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パロマー天文台(カリフォルニア工科大学) 速報レポート (天文アウトリーチで巡る米国天文台調査の旅(4))

※注意※ 天文アウトリーチに関わる方の目線で書いています。

天文アウトリーチの文脈から見て、一言で表すと…《数ある制約の中で、社会の繋がりを決して絶たないリサーチ天文台》

1948年完成、口径5m(200インチ)反射望遠鏡と主鏡蒸着用のチャンバー

パロマー天文台って?

・パロマー天文台は、カリフォルニアのパサデナ南東260kmに位置する、標高1700mのパロマー山にあるカルテク(カリフォルニア工科大学)所属の天文台。
・現役のリサーチ専門の私設研究機関
・ステークホルダーによって明確に優先順位が決まっている。第1に観測、第2にメンテナンス、そして空いた時間のごく一部がアウトリーチの時間となる
・ウィルソン山の台長も務めたヘールらの努力で、ロックフェラー財団から資金援助を受け設立。ロックフェラー財団の支援は現在も続く。

・1936年にドームが、1948年に200インチ(5m)「ヘール望遠鏡」が完成。1975年まで世界最大の望遠鏡だった。
・1948年に48インチ(1.2m)シュミット望遠鏡も完成し、POSS(パロマー天文台スカイサーベイ)が行われ、20世紀後半の天文学のめざましい進歩を支える基礎資料となった。
・日本でも1970年代に発売された「巨人望遠鏡がとらえた宇宙の姿 パロマ天体写真集」まどが有名、かつての天文少年の胸に深く刻まれている
・周囲はたいへん景色の良いワインディングロードで、週末なのもあって趣味のバイク乗りがたくさんいて楽しそうな様子。
・(日本でSoftbank的な立ち位置の)主要な通信会社であるT-mobileでは、付近の山はほぼ全域が圏外で、連絡に困った。。

口径5望遠鏡のドーム入口。技術的な難しさから、望遠鏡完成にはドーム完成から12年もの月日が必要だった。

調査の様子

・事前Zoom調査ではトップマネジメント級のアンディさんが対応したが、現地調査ではアウトリーチの現場に携わるSteveさんに90分ほどお話を伺った。
※本速報はSteveさんからの調査に基づく情報のみ※
・Steveさんはボランティアスタッフから入り、現在はアウトリーチ活動に従事するためにパロマー天文台(カルテク)の職員という立場。
・現場に立って13年とのこと

ヘール望遠鏡とSteveさん。1975年まで世界最大の望遠鏡だった。

口径5m(200インチ)ヘール望遠鏡

・1936年にドームが、1948年に200インチ(5m)「ヘール望遠鏡」が完成。1975年まで世界最大の望遠鏡だった
・有効口径508cm、副鏡も口径104cmに達する巨大なもの
・現在のドーム、望遠鏡ともに建造当初のオリジナルを用いている
・赤道儀は英国式をもとにした馬蹄型であり、極方向の観測も可能
・その製造の難しさにより、計画は7年遅れで達成された
・カセグレン焦点はF16、クーデ焦点はF30

・ドームと望遠鏡本体は基礎を共有しておらず、ドーム稼動時の微振動が伝わらないように設計されている
・パロマー山は建造当時の調査で天体観測に最適の場所であると結論づけられた場所だが、2つの活断層に挟まれた地域にあり、ドームや望遠鏡はM7.5の地震にも耐えられる設計となっているとのこと
・建造当初の頃は鏡の蒸着には銀が使われていたが、パロマー天文台の所属するカルテクによってアルミニウム蒸着が開発され、現在も主流となっている

・ヘール望遠鏡は、建造当初はニュートン焦点で眼視観測も行われていた
・現在もメンテナンスに使用する空中通路(?)を通じて、望遠鏡の頂部付近に「乗り込んで」観測を行っていたそうだ

右がドーム外壁、左が望遠鏡基部、それぞれ独立している。奥の2つの巨大な円状構造物は、望遠鏡駆動ギアの予備パーツ。

現役のリサーチ天文台で行う公開活動

・パローマ天文台は100%観測のための天文台であり、アウトリーチを目的とした施設ではない
・施設の公開は土日に各3回30名定員1時間のツアーを実施するのみ
・望遠鏡の整備などの関係で、ツアーを中止にすることも頻繁にある
・施設の使用時間は厳格に管理され、自由に出入りすることもできないし、超過滞在し許されない
・ツアーには現在30名いるボランティアスタッフが担当している
・ボランティアの教育用にマニュアルを整備している
・現時点では昼間の施設見学ツアーのみであり、夜間の天体観察をともなうツアーは実施していない

・コロナのパンデミックで厳しい入館制限を受け、2年半にわたって現在も関係者以外は立ち入り禁止の状況が続く
・今回の現地調査もワクチン接種証明書の事前提出をした上で、特別な許可をいただいたことで実現した。

・休館を機に、天文学者や専門家がZoomで解説するオンライン授業を開講
・現在も2週間に1度のプログラムを継続している
・Steveさんがホストをしているが、講演はしない
・プレゼンターを見つけるのは大変ではないか?→「カルテク」の名前は相当有効で、プレゼンターを見つけることに苦労したことはない。みなよくやってくれる。
・非常に好評で、リーチ出来る人数も格段に多く、パンデミック後も続けていく可能性が高い
・ただし、通常のツアーもオンライン授業も継続していくことはマンパワー的に困難なことが予想され、なんらかの変更を加えないと継続は難しいかもしれない。Steveさん個人としては「不安だ」とのこと。

英国式をもとにした馬蹄形の赤道儀。極方向の観測も可能。

Q:パロマーは研究機関であって、アウトリーチに取り組む必要性はあるのか。

・大いにある。パロマー天文台が建設当初、切手になったり雑誌の表紙を飾ったり、一般の人に愛された。しかし今は「まだあるの?」という人も少なくない。
・パロマー天文台は施設天文台であり、地域に自分たちの存在を知ってもらうことが重要だ
・また、パロマーには天文クラブ的な団体は存在しないが、ボランティアそれぞれが自分の地域で天文クラブに所属し、間接的なつながりを保っている
・子ども達に「カルテクに入りたい」「カルテクでこの望遠鏡を使いたい」と感じてもらうことも大事にしている
・いかに観測用の施設であっても、地域社会とのつながりをないがしろにすることはできない。

Q:パロマーでのアウトリーチの難しさはどのようなところか

・パロマーは私設の研究機関であり、ステークホルダーによって明確に優先順位が決まっている。第1に観測、第2にメンテナンス、そして空いた時間のごく一部がアウトリーチの時間となっている
・アウトリーチの現場に立つ者としては忸怩たる思いがあるが、受け入れていかなければならない
・施設の資金は十分に(?)まかなわれているので、アウトリーチの予算に関して現場が関知することはない
・言い換えれば、アウトリーチの予算が取れない時期は、アウトリーチを停止するだけだ
・私はこの天文台が好きだ、この巨大なヘール望遠鏡を見て、子ども達が歓声を上げるのが好きだ。
・パロマー天文台にとってアウトリーチが必ずしも重要で無いことは理解しているが、私はここで活動を続けていきたいと思っている。

助成 公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
助成 全国科学博物館協議会(東京都)

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