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【小話と】『秘密のへちま』の物語【レジンクラフト】

たくさんつくったへちまとなすのストラップ。そのひとつひとつに物語をつける新しい取り組みです。3個目は『秘密のへちま』。ちょっと回りくどい人々のお話。雰囲気だけでも感じ取っていただけたら幸いです。

「どうしてもひねった表現しかできない者はいるものだ」
「回りくどいのはよして素直に言った方がいい気はしますけれど」
「ま、今回作ってみたのもそんな小話だよ」


~『秘密』の平知誠(へちま)~




勝負をしましょう。わたしの秘密に辿り着けたらあなたの勝ち。でも、ヒントはあげる。全ての問いに、「はい」か「いいえ」で答えます。
あなたは面白そうだ、と頷いた。
わたしは心の内に秘密をしまい込んで、問いを待つ。


『それは触れられるものですか?』「いいえ、違います」
『それは音が出るものですか?』「はい、そうです」
『それは私が知っていることですか?』「いいえ、あなたは知らないでしょう」


そう、あなたのことだから知りもせずに問いを投げているんだろう。
答えに辿り着けないあなたと、答えを隠し続けるわたし。それが当然で自然なこと。
そうでもしないと、全て壊れてしまう。そう思ったから隠し続けていた。

『それは綺麗なものですか?』
言葉に窮して俯く。鍵をかけて、しまい込み続けたこの言葉は本当に綺麗なものなのか?
「わかりません」
そう答えてみた。そうですか、とあなたは思案にふける顔をする。

質問は続く。あなたが答えに辿り着くまで。または、あなたが答えへの道を諦めるまで。
後者になることを願って俯く。どうか諦めてくれますように。


『それは目に見えるものですか?』「いいえ、見えないものです」
『それは言葉ですか?』「……はい、そうです」


あなたは笑顔を浮かべた。まずい、知られてしまったかもしれない。この心の内にしまい込んだ秘密の言葉を。恐怖で身が竦む。答えを告げ、全てが崩壊する未来に怯える。それでもあなたは笑顔を絶やさない。
ひとつひとつ、裏返すような言葉が紡がれる。


『言葉にしなければ伝わらない』「いいえ、言葉にしたって伝わらない」
『隠し続けて見えなくなってしまったその言葉が』「いいえ、何も隠してなんかいない」
『本当に綺麗なことくらい、知っていたよ』「……いいえ、綺麗なんかじゃない!」

音もなく、あなたの手が伸ばされる。わたしは首を振って、大きく振って、「いいえ」を答えた筈なのに。
構うものかと近づく指先を拒絶したくて、隠したものに触れられたくなくて、必死に「いいえ」を答える。
それでも。


『それは触れられるものですか?』


壊れ物を扱うかのように触れるその手を、振り払って噛みついて傷つけて、真の意味で遠ざけることなんてできやしないんだ。


『この問答を始めたことが運の尽きだったね』「……はい、そのようです」
『拒絶できない程にあなたは平和を重んじ、私が秘密に辿り着ける可能性に勘づく程に知恵があり、何より答えは全て誠実に真実を答えた』「…………はい、仰る通り」


『面白い勝負だった。さて、勝者へのご褒美はないのかい?』
自慢げに微笑むあなたに、私は「いいえ」と首を横に振る。おや、これ以上の抵抗は無駄だ、とでも言わんばかりにあなたは肩を竦めて指先でわたしの頬を撫でる。その先をゆっくりと窪ませて、自分の手であなたの指先を捕まえた。確かな感覚は壊れそうにないほどしっかりと存在を手の中に収める。


わたしはまだ「はい」と「いいえ」しか答えていない。
この秘密の言葉は未だ心の中に隠し続けたまま。それでもあなたを捕まえた。


「本当の勝者はどっち?」



はい。何がとは言いませんがこういう話はこっ恥ずかしくて苦手です。どうやってもご都合主義な話になってしまうし……でももっとひねると長くなってしまうし……。このnoteのテーマのひとつが『素振り』なので、このくらいがちょうどいいのかな、とも思いつつも。夜中に削除するという感情が爆発しないように頑張ります。何を頑張るかは知りませんが。
閲覧ありがとうございました。

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