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【小話と】???の物語【ナニカノクラフト】

ありがちな異世界転生魔王系の小話と、今回は歯車を使った工作の紹介です。第十章は魔王様がおやさい以外のものをつくる話です。でも、そんな時もあるよね、という話でもあります。雰囲気だけでも感じ取って頂けたら幸いです


『流れ』というものがある。


良い流れ、悪い流れ、それらは両方存在し人生を翻弄する。
ただしい方向に向けられた努力は裏切らないとは思う。しかし悪い流れに囚われてどうにもこうにも全てが滞ってしまうことは確かにある。その流れをうまく断ち切ることも努力の内なのかもしれないが、時には荒れ狂う嵐が通り過ぎるのを待つように、じっと耐え忍ぶことも肝要だ。

逆に良い流れをどう捉えて利用していくか。気が付けばするり、と通りすがるそれを掴み取って、自分の糧としてコントロールしていくか。運にもある程度左右されるものだし、基本的には上手くいかないことばかりだ。しかし、ここだと感じた瞬間には全力を出せるようにいたいとは思う。遮るものをかき分け、がむしゃらに手を伸ばし、しっかりと掴み取る。輝くそれを逃さないように。

「(そして、いま僕の元に流れが来ている)」

すっかり更けた夜に、松明の光が曖昧に揺らめく。魔王は机に向かい、手をひたすらに動かしていた。傍らには宝石と資材の山……と、夜食用のサンドイッチが置かれている。時には宝石を松明に照らし、時には資材を次から次へと手に取りながら、魔王は手元の作品を創り上げていく。心に火がついていた。漠然とした流れに身を任せ、夢中で作業に取り掛かる。


魔王が顔を上げる頃には、すっかり部屋には朝日が差し込んでいた。


「……それで……これは何なんですか、魔王様」
「……わからない……」
「どこに飾ればいいのでしょうか……?」
「それもわからない……無我夢中でつくってしまったんだ」

朝のひざしが真上に訪れる頃。魔王は遅い惰眠を終え————頭を抱えていた。
目の前には昨晩形になった作品。歯車と時計の針、そして宝石が組み合わさった『何か』であった。

繋がった二枚の翼のような形状の歯車の集まり。古めかしい色合いに、青と金の宝石の色が映えている。左右対称につくられたそれはどこかのびのびと広がっているが、問題はその大きさだった。

「服につけるには大きすぎますし……巨人の魔物の腕輪には丁度いいかもしれませんが、なかなか数が多い種族ではないですからね……」

触手の少女は加工のための道具と見比べて、その大きさに眉尻を下げた。持ち上げてみても、重量感もそれなりだ。下手なつなぎ方では鎖が切れかねないし、あまり振り回すと自壊してしまう可能性がある。それだけ歯車同士は繊細に結びついているのだ。用途に困るのも致し方無い。

魔王は「良い流れが来たと思ったから、つい」と語った。ひどく申し訳なさそうに、恥ずかしそうに、ばつが悪そうに、玉座の上で膝を丸めている。

「流れが来た、そう思って手ごたえややりがいを感じても、泡沫の夢の世界が見せるまやかしかもしれない、と疑うことが時には必要だということを学んだよ……」

しばらくはこれの用途を考えなければならないな、と作品をつつきながら魔王はため息をついた。

触手の少女は何と声をかけるべきかしばらく悩んだが、ぽん、と手を叩く。


「狼くんを呼びましょう!」
「……すごく笑われる未来しか見えないのだけれど」
「それでいいんです!魔王様が良い流れだと思って実際はそうでなかったと思うなら、笑い飛ばしてもらえばいいんですよ。それはもう豪快に!」
「そういうものなんだろうか」
「そういうものですよ。少なくとも、玉座の上でじっと丸くなっているよりかは良いと思います!」


良い流れと悪い流れ、というものがある。
それらは両方確かに存在し、どちらかはわからない顔で訪れて人生を翻弄する。

成功する方が気分は良いし幸せに感じる。良い流れだけを掴み取って生きていきたいと思うのは当然のことだ。
しかし、そううまくいかないのが人生の定め。良いと思って満足した流れが、よくよく見てみれば悪い流れだったと挫折することは頻繁に起こりうる。

その時に豪快に笑い飛ばして、共に考えてくれる仲間や友達がいることは、成功とは関係ない場所での幸せの形のひとつなのかもしれない。その瞬間は恥ずかしいが、失敗の思い出を明るい笑いに変えて、後に思い出しやすくすれば今後の糧にもなるだろう。

何より、笑顔で悪い流れを断ち切れるならそれに越したことはない。


「魔王サマ、今日は何のご用命で……って、それ、魔王サマが創ったの?かなり迫力あるモン作ったねぇ!」


溢れんばかりの笑いが決壊する数秒前、といった面持ちで、狼の魔物は口を押えている。

深夜のテンションとは恐ろしいものだ。悪い流れを良い流れと錯覚させる魔力を持つし、一度始めたらやめられない魅力がある。そして出来たものは、ツッコミどころしかない未知の産物であることが多い。


しかし、笑いを生み出すにはうってつけかもしれない。


次はひとりで流れを掴もうとせず皆に手伝ってもらおうか、そんなことを考えながら、魔王は来るべき爆笑の渦を前に肩を竦めて笑った。


さて、第十章はよくわからないなにかの物語です。
【夜彩(やさい)】だけではない、魔王様の創像作品をご紹介しました。
夜中に楽しくなってついやりすぎてしまうこと、よくありますよね。
僕自身も何度もありました。そういう時の作品を紹介するのは少し恥ずかしいのですが、笑いに変えられれば何よりかな……と思い、この作品をチョイスしてみました。本当にだいぶでかくて、加工に困っています。
どなたか「こうすれば少しはマトモに見えるんじゃないか!」という案があったら教えていただけるとありがたいです。いやほんと。
こんな感じにおやさい以外のものを紹介する時もあるかと思いますが、もしよろしければ引き続きご覧ください。
閲覧ありがとうございました。

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