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【小話と】『れたす』の物語【レジンクラフト】

ありがちな異世界転生魔王系の小話と、レジンの野菜の紹介です。第十一章は新たな出会い、そしてまた一話完結でないお話です。雰囲気だけでも感じ取って頂けたら幸いです。

春は出会いの季節だと、世の人々は言う。
当たり前だ。春は人間関係に変化が起こりやすい、「終わり」と「始まり」のイベントが多いのだから。

しかし、それと「真の意味で出会えるか」は別問題である。
ヒトとヒトが関わり合うすがた、真の意味で出会うためには何かしらの自発的な行動が必要になってくる。

青年がかつて魔王ではなかった頃、出会いというものに対する欲がなく、ただひたすらそこに在るだけでいた。自ら話かけることもせず、用件だけ聞き、無理ではなかったら適度に応える。
周りに誰もいなかった訳ではない。けれど、距離は離れていた。

青年は「応対から機械的さをなくすのが下手だ」と考えた。他の人々の内心はわからないけれど、皆人間らしく見える。ちゃんと笑って、悲しんで、憤って、また笑っている。

そして人と出会って、関わり合っている。

そんな姿に憧憬を抱きながら、自分には無理だと諦め、在るだけでいた。
そして異次元に連れ去られ、命の危機に瀕して知った。

「(今ではわかる。僕はただ傷つくのが怖かっただけだ)」

ヒトと関わり合うことで生まれるものは、良いものだけではない。傷つくこともあり、傷つけることもある。傷つけたことで傷つくこともある。
関わりが親密になればなるほど、被る傷は大きくなる。より弱い部分を晒し、相手や自分の剣はより深くまで届くのだから。

「(......一度死んだと思ったせいだろうか、今はあまり怖くはない)」


死の縁をさまよい、伸ばされたちいさな手を掴んで思った。

「このままでは死にきれない」

「生きて何かを返したい」


在るだけではなく、何か渡したい、関わりたい。
返し続けられてはいると思う。思っているだけかもしれないが。

やっていくことは変わらない。魔王としての務めを果たす。民と関わり合う。この風変わりな次元で生きていく。

今日も空気は穏やかだ。空は澄み渡り、川のせせらぎが耳をくすぐる。
ふと、見知らぬ光景に視線を落とす。


ちいさな緑の花だ。花弁は透明感をもっている。
しかし、何かがおかしい。その中心には蒼く輝く宝石がついている。
手を伸ばして触れると、硬質な冷たさを纏っていた。
どうやら花の形をした鉱石らしい。ちいさなそれは、耳飾りにするのがちょうど良さそうだ、と創像の世界に思考を沈ませる。



しかし、それどころではない。
手折らないように、慎重に指先を離す。道の先を見れば、数々の同じ緑の花が咲き誇っていた。
慎重に歩みを進める。花は数を増し、深緑の花畑で彩る。

その中心。蒼い人影が倒れていた。近づいてみれば、豪勢な鎧を身につけた女性だ。長い黒髪が砂ぼこりにまみれて広がっている。

「人間......にしか見えないな」

そう、どう見てもその姿はヒトのものだった。
特に特別なものも生えていない。毛皮もなく、形の異質さも感じられない同じ純正の人間に
見える。

さてどうしたものか、と魔王の青年は首を傾げた。



「はい、確かにこの方は普通の人間でしょう」
「確かだと思うぜ、魔界の魔物のニオイが全くしねーからな!」


魔王は触手の少女と狼の魔物の言葉に頷いた。 結局女性を背負って魔王城へ連れていき、治療の魔技に心得がある触手の少女に診てもらっていた(狼の魔物はいつの間にか現れた)。

女性はどうやら魔力切れで気を失っているだけらしい。近くに咲いていた緑の花の鉱石も、 異なる次元の魔力に反応して世界から生み出された偶然の産物。この世界自体が鉱石......金の属性を帯びており、異なる次元の人間に異物反応を起こした可能性がある、と触手の少女は語った。

「呼んでない異次元の人間が迷いこむこともあるのですよ。私達の中で誰も力を行使していない場合の来訪者、その場合は大概......」

「貴様が魔王か、故郷の皆の仇!!その首討ち取らせてもらうッ!!!」

触手の少女が語り終える前に、女性が立ち上がりどこからか白い光を纏った蒼い両手剣を構えていた。美しい弧を描き放たれた斬撃は、魔王に届く前に防がれる。

「今回の魔王殺しの迷い人は威勢の良い嬢ちゃんか!だが、そう簡単には魔王サマには触れさせねぇぜ!!」

刀の一振りで相殺した狼の魔物が、瞳を獰猛に輝かせる。
触手の少女も魔王への防御の魔技の詠唱を始めている。
魔王の青年はひとつ大きく息を吐いた。そして大きく吸う。まだ血の香りもない、綺麗な空気で身体が満たされるのを感じると、二匹の魔物を手で制す。黒髪の女性を見れば、何事かと強い眼差しで蒼剣を構えている。

「剣を下ろしてほしい。私は確かにこの世界の王、魔王だ。しかし貴女の故郷に何かをした覚えはない。人違い......魔王違いではないだろうか?」 

「戯れ言を!貴様は魔王で、そこにいる二匹は魔物なのだろう!?討ち取らずして、故郷に帰れるか!!」 

「目的を違え、関係無い者を殺める行いは、貴女の故郷では誇られるものなのか?」

 「五月蝿い!五月蝿い!五月蝿い!魔王の言葉なぞに惑わされるものか!!!」

勢いのままに放たれた感情的な斬撃が、魔王に届くことはない。
拳を握りしめた魔王は、不可視の壁に包まれたまま黒髪の女性に手を伸ばす。自分の名前を名乗ると、そのままの手で促した。

「まずは名を名乗るのが礼儀というものだろう」 

女性は目を見開き、やがて吐き捨てるように呟いた。 

「......聖騎士、エル。それが私の名だ」


さて、第十一章はれたすの物語です(まだ名前は出てきていませんが)。続きものの前編です。青と緑の組み合わせが好きなのがバレますね……また【夜彩(やさい)】の物語をしばらくは紹介することになります。
でもそれ以外にも実は色々つくっています。もしよろしければてんたこんのTwitterをご覧ください。閲覧ありがとうございました。

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