利他的行為が自身の幸福感を高める 寄付の広がりは社会にとってプラス

自分のためにお金を使うよりも、他者のためにお金を使った方が幸福感が高まるという研究結果がある。有名なところでは、Elizabeth Dunnらが2008年に行った実験だ。

実験は簡単だ。まず、被験者全員に5ドル入りの封筒を渡す。そのさい、被験者を2つのグループに分け、それぞれのグループごとに異なる指示を記した紙を入れておく。

●一方のグループ:「今日の午後5時までに、自分への贈り物か、自分のための支出(たとえば、家賃、支払い、または借金の返済など)のどちらかのためにこの5ドルを使ってください」
●もう一方のグループ:「今日の午後5時までに、だれかへの贈り物か、チャリティーへの寄付のためにこの5ドルを使ってください」

実験前後で被験者の主観的な幸福度がどう変わったかを調べると、有意な差がみられた。「自分のため」と指示されたグループよりも、「他者のため」と指示された方で、より大きな幸福度の上昇があったのだ。

また、実際に起きた出来事を経て、幸福感がどのように変化したのかを調べた結果もある。「日本の家計行動のダイナミズムⅧ  東日本大震災が家計に与えた影響」(慶應義塾大学出版会、瀬古美喜・照山博司・山本勲・樋口美雄 慶應–京大連携グローバルCOE編)の第9章「東日本大震災の幸福感への影響」(石野卓也、大垣昌夫・亀坂安紀子・村井俊哉)で、東日本大震災発生前後の人々の幸福感と利他的価値観の変化と寄付行動の関係を分析したものだ(分析は、被害の大きかった岩手県、福島県、宮城県を除いている)。利他的価値観とは「他者のために」という考えぐいらいに理解しておけばよい。

●結果:①約7割の人々の幸福感は変化しなかったが、変化した人々の中では幸福感の上がった人々が多く②約6割の人々は震災後に自分よりも他人のことを優先する利他的な価値観が変化しなかったが、変化した人々の中では利他性が強まった人々が多かった。

「震災関連の寄付を行った人や震災前に生命保険に加入していた人は、幸福感が上昇しやすくなっており、利他的価値観が強くなる傾向が示された。これらの結果の有力な解釈としては、もともと自分の死後を考えてまわりの人々を気遣って生命保険に加入しているような利他的価値観の比較的強い人々は、大震災を契機に他人のために寄付行動をする傾向があり、このような行動によって幸福感が高められ、利他的価値観が強められる効果がある、というものである」(同書269P)

要は、他者のためにと考えて行動すると、自分自身の幸福度がどうやらアップするらしいということだ。ちょっと小難しく言えば、利他的価値観が寄付行動によって変化し、幸福感の向上をもたらすとともに利他的価値観を更に高める可能性が示唆されているといえるだろう。

ほかにも、こうした傾向を示唆し、支持する実験や分析は数多い。他の動物にはみられない大規模な相互扶助関係によって社会集団を形成している人間らしい結果だと考える。利他的な行為はめぐりめぐって自身の生存、自身の遺伝子を後世に残す可能性に対し、有利に働くといっていいだろう。「情けは人のためならず」を明確に認識しているかどうかは別にして、利他的行為は自身の幸福感によって背中を押される。

利他的行為である寄付が幸福感の向上につながり、それによって恩恵を被る人々が増えるとすれば、寄付行為を促進させる社会的政策の導入は褒められこそすれ、非難される選択肢ではないだろう。より多くの人が幸福を感じられる状況を実現することこそが、社会が目指すべき姿だということに異を唱える人は、おそらくいないだろうから(幸福とは何かという問題は置いておく)。つまり、そうした社会政策の導入は、社会にとって間違いなくプラスになるといえるのだから。

こう考えれば現状、寄付行為に水を差すことになりかねない「みなし譲渡課税」(詳細は省くが、土地を寄付しようとすると、いろいろと厄介ごとが生じる可能性のある税制)のような政策の見直しを求める根拠になりうるのではないか。遺贈寄付の広がりを期待する身としては、もう少し考えてみたいテーマだ。

#遺贈寄付 #寄付 #利他 #ボランティア #幸福 #集活

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星野 哲

ライフエンディングサポート

人生最終盤を社会でどう支えるかを考えたい。死に関すること、介護のことなどをテーマにした文書をまとめます。
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