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伊勢湾台風以降の主な気象災害

1 はじめに


以前に、江戸時代以降の我が国の主な自然災害を筆者の独断と偏見で整理したものを伊勢湾台風までそれ以降について「過去の自然災害から学ぶ」として書きました。。このうち、伊勢湾台風以降の気象災害について、もう一度整理し直してみました。「過去を識り、今を理解し、未来を共に創る」、という趣旨のプロジェクトを推進しているので、気象災害についてもう少し系統的に過去の災害を整理しておこうというのが第一の目的です。
気象庁からは「気象庁が名称を定めた気象・地震・火山現象一覧」が公表されています。一部の気象予報士さんなどから、最近、この命名される災害が激増しているという意見を聞きます。実は、気象庁が気象災害について命名をあまりしっかりやっていなかった時期がありました。また、台風については、番号がついているから命名しなくても特定できるので、命名の必要はない、という運用もつい最近までありました。そんな事情があるので、この命名現象が急増しているから、実際に激しい現象が急増しているとは言えない面もあります。地球温暖化の進行に伴う災害の激化への警鐘という意味ではありがたい広報なのですが、やはり事実関係に根ざした説明をしていただくことが重要かと思います。

2 伊勢湾台風以降の昭和年代


まず、伊勢湾台風以降の昭和年代です。

この時期は犠牲者100人を超える災害がしばしば発生したことや豪雪災害が多かったということもわかります。以前の資料からは唯一の温帯低気圧現象として命名された昭和45年1月低気圧を追加したのと、昭和50年代以降の現象をいくつか追加しました。昭和63年7月豪雨は、気象庁の命名対象になっていないのと気象庁のHPの「災害をもたらした気象事例」にも入っていません。

3 平成以降


続いて平成以降です。
数が多いので、まず20世紀分と21世紀分を分けて表にしてあります。


こちらは、事例を多数追加しました。その基準として、もし、今年起きたとしたら命名されるだろうな、という規模が基本です。それと昨年の熱海市の土石流災害のように、自然現象としては命名されなかったとしても、災害対策施策に影響するような災害はなるべく入れるようにしました。
気象災害で犠牲者が100人を超えるような災害が以前に比べて減ってきていること、ただ、最近になってその頻度が増えていることがわかると思います。


4 気象庁側の事情と分析


青字の命名災害ですが、気象災害について、平成の前半には、平成5年8月豪雨(鹿児島では8・6水害などと呼ばれています)しか命名されていません。昭和の命名災害のリストを見ていると、犠牲者がざっと100名規模以上の災害で命名されていたという相場観があります。それに該当する災害がこの8・6水害しかないというのも背景にあったのかなと推測します。
このように命名があまり行われていなかった背景もあり、筆者が予報部の防災担当の調査官だった時期に、この気象災害の命名の基準を明確化しようという話が持ち上がりました。そこで、治水施設の進展に伴い、水害規模が昭和時代ほどではなかったことも踏まえて、
顕著な被害(損壊家屋等1,000棟程度以上または浸水家屋10,000棟程度以上の家屋被害、相当の人的被害、特異な気象現象による被害など)が発生した場合 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/meishou/meishou.html
という基準で命名しようということになりました。この基準を設けてまもなく、悪夢のような平成16年となり、新潟・福島豪雨、福井豪雨と立て続けに命名豪雨が発生しました。しかし、当時はまだ台風についての命名基準は決まっておらず、今であれば命名されるはずの4つの台風は命名されていません。23号台風については、100名近い犠牲者が出たこともあり、さすがにこれは命名すべきではないか、という議論もあったのですが、直後に発生した新潟県中越地震でそんな議論をしているどころではなくなって立ち消えになりました。ただ、風水害の犠牲者が100名という時代はもう過去のもの、というのが、社会の常識となりつつあった時代に、この規模の被害は当時の筆者としても衝撃を受けました。
その後、平成23年の台風第12号でも100名規模の犠牲者が出て、この時も命名についての議論が、紀伊半島の被災地からもありました。結局、気象庁は命名はしていませんが、紀伊半島大水害などの名称が広く使われています。その後、京阪神を第2室戸台風並みの勢力で直撃した平成30年の台風第21号がきっかけになったのかもしれませんが、台風についても命名基準が示されて、令和元年の15号、19号がそれぞれ命名されることになりました。
豪雪についても、38年1月豪雪以降、平成18年豪雪のみが命名されていますが、平成18年豪雪を超えるような豪雪年は他にもいくつもあります。38年1月豪雪の規模があまりに大きくて、その後命名に至らなかったのかなと想像します。
長々と述べてきましたが、過去の風水害については、気象庁の命名の有無にこだわらずに分析していくことが重要、という観点で整理してみたリストです。こうして眺めてみると、平成の前半にもそれなりに風水害が発生していたことがわかります。とは言え、平成後半からの、16年23号台風、23年12号台風、26年8月豪雨(広島土砂災害)、30年7月豪雨、そして令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨(球磨川流域)と昭和時代の大きな災害の規模に近いものが少なくないのは、やはり重要な事実だと思います。





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