 これは江戸時代から庶民の間でポピュラーな占いだった。
 詳しくはこちら⇒『技法の信憑性(3):五気(五行)』の[注9]

[注2] 新しい姓名判断の出現
 菊池氏がこの新しい姓名判断を創案・紹介してから約20年後、第一次の姓名判断ブームがやってくる。明治末期~大正初期のことである。この時期の盛況ぶりは『姓名学顧問』(選名研究会編纂、大正2年刊)に詳しい。
<参考>『「姓名判断は我が国百年の歴史」が本当だ(2)』の[注1] [注2]

[注3] 技法の発明経緯
 『初編』には、自分がどうして「数には吉凶がある」などというのか、そしてどんな経緯で名前に五行を付けて占う方法を思いついたか、およそ次のように書かれている。

「ちょっと人相図を描いて、私が数の吉凶をいう理由を示そう。これは鼻の図(下図の赤枠)であるが、鼻は財帛宮であり、人相の中では、一生の貧富を定める宮(部位)である。そして、鼻の付け根を「山根」というが、ここは財帛宮の入口に当たる。年齢の41歳は誰でもこの部位に位置する。

また、鼻先を「準」といい、その「準」の左右を「蘭台」「廷尉」または「金匱」「甲匱」というが、ここは財帛宮の終末(出口)に当たり、年齢の48、49、50歳がこの3ヶ所に位置する。人間の50歳は非常に重要な年齢である。
だから、41の数を大吉とし、また48、49、50の数を大吉とするのである。これ以外の数については省略するが、すべて私が新発明した説であるから、読者は多くの人の姓名で試し、数に吉凶があることを自身で確認なさい。

「ア-」と発音すれば「あ」の音、「イ-」と発音すれば「い」の音である。・・・〔文字は異なっても、発音は万国共通であるから、この原理は〕日本でも西洋でも異なることがない。このようなことから、私は人の姓名に五行〔木、火、土、金、水〕を付けて順逆を定め、そしてその人の善悪吉凶を鑑定する技法を発明したのである。」

 また、『続編』には、名前に●○を付けて占う方法を考案した際、あの易学の大家、根本通明氏にアドバイスを受けたことが書かれている。

「『古今諸名家 姓名善悪論 初編』を公にした際、先師の根本通明先生に種々学理をただし、このようにして姓名に●○を付け、それを易卦として吉凶を判断することとした。・・・」

『古今諸名家 姓名善悪論 初編』 (菊池一郎著)

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