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世界には人間という怪物がいるじゃないか!

レイ・ブラッドベリのSF短編集「ウは宇宙のウ」のなかに「霧笛」という作品がある。はるか大海の底から、巨大な怪物がやってくる話である。恐竜の生き残りが、灯台の霧笛の音を仲間のほえ声と信じ、会いにくるのだ。

おそらく、年齢は100万歳。絶滅を逃れた最後の一頭だという。いったい彼は何を思い、やってくるのか。そんな作者の問いが、たまらない。「100万年のあいだ、ひとりぼっちで、二度と帰ってこないものの帰りを待ている」のはどんな気持ちだろうかと。

1934年4月21日、ちょうど90年前のきょう、英国の新聞に一枚の写真が掲載された。写っていたのは、水上に長い首をもたげ、悠々と泳ぐ何か。後に誰もが知る「ネス湖のネッシー」だった。

すでに1世紀近くが過ぎ、科学的に恐竜の生き残り説などはありえないとも言われている。問題の写真はおもちゃの潜水艦を使ったトリックだったと当事者が告白し、捏造が判明した。ただ、それでも、ネッシー探しは止んでいない。昨年も過去最大級の捜索があったほどだ。

なぜ、ひとは怪物の話が好きなのだろう。アメリカ文学の巨人ジョン・スタインペックは記している。「得体の知れぬ怪物のいない海は、まったく夢を見ない眠りのようなものであろう」

ネッシーがいないと完全に証明された世界と、どこかに怪物はいるかもしれないと、みんなが思っている世界。どちらで暮らしたいかと問われれば、あなたならどう答えるだろうか。

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