見出し画像

ウィルソン山天文台 速報レポート (天文アウトリーチで巡る米国天文台調査の旅(1))

※注意※ 天文アウトリーチに関わる方の目線で書いています。

天文アウトリーチの文脈から見て、一言で表すと…《全方位死角なしのスーパー公開天文台》

口径2.5m フッカー望遠鏡 一般観望に供されている望遠鏡としては世界最大級


ウィルソン山天文台って?

・標高1700m、ロサンゼルス郊外に位置するウィルソン山山頂の天文台
・1904年、ヘール台長(G.E. Hale)が、Carnegie Institution of Washington(カーネギー財団)から出資を受けて開設した。出資は1904年から現在まで続く。
・設立当初はSolar Observatoryであり、後に望遠鏡が増えてウィルソン山天文台と呼称をあらためた。
・100年以上の歴史、天文学史に残る業績、財団や寄付に支えられた運営、840名もの濃いLAAS(Los Agngeles Astronomical Society)というサポーター、ジョージア大学と協働の干渉計を用いたリサーチ活動、全方位死角なしのスーパー公開天文台
・現地での公開業務はさすがの一言。短時間大人数の100インチツアー、長時間少人数の60インチツアー、10日間の学生向けプログラムや、1日にかけて体験するエンジニアツアーなど多岐にわたる
・講演も積極的に実施、月に数度の学校等へのアウトリーチ活動を継続
・グループやお金持ちによる一晩貸切も多いそうだ(バースデーパーティー、卒業パーティー、ウェディングパーティーなど)

ヘール望遠鏡の接眼部を説明するTimさん

調査の様子

・アウトリーチを取り仕切るTimさんの案内で、アウトリーチ活動への質問に答えまくりながら館内を練り歩くノンストップ4時間コース!!(休憩なし)
・TimさんはLAASの会長をつとめ、また別の天体写真関係のグループも主催するなど、LAの天文文化を語る上で外せない人物
・実際、彼のファンも多くいると思われる(その質問に、本人は肯定も否定もせずはにかんでいたが…)

フッカー望遠鏡の前に、1917年当時の木製コンソールや時計、ファインダーが現存する


100インチ(2.5m)フッカー望遠鏡

・100インチ(2.5m)フッカー望遠鏡。1917年完成、ファーストライト。現在の主鏡も当時のもの。
・現在は一般公開を主として運用中(観測用途にも使える)
・「一般の人が覗くことができる」望遠鏡としては、世界最大級。(毎週一般公開してる)
・20世紀最高の天体望遠鏡といっても過言ではない。
・フッカー望遠鏡のデータを用いて、ラッセルは(HR図、Hertzsprung-Russell diagram)を作った 
・ハッブルは、フッカー望遠鏡の観測をもとに、アンドロメダ銀河までの距離を測定した。
・ハッブルと助手のヒューメイソンは、宇宙膨張の証拠である赤方偏移の存在を発見した。
・公開スタイルは日本でもよくあるスタイルで、15名程度が入る→数天体見る→交代する
・ワンダーアイっぽいのぞき口だが、可動しないとのこと(回転のみ?)。適宜梯子に登って観察する。
・通常案内しない2F部分に、1917年当時のコンソールが現存している
・その横に、非常にシンプルな手動コントローラーが設置されている
・スペシャルなプライベートツアーのみの案内だが、実際に動かしてもらうこともするそうだ
・フッカー望遠鏡のドーム1Fには、貴重な資料が無骨に展示された小さなミュージアムがある。
・フッカー望遠鏡の主鏡をウマやロバで運んだ当時の木製ケースや、重りを利用した20世紀前半の自動追尾ユニット、アインシュタイン来台時ゆかりの品などが展示されている

フッカー望遠鏡接眼部 調査時はアートイベント開催中、ブルーライトで海の音が流れていた


60インチ、1.5mのヘール望遠鏡

・1908年ファーストライト、現在の主鏡も当時のもの
・分光分析、視差測定、星雲の写真観測、測光観測のサキガケとなった。
・もともとニュートン焦点で観測する望遠鏡だった、後にカセグレン焦点が追加された
・同じ人物にちなむ同名のヘール望遠鏡がパロマーにもあるので注意
・自動導入装置はなく、座標を測るエンコーダーのみ取り付けている
・一般公開を目的として運用中
・一般公開は25名程度、週末の日没~午前2時までと圧巻の5〜6時間に及ぶもの
・スタッフは基本2名で担当する
・飲食物の持ち込みもOKで、LAASの会員さんが主となって集まり、天文台内には幅5m奥行き2mほどの飲食物専用のテーブルがあった(電子レンジやウォーターサーバーもあり)
・観望会というより、身内のパーティー感が強い(さすがアメリカ)

・オンラインの取り組み、電子観望の取り組みは、施設全体でほぼ皆無に等しい
・そもそも天文台の公開部分に「ディスプレイがない」
・パンデミックが終わり、リアルの活動に再度力を入れているとのこと。

パロマー天文台建設予定地の夜空の評価に使った20世紀初頭の望遠鏡(フッカー望遠鏡ドーム1Fのミニミュージアム)


エピソード

・自然災害リスクとしては、山火事が挙げられる
・施設直前の森まで炎が迫り、特に2019年の火事はとても厳しいものだった
・この山火事はコロナのパンデミックと重なり、1年半に及ぶ閉鎖期間を強いられた
・一部賃料を除いて資金獲得の目処が立たず、アウトリーチ活動は窮地に立たされた
・しかし大口の寄付が集まり難を逃れた(Timさんのご友人が亡くなり、その遺産から大口寄付があったそうだ)
・政府からの資金援助は一切受けていない

フッカー望遠鏡のドーム 周囲には太陽望遠鏡や干渉計も含め大小のドーム10機ほどが見える


「日本の公開天文台は歴史が浅い施設が多いが、ウィルソン山天文台のように100年以上続く天文台になるにはどうすべきか?」

それぞれの天文台にはSTORYがある。(各国事情が異なると思うが、)自分たちのSTORYや活動の成果・意義について、しっかり世の中に伝えることがもっとも重要だ。(要約)

助成 公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
助成 全国科学博物館協議会(東京都)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?