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グリフィス天文台速報レポート (天文アウトリーチで巡る米国天文台調査の旅(5))

※注意※ 天文アウトリーチに関わる方の目線で書いています。

天文アウトリーチの文脈から見て、一言で表すと…《年間来場者数160万人、独自の哲学を貫く世界有数の公開天文台》

毎月1度開催されるStar Party Day。治安が決して良いとは言えないロサンゼルス夜に数千人が集まるイベントだが、犯罪やいざこざは一切起こったことはないという。

グリフィス天文台って?

・グリフィス天文台は1935年に建設された公開天文台、現在はロサンゼルス市が運営を担当しており、基本的に全スタッフが市の職員。
・生前ウィルソン山天文台にいたく感激した資産家のグリフィス・J・グリフィス氏の遺産により建てられ、「天文台を無償公開すること」等を条件に、天文台やGreek theaterなどを含め1740㌶におよぶグリフィス公園すべてがロサンゼルス市に寄付された。
・2006年に四年間に及ぶ大規模な改築工事を完了。地上部分しかなかった施設に大規模な地下空間が増設され、西にはサンセットを観察するに最適なガラスのテラスが設けられた

グリフィス天文台からロサンゼルス・ダウンタウンを望む。世界有数の夜景スポット。

・その美しい建築で、多数の映画のロケ地に選ばれる
・現在は映画「ラ・ラ・ランド」の大ヒット以降、来館者が激増した状態にあるとのこと。
・駐車場が以前は無料→今は管理のために有料になっている。それでも施設周囲に駐車するのは困難を極め、山に至る路上は駐車車両だらけになっている
・グリフィス天文台は入場無料の施設で、お金がかかるのはプラネタリウム料金(8ドル程度)のみ。
・これはグリフィス財団からの譲渡条件に従ったもので、今後も「将来にわたり8つの出入り口はすべて開放、無料の施設」として公開を続けるとのこと。

・コロナ以前の来館者数は、圧巻の年間平均160万人
・ロサンゼルス市民に知らぬ者はいない、「ロサンゼルスのシンボル」のひとつ
・有名なハリウッドサインがすぐそばにあり、ハリウッドの映像スタジオも周囲に多数

副題長級のマークさん。奥の肖像は館名にもなっているグリフィス氏。

調査の様子

・担当してくれたのはMarkさん。トップマネジメントのひとりで、副台長級。
・まず月1回のStar Paryが開催される土曜日に来館し、一般公開の様子、プラネタリウムを観覧
・次にファウンダー(寄付を通して天文台を支援する方、必ずしも足繁く羅漢する方とは限らない)向けの特別公開が開催される月曜日に来館し、マークさんをロングインタビューし、その後天文台・プラネタリウム(Star Talk)・館内特別公開に参加
・マークさんは25年前にグリフィスのボランティアスタッフからはじめた現場からのたたき上げ
・グリフィスの歴史にとても明るく、「哲学」という単語をよく使いながら時かに熱弁をふるい運営について大いに語っていただいた
・『自分たちは「公開天文台(Public Observatory)」だと認識している。ここはMuseumではない。館内のすべてのデザインには、一般の人がObserverになれるような工夫に満ちている』

300席のサミュエル・オースティン・プラネタリウムシアター。投影機はCarlZeiss Mark Ⅸ、プロジェクターは6台で8K解像度。

プラネタリウムと天文台

・投映は、まるで映画のような極めて完成度の高いハイブリッド投映とBGMに、解説者が情感豊かに生解説する30分番組。
・映像+音楽はハリウッドスタジオと協働し、20名のスタッフで4年間かけて制作
・予算は驚愕の800万ドル、しかしすでに400万ドル回収した
・プログラムのコンセプト「Sign of Life」は15年ずっと同じで、ログラン公演を続けている。
・ただし、最新の天文学の成果に基づき、映像と台本は定期的に作り直している
・小さなカットにも細心の注意が払われており、能動的な演出に合わせて絶妙な生解説のライブプレゼンテーションが加わる
・生解説が出来るスタッフが13名。全員少しずつ解説のテイストが異なるそうだ。

・実際に拝見した感想… まるでミュージカルのような完成度。大人から子どもまで文字通り魅了するプログラム。少なくとも演出面では間違いなく世界最高峰。
・投影機はZeiss Mark9 星像はきわめてシャープで、最新の投影機と遜色ない実力
・デジタル投映、プロジェクタは6台、解像度は8K

2002年まで現役だったCarlZeiss MarkⅣ投影機。1955年公開の映画「理由なき反抗」の時は、さらに先代のMarkⅡ投影機だった。

・ドームは東西に2棟ずつ
・ひとつには、望遠鏡はCarlZeiss(イエナ)1982年製12インチ屈折望遠鏡
・天文台は夜の時間のみ公開(調査時は月を見せてもらった)
・電視観望のディスプレイも設置
・星像はきわめてシャープで、ロサンゼルスの気候がたいへん落ち着いていることを示している(猛烈な光害があるが…)
・もう一方は、立ち入り不可の太陽望遠鏡専用のドーム。
・電視観望で得られるリアルタイムの太陽面が館内に投映されている

