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台風から遠く離れたところで降る大雨

台風に伴う暴風は中心に近いほど強いのが普通です。また高潮についても強い風による吹寄せ効果と気圧低下による吸い上げ効果が主な原因となります。暴風や高潮については、台風が近くを通過するかどうか、さらにその進行方向の右側に入るかどうかも多くの場合重要です。しかし、大雨については、もちろん中心付近に強い雨雲が集中しているのは確かですが、昨年の台風第19号の経験でもわかるように台風から離れていても大雨には警戒が必要です。さらに大雨については、台風から1000km以上離れた遠いところに降ることがあります。

2000年9月の東海豪雨がそうでした。当時の天気図と衛星画像を国立情報学研究所のデジタル台風のサイトhttp://www.digital-typhoon.org/から下記に掲載します。

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台風は沖縄近海にあり、日本付近は北の高気圧と太平洋高気圧との間の秋雨前線があります。このような中で、名古屋市で日雨量428ミリという記録的な大雨となりました。下記が名古屋市の降水量の時系列となります。https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/2000/20000908/20000908.html

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名古屋の過去130年の観測から日雨量の多い順に10位までその雨量を並べてみると下のグラフのようになります。2位から10位まで240ミリから175ミリまでどんぐりの背比べのように並んでいる中で、この1位の428ミリという雨量が飛び抜けていることがわかります。

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このような特異的な大雨、様々な条件が運悪く重なって発生する現象で、統計学的には例えば1000年に一度といった低頻度の現象とみなされます。このような特異的な大雨が発生した時に大きな災害になることは少なくありません。東海豪雨では、床上浸水が22000件を超え、東海道新幹線が5万人もの乗客を乗せたまま、多数の車両が一晩立ち往生してしまうという事態になりました。

このような台風からはるか遠く離れたところで降る大雨を米国では前方先駆的降雨現象(PRE)と名付けられて研究が進められています。台風がまだ遠い段階で避難行動など先の話と想定する中で本格的な大雨になること、そして台風や低気圧のように天気図に描かれるようなシステムではなく、数値予報でも予測が難しい現象でもあることから、防災上もなかなか対応が厄介な現象です。

さて、今の天気図と衛星画像を見てみましょう。オホーツク海高気圧が発達して、前線が関東南岸にまで南下しています。東北から関東にかけて、急に涼しくなり、南北の温度差がかなり大きい状況です。衛星画像では、沖縄近海の台風から東に伸びる雲の帯があり、これが台風の北上とともに北に移動してくる可能性があり、それが南北の温度差の大きな前線帯に重なるとどうなるのかな、とちょっと心配でもあります。杞憂に終わることを祈ります。

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PREについて、日本では系統的な研究があまり進んでいなかったようですが、修士過程の学生さんが再解析データと衛星による雨量データ、台風のベストトラックデータを使って系統的な研究に取り組んでいるようで、この研究の発展にも期待したいと思います。
https://cesd.aori.u-tokyo.ac.jp/satoh/labo/kodama/Kodama2020mthesis_abs.pdf

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