高円寺上京ものがたり(五)

私が初めて新幹線で東京へ行ったのは、大学卒業後に就職した出版社の夏休み。

大学の友人が栃木に住んでいるので遊びに行くことになり、また、職場の同期も東京へ里帰りするとこのこと、一緒の新幹線で東京までいくことにした。

確か、同期は、ハムスターを連れていたように思う。

それまで、子供の頃に家族で乗ったことはあるけど、ほとんど新幹線に乗ったことなかった私は、乗車券と特急券の二枚を改札に入れないといけないとか、乗車券は大阪市内も乗れるとかほとんど知らなかったので、同期に驚かれた。

多分、その帰り道、東京で観光したのだが、東京タワーの縮尺を、通天閣や京都タワーで考えていたため、東京タワーに着くまで3、4時間歩いて終わった気がする。

そんなことを思い出したけど、私の東京のイメージは…夜行バス・明治神宮、連雀亭、スタジオフォー・ロフトベッド、南千住・日高屋。

友人が一時期、二子玉の方に住んでいたので、行ったことはあるけど、東京で時間がある時にブラブラする場所はほぼ決まっていて、明治神宮ついでの原宿か、浅草寺あたり。

その後、繁昌亭でご一緒し、仲良くなった芸人の方が高円寺に住んでいたので、高円寺もランクインすることになる。

最近、短期記憶倉庫がいっぱいすぎて、時系列がわからなくなるのだけど、最初に高円寺へ行った際、商店街が主催する寄席に出演させてもらったんやと思う。(こないだ調べてもらったら、そうだったし)

そのとある芸人さんは、高円寺に住んでいて、小さい子供さんもいて、高円寺のとあるお蕎麦屋さんの親方と女将さんから、すごく可愛がられていた。

ある年、連雀亭で二日ぐらい勉強会をし、その前後にも寄席の出番を頂けることになり、四日ぐらい東京に滞在することになった際、ホテル代がかかるやろうということで、そのお店に泊めてもらえることになった。

いや、どういう流れでそうなったのか、結局、覚えてないのだけど、とにかく、お店の奥の階段には、今まで寄席に出た芸人のサインが飾られてて、二階の部屋には『寄席芸人伝』が全巻揃ってて、そのまた奥には物干しがあって、それを抜けるとシャワー室があって…という、一体、どういう作りやねん?という感じやけど、昔のドラマ『時間ですよ』みたいな空間があって、とてもワクワクした。

四日間のうち、今、思い出したけど、一日は、前の歌舞伎座にお芝居を見に行った気がする。

仕事は大体、夕方からなので、お昼は時間があり、仲良くなった芸人と、能管の稽古をしたり、高円寺のカフェで噂話をしたりした。

そして、落語会が終わって帰ってくると、仕事と仕込みを終えた、おやっさんとおかみさんがお酒の用意をしてくれ、「ま、いっぱい飲めや」と宴会が始まった。

店の張り紙には「夜0時以降は飲まない」と書いてあるのに、毎日、1時か2時ぐらいまで飲んでたと思う。

そんなわけで、翌日は、昼過ぎまで爆睡…

そして、バタバタと落語会に行き、「今日こそは、明日のお稽古をして早く寝よう」と思いながら、宴会が始まり、深夜まで飲む。


そんな三日間だった。


こないだ、久しぶりに高円寺のそのお店に行ったら、お昼の営業が終わり、仕込みをしないといけないと言いながら、ビールと日本酒と焼酎が出てきた。

長期滞在はその年だけだったけど、すごく思い入れのある3、4、5日?(結局、何日、泊まったかも正確には謎)だったし、こないだ久しぶりにおやっさんとおかみさんに会って、「正直、自分って落語で評価されてないよなぁ。自分でもこれというものないし…」と情けなく思うこともあったけど、「自分しか、通ってない過去ってあるんやな」としみじみ思い、酔っ払った。めちゃいい夜やった。

<続く>

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