CarlZeiss口径12インチ望遠鏡。写真で女性がのぞいている望遠鏡は、かつて車の天井に直接据え付けられていた(?!)移動式望遠鏡だったそうだ。

"Star Party" と、パンデミックによる危機

・スターパーティーというイベント日を毎月設定している
・スターパーティーの概念は、日本のそれとほぼ同じ
・LAAS(ウィルソン山天文台参照)はじめロサンゼルスの3団体と協働し、グリフィスの敷地内に団体会員が望遠鏡を出し、自由に一般市民に公開している
・グリフィスも3台の望遠鏡を出している、他の望遠鏡も含める10本以上
・グリフィス側がやっているのは、(1)相談の上で年間予定を決定、(2).場所の提供、(3).現在は入館者へのワクチン接種の確認のみ。
・グリフィス側は、一切マーケティング活動を行っていない
・「来館者がSNSで自由にマーケティングしてくれる。天文現象にはTV中継の申し入れもある。映画のロケ地になって知名度が上がる。私たちがやることは『本当になにもない』。」
・10年以上前からやるようになったそうだ、「気づいたら今の形になっていた」
・スターパーティーは、ロサンゼルスの夜とは思えない和やかな雰囲気
・「グリフィスのスターパーティーで、悪いことをする人、怒り出す人はひとりもいない」
・「ロサンゼルス市民はここを大切な自分の場所だと思っている。」

Star Paryがはじまるまで、来館者は思い思いの場所でサンセットを楽しむ。ロサンゼルスは冬の時期をのぞいて毎日快晴だ。

・コロナで職員の40%が去った
・解雇したわけではないが、公開活動に並々ならぬ情熱を持っていたが故に、13ヶ月におよぶ休館は職員のモチベーションを奪うことは簡単だった。
・現在スーパーバイザー級の職員が不足しているが、人を育てるには時間がかかる、解消には時を要する
・職員の育成は、スーパーバイザーが集中して手がけ、(現場の一般職員の場合、)人によって2週間~6週間程度で完了する
・先週(9月末)から週5開館、2022年前半に4日開館、去年は3日開館でリスタートした
・できれば年内に週6開館に戻りたい

エントランスに設置されたフーコーの振り子。館内はアールデコ調でたいへん美しく、建築としても評価が高い。著名な映画の舞台になるのも頷ける。

グリフィス天文台の運営形態

・施設の組織は、3-4名ほどのトップマネジメント、4名のスーパーバイザー(2名:コンテンツ・プログラムのマネジメント、2名:オペレーションや施設のマネジメント)、60名ほどの一般職員+週20時間以下のパートタイマーで構成される
・職員はすべてロサンゼル市の職員
・一般職員のうち半数は施設や設備の専門家であり、半数が公開活動に関わっている。
・現在カリフォルニアの賃金が急激に上昇しており、以前はアドバンテージがあったグリフィスの給与も見劣りするようになってしまった
・かつては職員募集に多数の応募があったが、今は目に見えて激減している
・なんとか待遇を挙げたいが、市の施設なので時間がかかる。難しいところだ。

ロサンゼルスの夜景とPublic Observing。シンチレーションが極めてよく、土星のカッシーニの間隙なども容易に見えた。

グリフィス天文台の「哲学」

・グリフィスは「人による解説」をきわめて重視している。
・プラネタリウム、展示、チケット売り場も含め、すべて人による対応を継続している
・現在の「科学館の自動化の潮流には真っ向から反対」の立場を取っているそうだ
・人が語ってこそ、人に伝わる。「グリフィスは人と人のつながりが作った施設。」
・美しい自動映像、著名人のナレーション、すばらしいかもしれないが、それが主役になるような展示をグリフィスはよしとしない。
・業界団体としては唯一IPSに加盟しているが、職員を派遣したことはなく、ちょっとした報告を投稿しただけ。
・「我々の哲学に従い、私たちは独自の道を歩む」
(要約)

・もう一つ、「やるべきことを、ちゃんとやること」。時間になったら扉が開き、各自の任された仕事を適切に行うこと。またそのチェックを欠かさないこと。
・マークさんのようなトップマネジメントから、スタッフ全員へメールを出すことが年数回ある
・その場合は内容や言い回しに細心の注意を払い、自分たちの意思をしっかり伝えることに細心の注意を払っている
・現場とのコミュニケーションをきわめて重視している。
・時を惜しまず、いつでも議論に応じる開かれたトップマネジメントであろうと努力している。
(要約)

助成 公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
助成 全国科学博物館協議会(東京都)

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