唐突にオナニーして終わる文章

「安心って何?」
 終電間近の山手線の電車の中で、唐突に彼に尋ねられた。
 彼は酔っていた。見るからに疲れ切っていた。手首を引っ掻く癖のせいで皮膚が荒れている。今も神経質そうに落ち着きなく手元を動かしている。
 私は安心について少し考えようとしたが、自分も酔っていたのですぐにやめた。
「心が安らかなこと」
 目の前の景色を眺めるともなく眺める。その視線の動きには全く意味はない。ただ、前を見ていた。
「今は安心?」
 彼は動かしていた手を膝の上で組みながら私に尋ねた。
 私は無意識に大きな深呼吸をして(もしかすると溜息だと思われたかもしれない)、ゆっくりと答えた。
「わからない」
 その後は、彼も私も口を開かなかった。
 彼の降車駅に電車が着き「ここで乗り換えだから」と一言残して去っていった。
 
 変な人だな。と、常々感じていた。
 仕事はそれなりに出来る。人間関係も良好。後輩とも上司とも表面上は上手くやっているように見える。でも、変な人だった。
「安心って何?」
 彼は職場の新人歓迎会の飲み会の帰りに唐突に私に尋ねた。
 私は彼のその言葉の脈絡について考えていた。理由はなんとなく思い当たる。歓迎会の中での話題のことだろう。
「佐藤君に任せておけば安心だから」
「先輩に確認して貰ったら大丈夫でしょ」
 彼は少し重めのプロジェクトを回していた。実際に上手くいってるのかは私には分からないが、問題が起こっていない現状で上出来だと評価されている。
 そんな彼から唐突にLINEが届いた。同期として同じ部署に配属されてから4年ほど経っていた。以前のやりとりの履歴は思い出せないし、端末を変えたせいもあってか何も残っていなかった。
 届いたLINEは画像だった。本当に何の脈絡もない一枚の画像。彼は鏡の前に立っていた。スマホを顔の前に持って、一糸まとわずその姿を晒していた。

 画像を保存して、その画像を見ながら3回オナニーした。

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